【フォレスト出版チャンネル #47】出版の裏側|編集者は、「電子書籍」をどう考えている?
このnoteは2021年1月19日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。
出版社として無視できない存在――電子書籍のメリット
渡部:フォレスト出版チャンネルのパーソナリティ渡部洋平です。今回も興味深いテーマ「編集者はぶっちゃけ、電子書籍をどう考えているの?」というテーマでお送りしていきたいと思います。それでは、今回もフォレスト出版編集部の森上さんと寺崎さんに来てもらいました。よろしく願いします
森上・寺崎:よろしくお願いします。
渡部:ぶっちゃけ、電子書籍ってどう見ているんですか?
森上:ぶっちゃけ、無視できない存在ですよね。
渡部:なるほど。リスナーの皆さんも電子書籍を買って読まれることあると思うんですけども、今日は作り手の編集者の目線で、電子書籍はどうなのかということについてお話いただきたいと思います。無視できない存在ということなんですけど。
森上:無視できないというのは、出版社としてのメリットがやっぱりあって、いくつかあるんですけど、まず1つ目が「売り上げが右肩上がりの市場」であるっていう点ですよね。
寺崎:そうですね。先日、(2020年)12月1日だったかな。日経の記事で、営業増益額が大きい企業ってことで「DX・巣ごもり需要で躍進」というタイトルの記事があったんですけど、そこの6位にアルファポリスさんっていう、ウェブで小説とか漫画とか電子書籍を販売している会社さんがあるんです。ここが「7月から9月期の電子書籍の売り上げが17億円と過去最高だった」っていう記事があって。「自社ウェブサイトのユーザー数も370万人と過去最高だ」というように、コロナ以降の勢いがまた増しているって感じですよね。
森上:そうですよね。コロナはかなり影響しましたよね。アルファポリスさんは漫画だとか、コミックだけじゃなくて、そういう発表しているわけですね。
寺崎:そうそう。小説とかも出しているんですよ。
森上:いわゆる我々のビジネス書とかといったジャンルはどうなんだろう?
寺崎:そこはちょっとわからないです。
森上:うん。でも出版社として、うちでも電子書籍の件数が増えれば増えるほど(売り上げが上がる)。ずっと半永久的に、ネット上には置いとけるし。
寺崎:塵積に増えていますもんね、売り上げが。
森上:そうなんですよ。
渡部:いわゆるロングテール的な売り方をしているんですね。
森上:そう。リアルな書店さんだと、やっぱり売れないと……。
渡部:返ってきちゃいますもんね。
森上:そういうこと。返品っていう制度がやっぱり出版業界にあって、それが電子書籍には基本ないですよね。
渡部:ユーザーの皆さんにとっては、欲しい本がいつでも手に入るのが電子書籍のメリットなわけですよね?
森上:そういうことですね。「在庫切れ」がない。出版社側としても当然、刊行点数が増えれば増えるほど、売り上げも上がるということですよね。2つ目の出版社としてのメリットは、「製作コストが紙の本に比べて安い」ということですよね。寺崎さん、基本的にはそうですよね? 書き起こしがなければ……。
寺崎:そう、だって本で1番コストがかかって、単価が上がるのって紙ですからね。
森上:そうなんですよね。紙が相当高いですもんね。高級品だよね。
寺崎:高級品! でも、本当はね、「ぶっちゃけどうなのよ?」っていう問いに対して言うと、紙の本を想定して作っている本だから、やっぱり紙で買って欲しいというのがあるんですよね。
渡部:編集者としては、やっぱり紙の本として手に取ってほしいというのは本音!?
森上:基本的にはそうですね。うちもボーンデジタルで、いわゆる電子書籍のために書き下ろした作品リリースはまだやっていなくて(※)、基本は紙で出た本を同時発売で、サイマルで電子書籍として出しているという感じですので。多くの出版社はそうですよね、寺崎さん。
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寺崎:そうですね。現状そうですよね。
森上:コストが安いという出版社のメリットはありますね。あと、先ほどからチラチラ言っていますけど、(電子書籍は)「在庫を持たなくていい」んですよ! これもデカイですね。
寺崎:これはすばらしい!
