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アニメキャラの死の重みが軽んじられていったきっかけ

こんにちは。フォレスト出版の美馬です。

あだち充の『タッチ』のアニメリメイクをしてほしい! という話にはじまり、12月新刊『なぜあのキャラは死ななければならなかったのか?名作の「死」の描写で辿るマンガ・アニメ史』(浦澄彬・著)で考察がなされた『タッチ』の死の描写について、以前ご紹介しました。

本日は反響が大きくあった『新世紀エヴァンゲリオン』について、著者である浦澄彬氏の考察を特別にご紹介したいと思います。

最初のテレビアニメ版『新世紀エヴァンゲリオン』での、綾波レイの「死」と「再生」は視聴者に大きな衝撃を与えたようで、著者曰く、平成アニメの典型を作った‟時間SF”作品の位置づけになったとのこと。

そもそも、それ以前のアニメのキャラクターでは死んでも復活する例があったとしても明らかにSF的な設定であり、サイボーグ化や、心霊的に復活するというようなパターンだったようで、綾波レイのようなクローン体は、それまでアニメ作品ではほぼ登場しなかったと言います。

具体的にどういうことなのか、本書から一部抜粋引用して見ていきます。

(前略)
劇場版の1つ目は、『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』(1997年)というタイトルで、当初はテレビアニメ版の24話までの総集編と、25、26話を全く別の形にリメイクしたREBIRTH編とで構成される予定だった。ところが、またしても制作側の作業の遅滞があり、REBIRTH編の途中までで、一旦、劇場公開されてしまった経緯がある。
 その後、『新世紀エヴァンゲリオン劇場版DEATH(TRUE)2/Air/まごころを、君に』(1997年)というタイトルで、改めて公開された劇場版が、実際には放送に間に合わなかった本来の25、26話の完全版となる。この物語は、テレビアニメ版で地上波放送された結末とは全く異なる展開で、公開当時から今に至るまで物議を醸し続けているのだが、劇場版(ゼロ年代からリメイクされた新劇場版と区別するために「旧劇」と呼ばれる)最終2話の恐ろしい結末は、いくら90年代でも、テレビアニメとして放送されることはおそらく難しかっただろう。
 物語も残酷であるし、場面描写も残虐で、しかも性的に刺激的な描写だった。当時、リアルタイムで視聴していた筆者も、まさかその後、庵野秀明監督がリメイク版で劇場アニメとして作り直すとは想像もしなかった。
 今振り返っても、アニメ作品の死生観という観点で、本作以前と以後とでは明確に変化があったように思う。本作以降、死んでも蘇よみがえ
るキャラクターが増えたのだ。その分、キャラクターの「死の重み」が軽くなっていったと考えられる。

(中略)

彼女は当時から今に至るまでアニメジャンルのアイコンとなっているほどの美少女であり、主人公の少年シンジと心を通わせつつ、ある段階で突然死んでしまう。それだけでも視聴者としてはショックなのに、次の日に同じ顔形で何事もなかったように再登場する、という驚愕の展開だ。物語の中でシンジも当然大変ショックを受けるが、視聴者のほうも驚愕した。
 心通わせた少女が、過去の記憶をほぼ失って再び身近に現れるというのは、考えようによってはまるで拷問だ。それもたんなる記憶喪失というのではなく、全く同じクローン体である。遺伝子的にも同じで、見た目も全く同一人物なのに別人である相手と身近に接するのは、死んだ相手と心通わせていた少年にとっては苦痛でしかないのは容易に想像できる。

 日常の風景に突然、非日常が侵入してくるこのような展開は、平成になって以降のアニメの1つの典型になっていくのだが、その最初の試みが本作だったと言えよう。
 平成アニメは、21世紀に入ってますますその傾向を強めていくが、これは原作がゲームである作品が増えることと並行している。平成中期、いわゆるゼロ年代のアニメの中で、ゲーム原作のものを挙げると、日常生活が突然、非日常の出来事で断ち切られ、主人公が危機に巻き込まれるといったものが多くなってくる。
 しかも、タイムリープもの、時間ループもの、平行世界ものなど、20世紀以後の宇宙論の成果、つまりマルチバース論を取り入れたものが多い。主人公が何度も同じ出来事を体験し直したり、平行世界に移行したり、時間を遡ってやり直そうとしたり、というような時間SFものというべきジャンルが確立されたのだ。
 こういったSF的、宇宙論的な作品設定で作られるアニメの物語では当然、キャラクターの死生観、生き様や死に様も変化せざるを得ないということが言えるだろう。

時代とともにキャラクターの死の重みが軽んじていった傾向にあるというのはとても興味深いですよね。たしかに最近、異世界転生ものや死に戻りもの、人生やり直しものなどが顕著に増えたと思います。

こうして時代の変遷と照らし合わせて、アニメ・マンガ作品を追ってみるのも面白いのではないでしょうか。

その全貌が気になる方はぜひ本書をお手にとってみてください♪

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最後までお読みいただきありがとうございました。


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