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ビッグマックの価格でわかる、日本の購買力

こんにちは。
フォレスト出版編集部の森上です。
 
2022年後半以降、国内の物価がどんどん上がっていることはご承知のとおりです。マクドナルドも、明日1月16日より全体の約8割の品目の店頭価格を値上げされます。マクドナルドの代表商品「ビッグマック」でいえば、単品410円から450円と40円の値上げ。私たち一般消費者にとっては、給与が上がらないのに物価が上がっている現状は、実にキツい状況ですよね。
 
ただ、この値上げ、さまざまな観点から見てみると、新たな気づきが得られるかもしれません。
 
たとえば、明日から450円に値上げされるビッグマックは、世界各国のビッグマックと比べて高いのか、安いのか? その価格は、果たして今後の日本経済にとっていいのか、悪いのか?

【ビッグマックの価格とその国の購買力】には深い関係があると言われています。
 
1月24日(Amazonでは1月21日/一部の書店で先行販売中)に発売予定の新刊『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』では、この【ビッグマックの価格とその国の購買力】について、経済アナリスト馬渕磨理子さんとマーケティングアナリスト渡辺広明さんがそれぞれの立場からわかりやすく解説しています。
 
今回は、同書の発売に先立ち、【ビッグマックの価格とその国の購買力】に関する該当箇所を、このnote限定で全文公開します。

【TOPIC 14】ビッグマックの価格で、その国の購買力がわかる

☑日本のビッグマック価格は410円(編集部注:2023年1月16日より450円)、アメリカは約698円で、日本はアメリカよりも購買力が低い。
☑日本がiPhone14 Pro(128GB)を購入するために必要な労働日数は11.9日、アメリカは5.7日。

その国の購買力や経済力を示す指数として用いられる「ビッグマック指数」と「iPhone指数」。先進国と日本を見比べてみると、実は日本の購買力が低いことがわかる。

日本のビッグマック価格は新興国レベル!?

渡辺 各国の経済力を示すユニークな指数として「ビッグマック指数」というものがあります。
マクドナルドの人気商品の1つであるビッグマックは、どの国でもほとんど同じ品質でつくられています。ということは、各国のビッグマックの価格を比較すれば、それぞれの購買力が見えてくるのではないか……という理屈です。
ビッグマック指数は英誌エコノミストが発表している指数で「その国のビッグマックの販売価格÷ アメリカのビッグマック販売価格」から算出した対ドル購買力平価を、為替レートや実体経済などと比較します。……と言葉で説明してもわかりづらいですよね。
馬渕 もともと知っている人は大丈夫だと思いますが、初めて聞く人にはピンと来ないですよね。

『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』p.90より

渡辺 そうですよね。というわけで、主要国のビッグマック価格を円換算で計算してみましたので、上の図をご覧ください。馬渕さん、いかがでしょうか。
馬渕 これはわかりやすいですね。“勘違いしやすい感想”としては「他の国のビッグマックは高いなぁ。日本は安くて良かったなぁ」でしょうか。
渡辺 ありがとうございます(笑)。そうなんですよ、最初に説明しましたが、ビッグマックはどの国でもほとんど同じ品質でつくられていて、これは「購買力が見える指数」です。
日本人は、日本ならば410 円で買えるけど、スイスに行ったら939円を払わなくてはいけない。でも、現地のスイス人は939円を高いと感じない。なぜなら、彼らにとってはそれが「適切なビッグマックの価格」だからです。
要するに「日本は先進国のハズなのに、新興国のような価格なんです」ということです。
馬渕 長引く不況によって平均賃金がなかなか上がらなかったから、価格を上げられずにデフレが続いていたんですね。
渡辺 ちなみに、近年では「iPhone 指数」というものも発表されています。こちらはポーランドのクーポンサイトPicodi が公表している指数で、「iPhone14 Pro(128GB)を購入するのに働かなくてはいけない日数」です。

『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』p.91より

馬渕 スイスは4.6日、アメリカは5.7日働けばiPhoneを購入できますが、日本は11.9日かかるわけですね。
渡辺 でも、iPhoneの価格を見ると、ビッグマックと同じく先進国と比較してかなり安いんですけどね。

ついに上がり始めた日本の物価

渡辺 ビッグマックは2022年9月に390円から410円になりました(編集部注:2023年1月16日より450円に値上げ)。他にも、2022年は円安やエネルギー価格の上昇の影響を受けて、多くの商品が値上がりしました。
馬渕 帝国データバンクによれば、2022年に値上げした商品は食品だけでも2万品目以上で、平均値上げ率は14%とのことです。各企業が価格を抑えることが限界に来ていて、価格を上げざるを得ない状況に陥っていますね。
渡辺 国力と価格が見合わないままだったのが、平成だったんでしょうね。高くなったのではなく、適切な価格に上がろうとしているんですよ。

『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』p.92より

馬渕 賃金アップを明言している企業は多いですが、物価の上昇ペースに追いつくのはまだ先でしょうね。
渡辺 踏ん張りどころなんですよ。家計を圧迫されている人たちは、国の補助や給付を余すことなく利用しながら耐えて、余裕のある人たちはその分消費して経済を回さなくてはいけない。自分で言っておいて何ですが、厳しい話です。