森上:これは本当になんの不満もないね! (紙の本の場合は)やっぱり売れないと環境破壊につながるという意味では、本当にこれはいいことだと思います。
渡部:なるほど。在庫を持たなくていい、資源の無駄にもならないという話でしたけど。廃棄もないですし、保管する必要もない。さらに言えば、流通という部分でも、それこそ発送、返品ってのものはないですから、電子書籍はすごく楽なわけですね。
森上:そうですね。ユーザーさんもすぐ手に入りますしね、欲しいものがね。読者の皆さんに届きますから。
寺崎:緊急事態宣言のときね、結構買いましたよ、電子書籍。
渡部:なるほど。家からでも買えるみたいな。
寺崎:そうそう!
森上:去年(2020年)の緊急事態宣言のときに、これ、電子書籍のまたメリットだと思うんですけど、うちの編集部として新たなサービスを提供できたんですよ。ベストセラー27点か、30点弱ぐらいですかね。それを全部無料公開を期間限定でやったんですよ。あれは、やっぱり電子だからできたんですもんね。
寺崎:そうですね。電子だからできた。
森上:あの時期ってやっぱりどうしてもみんな巣篭もりなんで、一応コンセプトとしては、「学びを止めない」。子供たちの「学びを止めない」という話は出てきましたけど、大人も「学びを止めない」という、その部分で何か我々にできることはないかということで。うちの編集部で、著者さんに協力いただいてやったということがありますよね。サービスも提供できるという意味ではまた、新たなね。
寺崎:確かに。
つくり方も、紙の本とは変わる?
渡部:今「ぶっちゃけ、どうなの?」話をお話していただいたんですが、無視できない理由として、いくつか出てきました。例えば、売り上げが右肩上がりの市場だから注目せざるを得ない、製作コストが紙の本より安い、在庫を待たなくていい、新たなサービス提供ができるんじゃないか、みたいなところで注目しているということなんですけども、それ以外に何か編集者の2人の目線から……。
森上:いわゆる「無視できない理由」の一番大きなところは、電車に乗っていてもわかると思うんですが、紙の本を読んでる人って、ほとんどもう見なくなっちゃった。
渡部:びっくりするくらい、いないですね!
森上:いないですよね?
渡部:いないですね。「いない!」って言っていいレベルでいないですよね。
寺崎:いたら、びっくりするよね! みんな、スマホ!
森上:スマホ。見ているのが電子書籍かどうかはわからないけど。でも、電子書籍を読む人が着実に増えているっていうところでも、完全に無視できない状況になっているということですね、編集者として。
渡部:なるほど。その辺は先ほどお話していただいたとおり、今だとまだ紙の本をメインに編集されているというお話だったんですけど、今後、変わっていくみたいなところに関してのお考えはどうですか?
森上:そうですね。カバーのデザインとかっていうのも、考え方が変わるかもしれないですよね、タイトルとかも。
寺崎:そうですね。小さな画面の中で、どうやって伝えていくかというような世界になってくるんでね。(売る場合も)書店みたいな大きな売り場で届けるということじゃなくなってくるので、そこはちょっと変わってきますよね。
紙の本は、いずれ高級品になっていく!?――紙の本であるべき理由とは?
渡部:聞いていて思ったんですけど、必ずしも0対1にはならないと思って、例えば、紙の本が無くなって電子だけになるとか、電子だけになって紙の本がなくなるとか……。どちらもきっと存在し続けるわけですよね?
森上:それは間違いない。だから紙であるべきもの、紙でなくてもいいものっていうのも、やっぱりあったりしますよね?
寺崎:そうですね。だから今はみんな洋服を着ているけど、和服を今、着ている人も一部いらっしゃるじゃないですか。それに近い世界になってくるかもしれないですよね。
森上:そうですよね。寺崎さん、いろいろなデータを調べている中で、ほら、呉服屋さんの話! 前に2人で話しているときにお聞きして興味深かったんですけど。あれって、なんでしたっけ?
