
プレイングマネジャーを苦しませる「タイムマネジメント」と「新業務の増加」とは?
フォレスト出版編集部の寺崎です。
全国の悩めるプレイングマネジャーたちに届けたい1冊として、中尾隆一郎さんの今月の新刊『成果を上げるプレイングマネジャーは「これ」をやらない』の内容をご紹介しているわけですが、前回記事は「プレイング業務の増加」という問題を取り上げました。
こちらの「まえがき」で触れた、プレイングマネジャーにかかる圧力の2つ目は「タイムマネジメントの厳格化」です。
今日なプレイングマネジャーを悩ませる「タイムマネジメントの厳格化」、さらには3つ目の「新業務増加への対応」とは、いったいどういうことなのか、見ていきます。
***
タイムマネジメントの厳格化とは?
昔話をしても仕方がないのですが、今ほど労働時間管理(タイムマネジメント)が厳格でなかった時代には、仕事量が多くて、時間が足りなくても、残業や休日出勤をすることで、時間不足を補うことができました。
しかし、現在では、残業や休日出勤といった選択肢を選ぶことはできません。2024年には建設業や運送業でも三六協定(労働時間の規制)の遵守が始まりました。
そもそも残業や休日出勤の規制は、労働者の健康という観点では、ぜひとも推進すべきテーマです。つまり、このタイムマネジメントの厳格化は不可逆であり、後戻りできないのです。
ちなみに労働時間について話をすると、たまに「長時間労働も必要」という人がいます。特に若いうちは長く働くことで、学べることが多いという話です。
私もそう考えていた時代があったので、総論としては理解できるのですが、日本企業の長労働時間は、パートナーや家族の犠牲のもとに成立していた「いびつな長時間労働」だったというのをご存じでしょうか。
家庭にしわ寄せを生んでいた
男性社員の労働時間の長さ
日本の男性社員の長い労働時間は、パートナーの犠牲のもとに成立していたという事実があります。労働時間の日米比較でわかりやすいデータがあったので紹介しましょう。
日本企業で就業する男性社員は、アメリカ企業で働く男性と比較すると、次のことが明らかとなりました。
◎アメリカの男性より日本の男性のほうが労働時間が長く、家事労働時間が短い
◎アメリカの女性より日本の女性の家事労働時間は長く、睡眠時間が短い
つまり、長い労働時間のしわ寄せをパートナーが被っていたのです。
日本企業の男性の長時間労働は、男性の家事労働の短さと、その反作用として女性の家事労働の長さと睡眠時間の短さで何とかつじつまを合わせていました。若いうちは長時間労働も必要だという方は、このような状況を目指したいのでしょうか?
そう考えると、労働時間を厳格にマネジメントするのは当然の方向であり、おそらく今後は不可逆でしょう。
したがって、プレイングマネジャーのマネジメント時間の不足を残業と休日出勤で補うのは不可能です。「残業と休日出勤でつじつまを合わせた」という昭和世代の武勇伝を現在のプレイングマネジャーに要望するのは無理です。
つまり、現代のプレイングマネジャーは、限られた時間で成果を出さなければなりません。
新業務増加への対応
3つめは「新たな業務増加への対応」という圧力です。プレイヤーとしての役割を担う時間が増え、労働時間の上限に規制がかかったうえに、さらに「新業務への対応」も必要になっているため、ますますマネジャーとしての役割に使える時間が減ってしまいます。
新たな業務には、DX、コンプライアンス、SDGs(持続可能な開発目標)、健康管理、情報管理、個人情報保護といった幅広い分野が含まれます。例えば、生成AIをどのように業務に取り入れるのか、マルウェアなどのサイバーセキュリティ対策をどう強化するか。パワハラ、セクハラ、マタハラといった職場のハラスメント対策に加えて、カスタマーハラスメント(カスハラ)への対応も必要になってきています。
コンプライアンス強化の流れも不可逆
コンプライアンスは一般的に「法令遵守」と訳されますが、実際の業務では、「白でもなく、黒でもないグレーゾーンをどう考えるか」「取引先からの要望にどのように応えるのか」など、さまざまな問題に対して対処する必要があります。
例えば、自動車部品メーカーが下請け会社に、本来は自社で保管すべき「金型」を長期間保管するよう要望したり、親会社が生産性向上のために下請け会社に厳しい納期を強いるケースがあります。
また、大手コンビニがプライベートブランドのために下請けに新しい生産ラインを整備させたものの、売れ行き不振でそのラインを使わない……というケースも。
これらの事例には法令違反もあれば、明確な違反ではないグレーゾーンも存在します。法律を守っていればよいというものではなく、倫理的な判断も必要です。
特に大手企業では、SDGsへの対応も必要です。従来なら、直接の取引先が法を遵守しているか確認するだけで十分でしたが、現在では、大手企業であれば取引先の末端まで、違法労働、児童労働などがないか自らチェックしなければなりません。
社内に目を向けると、従業員の労働時間管理に加えて、健康促進のためにどこまで踏み込むのかというのも新たなイシューです。
個人情報の管理に関しても、新しい規制やルールへの対応が求められ、それをプレイングマネジャーが管理する責任が求められています。
これらへの対応が重要なのはその通りなのですが、限られた時間を圧迫するので、ますますチームの成果を上げるために必要なマネジャーの役割を行う時間が減少していきます。
***

中尾隆一郎(なかお・りゅういちろう)
株式会社中尾マネジメント研究所(NMI)代表取締役社長
株式会社LIFULL取締役。LiNKX株式会社取締役。
1964年生まれ。大阪府摂津市出身。1989年大阪大学大学院工学研究科修士課程修了。同年、株式会社リクルート入社。2018年まで29年間同社勤務。2019年NMI設立。NMIの業務内容は、①業績向上コンサルティング、②経営者塾(中尾塾)、③経営者メンター、④講演・ワークショップ、⑤書籍執筆・出版。専門は、事業執行、事業開発、マーケティング、人材採用、組織創り、KPIマネジメント、経営者育成、リーダー育成、OJTマネジメント、G-POPマネジメント、管理会計など。
著書に『最高の結果を出すKPIマネジメント』『最高の結果を出すKPI実践ノート』『自分で考えて動く社員が育つOJTマネジメント』『最高の成果を生み出すビジネススキル・プリンシプル』(フォレスト出版)、『「数字で考える」は武器になる』『1000人のエリートを育てた 爆伸びマネジメント』(かんき出版)など多数。Business Insider Japanで「自律思考を鍛える」を連載中。
リクルート時代での29年間(1989年〜2018年)では、主に住宅、テクノロジー、人材、ダイバーシティ、研究領域に従事。リクルートテクノロジーズ代表取締役社長、リクルート住まいカンパニー執行役員、リクルートワークス研究所副所長などを歴任。住宅領域の新規事業であるスーモカウンター推進室室長時代に、6年間で売上を30倍、店舗数12倍、従業員数を5倍にした立役者。リクルートテクノロジーズ社長時代は、リクルートが掲げた「ITで勝つ」を、優秀なIT人材の大量採用、早期活躍、低離職により実現。約11年間、リクルートグループの社内勉強会において「KPI」「数字の読み方」の講師を担当、人気講座となる。