日本とアメリカで微妙に異なるCPI

馬渕 2022年の相次ぐ値上げで「消費者物価指数(CPI)」という言葉を何度も聞いたと思いますので、せっかくだから解説しておきましょう。
渡辺 お願いします。
馬渕 CPIは、私たち消費者が購入するモノやサービスなどの物価の動きを示す指標です。総務省が毎月発表していて、基準となる年の物価を100として算出する他、前年同月比や前月比も算出されます。たとえば、2020年の「総合CPI」を100とした場合、2022年10月の総合CPIは103.7、前年同月比3.7%上昇、前月比0.6%の上昇という具合です。
渡辺 「総合CPI」ということは、他にも何かあるんですか?
馬渕 日本のCPIは、主に総合CPI、コアCPI、コアコアCPIの3種類の指数があります。
総合CPIは全体の物価を示したもので、コアCPIは総合CPから生鮮食品の物価を除いた指数で、コアコアCPIは総合CPIから生鮮食品とエネルギーの物価を除いた指数です。生鮮食品やエネルギーは変動幅が大きいので、これらを除いた数字も把握するため、コアCPIやコアコアCPIがあるんです。
ちなみに、アメリカのCPIは「総合CPI」と「コアCPI」の2つの指数で、アメリカのコアCPIは生鮮食品とエネルギーを除いた指数です。
渡辺 日本とアメリカでコアCPIが異なるということですか?
馬渕 そうなんですよ。「アメリカのコア」は「日本のコアコア」なんです。わかりづらいですよね。でも、今は日本もアメリカもCPIに関するニュースが多いですから、この違いを覚えておくだけでも理解度が大きく変わりますよ。

物価高でも利上げしないのはなぜ? 

渡辺 アメリカはCPIの上昇が止まらないため、利上げによる金融緊縮を行なっています。日本もアメリカほどではありませんが、2022 年に入ってからCPI が上昇を続けています。しかし、利上げは行なわれていませんね。
馬渕 物価が上がり続けるとインフレになり、インフレを突き詰めると、いわゆる「バブル経済」に突入してしまいます。バブルとは「見せかけだけで実態がない」という意味で、株や不動産などの資産価格が、本来の適正価格を大幅に上回ってしまう状況です。経済的に危険な状態なので、これを防ぐために利上げが行なわれます。
では、なぜ利上げすると物価の上昇を抑えられるのか?
利上げすると利子が高くなるので、企業や消費者などがお金を借りたくても借りづらくなります。このため、企業活動と消費活動が少し停滞するんです。あえて停滞させることで、過熱気味の市場を落ち着かせる。すると、消費者の購買意欲も低下して、モノが余るようになる。モノが余れば、自然と物価が下がっていく……と考えられています。
渡辺 あれ? 景気と金利はどういう関係でしたっけ?
馬渕 一般的に、景気が良いときに金利は上昇し、景気が悪いときに金利は低下します。
渡辺 今の日本ってずっと景気が悪いですよね?
馬渕 そのとおりです。だから、ずっと政府と日銀は利下げをして、長期にわたる低金利時代が続いているわけです。なぜなら、景気を活発にさせたいからです。
渡辺 そりゃ利上げできるわけないですね。
馬渕 そうなんですよ。現在の物価高は、円安とエネルギーの高騰という限定的な理由です。政府は“正常なインフレ”を目指して「総合CPI2%」を掲げています。つまり、賃金上昇が伴う物価上昇で、今の物価高はそれに該当しません。むしろ、今利上げしたらさらに景気が悪化するというのが日本の経済界・金融界の認識です。

POINT

◎日本の物価は長引く不況により抑えられおり、国力の割に価格が低かった。
◎現在の物価高に平均賃金の上昇が追いついていない。
◎日本のコアCPIは生鮮食品の物価を除いた指数で、コアコアCIPは生鮮食品とエネルギーの物価を除いた指数。
◎アメリカのコアCPIは、日本のコアコアCPIに該当する。
◎景気が上がっていないなかで利上げすると、さらなる不景気を招く恐れがある。

※今回ご紹介した『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』の内容やデータは、2022年12月1日現在のものです。

【著者プロフィール】

馬渕磨理子(経済アナリスト)

イラスト:中川画伯

日本金融経済研究所代表理事/経済アナリスト。ハリウッド大学院大学 客員准教授。公共政策修士。京都大学公共政策大学院修士課程を修了。トレーダーとして法人の資産運用を担った後、金融メディアのシニアアナリスト、FUNDINNOで日本初のECFアナリストとして政策提言にかかわる。またIR(インベスター・リレーションズ)について大学と共同研究を行う。現在、経済アナリストとして、フジテレビの夜のニュース番組「FNN Live News α」読売テレビ「ウェークアップ」のレギュラーコメンテーターをはじめ、各メディアでの出演多数。経済アナリストの知見を活かしたセミナーや講演会も好評を博している。ポリシーは「自分の意志で人生の選択ができる世の中を」。誰もが自分の価値観でしなやかに生きることができる社会を目指して活動中。

渡辺広明(マーケティングアナリスト)

イラスト:中川画伯

マーケティングアナリスト。流通ジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。東洋大学卒業後、株式会社ローソンに22年間勤務し、店長・スーパーバイザーを経て、約16年間バイヤーを経験。コンビニバイヤー・メーカー勤務で約770品の商品開発を行なった経験をもとに「FNN Live News α」「ホンマでっか!?TV」(以上、フジテレビ)のコメンテーターとして出演中。その他に、静岡県浜松市の親善大使「やらまいか大使」就任。ニュース番組・ワイドショー・新聞・週刊誌などのコメント、コンサルティング・講演など幅広く活動。2019年3月、(株)やらまいかマーケティングを設立。なお、共著者・馬渕氏とともに、TOKYO FM「馬渕・渡辺の#ビジトピ」のパーソナリティも務めている。

いかがでしたか?
 
今回ご紹介した『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』では、今回ご紹介した【ビッグマック価格とその国の購買力】をはじめ、私たち消費者が知っておきたい身近な経済関連のテーマ計45本のTOPICを取り上げて、オールカラーの図版データを交えながら、わかりやすく解説しています。
 
2023年のニッポン経済がどうなっていくのか?
そのためにはどのような生活防衛策をとっていけばいいのか?
 
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