寺崎:そうそう! その話があったなと思って探したけど、資料が見つからなかったんですけど……。研究資料で「呉服屋の業界が、なぜ衰退してしまったのか?」みたいな話があって、やっぱり洋服が主流になったことで、呉服屋さんが厳しくなってきたっていうのがあるんですよね、当たり前の話なんですけど(笑)。
でも、未だにやっぱり和服を着ている方っていらっしゃるじゃないですか、一定数。だからやっぱり洋服がメインになっても、和服は絶対になくならないと。で、呉服屋さんが何をやったかというと、高価格化に走ったらしいんですね。一生ものの値段にして買わせる。そうすると本来、季節とか流行を楽しむものだったのに、つまらなくなっちゃって、さらに衰退しちゃったみたいなレポートがあって。これは興味深い話だなと思って。
ただ、やっぱり未だに頑張っている呉服屋さんもあって、若者にウケるデザインを追求していたり、ECサイトを充実させているところが生き残っていると。我々も紙が衰退していくところを呉服と重ねて、生き残っていかないといけないなって、森上さんとそんな話をしていたんですよ。
森上:本で言えば高価格という、ここ数年ですけど、単行本も100円、200円と、ちょっと上がっていると思うんですよね。ビジネス書は特にそれが顕著。うちに限らず、他の出版社もビジネス書とはちょっとずつ上がっている印象ですよね?
渡部:そうですね。私もビジネス書って1200~1300円みたいなイメージがありましたけど、今は1500~1600円で、テーマによっては2000~3000円っていうのが普通に並んでいますよね。
森上:そうですよね。だけど、元々海外に比べて、日本の書籍って安いって言われているんですよね。
寺崎:そうですよね。ドイツで、フランクフルトブックフェアに行ったときなんか見ると、4000円とか5000円とか普通にしてたんだよね、1冊の本が。
渡部:「日本の本が安い」という話はよく聞きますけれども、これは日本の教育レベルを上げるところに、すごく役立っていたのかなと、個人的に思ったりするんですけど。安く情報が手に入るっていうのは、購入者側から言わせていただくとうれしいことですよね。
森上:まあ、そうですよね。そのあたりが「紙でいいのか、どうなのか問題」も含めてありますよね。さっきチラッとお伝えしましたけど、紙であるべきもの、紙でなくていいものっていうのはやっぱりあって、究極的なところだと、アート系の本。例えば写真集とか、芸術書ですよね。紙の発色とか、そのあたりも含めてなんですけど。あと何がありますかね?
寺崎:まあ、絵本ですよね。子供が読む。
森上:仕掛け絵本とか、含めてね。あとは本当にしっかりした文芸書。文芸書ってどっちかというと、その本自体、小説とかもそうですけど。うちはやってないですけど、文芸書はやっぱり装丁家さんと1つの作品を作っているっていう感覚で、それなりに残っていく。ただ今の価格でやっていけるかどうかっていうのはわからないですよね。
寺崎:所有欲を満たす分厚くて書斎とかリビングに置いておくとカッコいいもの、そういうのは残っていきますよね、きっと。
森上:そうですよね。本をインテリアに。それで先に壁にぶち当たったのは雑誌のはずなんですよ。雑誌が小さいサイズで出たりとか、結構しません? うちは雑誌やってないですけど。 雑誌もインテリアとしてみたいな感じで。だからどんどんそうなってくるとは思うんですよ。紙の本っていうのは、ある程度高級品になっていくんじゃないかなと思いますよね。
渡部:そこらへんが住み分けられていくんじゃないかと?
森上:そう、究極な的なところで言うとね。
渡部:なるほど、なるほど。
森上:紙である理由を探し続ける。
渡部:必要とされるものはおそらく残っていくと思うので、役割が分かれていくんでしょうね、きっと。電子書籍に関して、「現状ぶっちゃけ、どうなの?」話をしてもらったんですが、今ちょっと未来のお話も出てきたので、これから先、「電子書籍の未来はどうなっていくのか?」という観点からもお2人にお聞きしたいので、それに関してはまた明日お話しいただければと思います。森上さん、寺崎さんありがとうございました。
森上・寺崎:ありがとうございました。
(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)