【新連載】#1 ミギネジの独立と紅白〇合戦|科学戦士「ミギネジ」の悪キャラの倒し方―Season2
こんにちは。
フォレスト出版編集部の森上です。
「科学のお姉さん」として、各メディアで活躍されている五十嵐美樹さんをご存じでしょうか?
五十嵐美樹(いがらし・みき)
科学のお姉さん。
東京大学大学院修士課程修了。東京大学科学技術インタープリター養成プログラム修了。2020年春より東京大学大学院情報学環客員研究員。ジャパンGEMSセンター特任研究員。国際科学オリンピック応援団。
幼い頃に虹の実験を見て感動し、科学に興味を持つ。上智大学理工学部在学時に「ミス理系コンテスト」でグランプリを受賞後、自身が科学に興味を持つきっかけとなった科学実験教室やサイエンスショーを全国各地の子どもたちにむけて開催、講師を務める。科学館や小学校だけでなく、商業施設や地域のお祭り、お寺など幅広い場所でサイエンスショーを開催し科学の一端に子どもたちが触れるきっかけを創り続けている。Great Explorations in Math and Science取得。また、大企業エンジニア職での経験を活かして理系女子キャリアイベントの講師としても活動し、理系女子未来創造プロジェクト理事を務める。女子を対象に理科教育などを実践する個人または団体を表彰する日産財団「第1回リカジョ賞」準グランプリ受賞。
◆著者HP:https://www.igarashimiki.com/
そんな「科学のお姉さん」五十嵐さんが2020年3月から9月まで全14回にわたって、科学と女性をつなぐ情報提供サイト「Rikejo」にて連載していた「科学戦士「ミギネジ」の悪キャラの倒し方」。
▼「Rikejo」での連載「科学戦士「ミギネジ」の悪キャラの倒し方【Season1】」(全14話)はこちらで読めます。
https://www.rikejo.jp/category/%E4%BA%94%E5%8D%81%E5%B5%90%E7%BE%8E%E6%A8%B9?page=2
老若男女の方に大きな反響があったこの連載。
このたび、フォレスト出版公式noteにて、『科学戦士「ミギネジ」の悪キャラの倒し方【Season2】』として、新たに連載がスタートする運びとなりました。
Season1の全14話それぞれのストーリーは、上記のサイトでチェックしていただきたいのですが、まだ読んだことがない方のために、Season1の概要を解説します。
▼本連載とSeason1を合わせた書籍はこちら
【連載企画の概要】
カジュアルに楽しんでいただけるストーリーの中で科学を表現していく企画として生まれた本企画。五十嵐さんがこれまで発信してきた科学工作の手順や実験手順に加えて、「科学のお姉さん」として、五十嵐さん自身が日々考えていることやその生活状況を主人公の科学戦士「ミギネジ」というキャラクターに乗せて発信した企画です。
【主人公「ミギネジ」とは?】
主人公のミギネジは、昼はエンジニアとして働き、夜は科学戦士に変身し、科学の原理を使って毎回、悪キャラを撃退してきました。名前は「右ねじの法則」と私の本名が「ミキ」であることから来ており、頭のネジの飾りがトレードマークです。なお、ミギネジは、Season1の最終回(第14話)で、エンジニアとして働いてきた会社を退社し、科学戦士1本で生きていくことを決心します(Season1の第14話に詳述)。
【Season1までのミギネジの日常】
ミギネジは何の疑問も持たずに大学受験を経て理工学部に入学し、その後エンジニアとして就職するという道を歩みます。しかし、週末に科学実験を実施するうちに“最強の科学戦士になる”という子どもの頃の夢を思い出し、誰に言われるでもなく科学戦士を始めます。科学戦士を目指すために、日々仕事帰りに、東急ハンズや100円ショップ、秋葉原の秋月電子通商に通って材料調達をして、予備実験をして過ごしています。
【Season1のあらすじ】
「科学戦士として活躍する日は来るのだろうか……」そう思いながら日々を過ごしていると、突然悪キャラが襲ってきて人々を恐怖に陥れようとします。この世にはびこる解決すべき課題を悪キャラに見立てて、どんどん人々に襲いかかってくるのです。現代においては多様な戦い方がもちろんありますが、ミギネジは日々の予備実験の成果を活かし、ここぞとばかりに科学を活かした必殺技で立ち向かいます。ミギネジは、毎回、己の必殺技で悪キャラを撃退してきました。そんな科学を活用したヒーローストーリーと並行して、一人の女性としての生き方にもクローズアップしていきます。誰に言われるわけでもなく始めた科学戦士を続ける中で、次第にミギネジは今後のキャリアについて悩むようになります。先が読みにくく選択肢も多様なこの世の中で、一人の女性ミギネジ自身はどう自分の心と向き合っていくのか? その1つの結論として、昼間にエンジニアとして働いていた会社に辞表を提出し、「科学戦士」として生きていくと決意したところで、Season1は終了しました。今回の新連載では、主人公・ミギネジが「科学戦士」として独立したところからストーリーが始まります。
【ミギネジの必殺技】
ミギネジが繰り出す科学の力を使った必殺技は、お家にあるものやネットなどで手に入るものを使った科学実験を応用したもので、実際に試すことができるものとなっています。ストーリーの終わりには、実験手順や材料等を記載しますので、ご興味ある方はぜひ試してみてください。日々使っている身近な道具なども技として登場しますので、科学の身近さに触れる1つの機会としても楽しんでいただけると思います。
【ミギネジの仲間たち】
◎博夫:ミギネジの助手。正義感が強く、ヒーローに憧れて悪キャラたちに立ち向かって戦うものの、結果がなかなか出せず、強いミギネジに憧れて助手となる。普段は弱いが、いざというときにミギネジを助けるヒントを与える、頼りがいがあるのかないのかわからない存在。
◎光波ナミ:とある会社社長のSP。名前のとおり、光波を使った必殺技が得意。ミギネジの戦士ライバルであり、たまに喧嘩する相手でもあるが、頼もしい仲間。
◎ミギネジの母親:ミギネジの取り組みに対して寛容な心を持っている、よき理解者。たまに、ミギネジの援護射撃をすることも。
Season1と同じく、五十嵐さんとともに、科学を使った技で悪キャラを倒していくミギネジの自由な姿、身近なもので実践できる科学実験を通して、ふっと力を抜いて楽しんでいただけるような連載を目指していきますので、ぜひご期待ください。
では、待望の新連載『科学戦士「ミギネジ」の悪キャラの倒し方――Season2』がスタートです。
*
Season2 第1話
ミギネジの独立と紅白〇合戦
独立後、おいしい初仕事!?
