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谷川俊太郎の作品群は、子どもの言葉と心を育む最強の教材かもしれないという話。

昨年の11月に詩人の谷川俊太郎さんが亡くなられました。個人的には20代のころから偏愛してきた作家さんだったので、人類の大きな損失だと感じます。ロスト谷川俊太郎。

訃報があってからしばらく、谷川俊太郎さんと加藤俊朗さんの共著『新版 呼吸の本』の重版が昨年末のタイミングで決まり、加藤さんにご連絡したところ、次のような返事を頂戴しました。

谷川先生が宇宙に帰りました
霊意識を使って、谷川先生にも報告しておきます

そうか。谷川さんは物質世界的には「亡くなった」わけだけど、もっと高いレイヤーで見たら「宇宙に還った」んですね。

今日はそんな谷川さんのご冥福を祈りつつ、作品の数々をご紹介します。

『はだか』(1988・筑摩書房)

まずは王道の詩集から。一時期ご結婚されていた佐野洋子さんが作画、谷川さんが詩を書いている『はだか』という詩集から、「さようなら」という冒頭の詩をご紹介します。

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さようなら

ぼくもういかなきゃなんない
すぐいかなきゃなんない
どこへいくのかわからないけど
さくらなみきのしたをとおって
おおどうりをしんごうでわたって
いつもながめてるやまをめじるしに
ひとりでいかなきゃなんない
どうしてなのかしらないけど
おかあさんごめんなさい
おとうさんにやさしくしてあげて
ぼくすききらいいわずになんでもたべる
ほんもいまよりたくさんよむとおもう
よるになったらほしをみる
ひるはいろんなひととはなしをする
そしてきっといちばんすきなものをみつける
みつけたらたいせつにしてしぬまでいきる
だからとおくにいてもさびしくないよ
ぼくもういかなきゃなんない
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私の解釈では、これって「成長」の歌だと思うのです。男の子が成長して母親の元を離れて、世界に散らばっていく。夜になったら星を眺め、たくさんの友人と交流して「いちばんすきなもの」をみつけ、それを死ぬまで大切にする。

そして、最後にダメ押しの「ぼくもういかなきゃなんない」。

なんとなく切ないけど、世界が広がる感じ。不思議な気持ちになります。

もともと谷川さんは『二十億光年の孤独』という作品でデビューしていて、この作品の最後のパートで謳われる下記のフレーズはあまりにも有名ですが、この晴々しいデビュー作品にすでに読み手の世界が広がる感じがばっちり表現されている気がします。

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万有引力とは
ひき合う孤独の力である

宇宙はひずんでいる
それ故にみんなはもとめ合う

宇宙はどんどん膨らんでゆく
それ故にみんなは不安である

二十億光年の孤独に
僕は思わずくしゃみをした
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詩集『はだか』のなかには「おじいちゃん」「おばあちゃん」「おかあさん」「おとうさん」「むかしむかし」「とおく」という詩が収録されていますが(どれも最高にいい)、これらの詩に作曲家の武満徹さんが音楽を付けた『系図 ―若い人たちのための音楽詩―』という音楽作品も傑作でおすすめです。

おすすめの詩集はほかにもたーーーーーくさんあるのですが、キリがないので、今日はこの『はだか』(筑摩書房)を激プッシュしておきます。布張り装丁+ブックケース付きなので、プレゼントにも最適かと思います。

『まり』(2003・クレヨンハウス)

ご存じの方は多いと思いますが、谷川俊太郎さんは絵本もたくさん出しています。そのなかでも、子どもが生まれてまず最初に読ませたいのが、こちらの作品。絵は広瀬弦さんのポップな感じ。

「読ませたい」と書きましたが、この絵本じつは読むところがほとんどありません。

こんな感じで「絵+オノマトペ」のみなんです。でも、これが0歳児(1歳ぐらいまで?)と一緒に読むと「言葉が持つ音の楽しさ」が実感されて、とても愉快です。

『ぽぱーぺ ぽぴぱっぷ』(2004・クレヨンハウス)

この作品はもっと確信犯的です。

岡崎乾二郎さんの抽象画に添えられた言葉は「ぽぽぱぱぺっぴぱぽぴっぱ」とか「ぺっぱーぽ ぴぷーぱ ぽぺぽぺ」とか、「ぽ」とか「ぺ」とか「ぱ」とかしか出てきません。

これって「ナンセンス絵本」とでもいうのでしょうか。でも、これも言葉を覚える前の幼児にとっては発話するのが難しい(いや、大人も十分難しいかも)。難しいけど、面白い。面白いけど、難しい。どっちにしても、「言葉の響き」「発話すること」の楽しさを教える最高の素材にはなっています。

『あいうえおうた』(1996・福音館書店)

子どもがもう少し大きくなって、2歳ぐらいになったらおすすめなのがこちら。

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あいうえおきろ
おえういあさだ
おおきなあくび
あいうえお
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こんな感じで「あ行」から「ん」まで言葉遊び歌が収録されています。言葉の響きだけではなく、言葉がもつリズム感、言葉を入れ替えることで生まれるおかしさとか、上記2作品にはない「言葉の世界」が広がっていきます。

『せんそうしない』(2015・講談社)

最後に。大人にも子どもにもおすすめなのがこちら。

「ちょうちょと ちょうちょは せんそうしない」

この一文から始まり・・・

「うみと かわは せんそうしない
 つきと ほしも せんそうしない」

・・・で終わる、ごく短い詩ですが、「戦争反対」と声高に叫ぶわけではなく、戦争に対するアンチテーゼが静かに伝わる、とても静謐な作品です。江頭路子さんの瑞々しい水彩画がこれまたイイ。

とどめの最後に。この『せんそうしない』で、ふと思い出した。

谷川俊太郎さんの作品ではないのですが、言葉が人に与える影響力を感じた詩をご紹介します。2014年ごろにTwitterでバズった宮尾節子さんの「明日戦争がはじまる」という詩です。

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まいにち
満員電車に乗って
人を人とも
思わなくなった

インターネットの
掲示板のカキコミで
心を心とも
思わなくなった

虐待死や
自殺のひんぱつに
命を命と思わなくなった

じゅんび

ばっちりだ

戦争を戦争と
思わなくなるために
いよいよ
明日戦争がはじまる
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谷川俊太郎さんの詩の話の流れで、現在進行形の面白い現代詩もお伝えしようと思っていたのですが、ちょっと長くなりすぎたので、またの機会に。

では。

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(フォレスト出版編集部・寺崎翼)

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