私は、ミギネジ。
誰に言われるでもなく科学戦士をやっている。
エンジニアとして務めてきた会社を辞め、
いよいよ科学戦士として独立することになった。
「会社を辞めたし、区役所に個人事業主として登録をしに行こうっと」
意気揚々と区役所へ出向き登録用紙に記入しようとするも、さっそく心の中で思わず叫んでしまった。
「職業欄、なんて書くのおぉぉぉぉぉーーー!」
「講師」でもないし、「小売業」でもなければ、「タレント」でもない……。結局、登録用紙に「科学戦士」とそのまま書くしかなかったのだが、用紙を受け取った区役所の方は何を思うのだろうか。
もはや、じっくり見ないでほしいし、絶対に読み上げないでほしい。
逃げるようにして区役所を出ようとしたとき、区役所の方に「ミギネジさん!」と呼び止められてしまった。
「ああ……、もう追いかけないでぇ~」
と思ったが、案外世の中は優しいことに気づかされる。
「もしよろしければ、こちらどうぞ」と、ある一枚のチラシをくれたのだ。
そこには、
「戦士求む! 次は君の番♪」
と書いてあった。
「こちら本格的に戦士を募集しているみたいなので、もしよろしければ行ってみてください。応援しています」
「わぁ~、ありがとうございます!!!」
ニコニコしながら「ありがとうございます!」なんて言って受け取ってしまったものの、ミギネジには、どうしても気になることがあった。
そう、「次は君の番♪」の♪マークだ。命を懸ける割りには、どう考えてもうさん臭い。
独立したらうさん臭い話やうまい話には気を付けようと思っていたのだが、ミギネジの状況で致命的なのは、今のところ、戦士は趣味であり、仕事がないことである。
「趣味から仕事にするためにも、やるしかないか!」
ミギネジは覚悟を決めた。
今後の活動を決める大事な試験
チラシに書いてあった場所へたどり着くと、本当に「戦士試験会場」の看板があった。そして、会場にはたくさんの受験者が集まっていた。
「おーい、ミギネジ―!」
振り返ると、自称ヒーローこと博夫と戦士友達の光波ナミが準備運動をしていた。
「え? 2人も受験するの? そんなに気合いを入れちゃって。ここって大丈夫なの?」
「大丈夫よ !受かって契約できれば、プロ戦士として活動できるのよ。勝つしかないわ!」
「えー! そんな重要な大会だったのか!」
実は、ここ最近の白いぬりかべやびよーん星人などの変な敵の出現により(シーズン1を参照)、これまでいっさい目立つことはなかった「戦士★エージェント」が国の予算を得て、戦士の研究や育成に本腰を入れ始めたのだ。
今回、ミギネジたちが参加する戦士試験で次世代の戦士を「①面接」と「②実技試験」で見極め、契約・育成し、敵のもとへプロとして派遣するのだ。ミギネジたちは、その候補生ということになる。
独立したてのミギネジにとって、フリーランスとして活躍するうえでも、願ってもないチャンスである。軽い気持ちでやってきたミギネジは、気を引き締めた。
面接試験で撃沈……!?
さっそく、ミギネジが面接会場へ呼ばれた。
「えー、ミギネジさん。これから面接を始めますー。えーと、なにか戦士エピソードはありますか?」
「せんし、えぴそーど?」
「はい、なんか今まで戦士をしていた経験のなかで、こんなことありましたよーとかあれば、ぜひその話をお聞かせください」
「あっ、はい。フランス料理屋さんにデートに誘われまして、私の武器である大きな実験道具、そのときはガロンですかね。それを持ったままお店に行ったら、入店を断られて相手の前で恥をかいたことです」
「……。」
「え……?」
「え……?」
このとき、ミギネジは不合格を悟った。
ミギネジは、なぜこれまで数々の敵をひっそり倒してきたことをアピールせず、フランス料理屋さんでのエピソードを話してしまったのか、悔やんでいた。よほど頭を離れなかったのだろう。
一方、博夫は面接で、これまでミギネジが倒した敵を全部自分の手柄にしていた。
「あっ、はい。とっても大変でしたけど、平和を守るためです!!!!」
ミギネジは面接で撃沈し、手柄を博夫に横取りされたので、残りの実技でアピールするしかなくなっていた。
絶体絶命……、挽回の実技試験
「次は実技試験でーす。博夫さんどうぞー。敵が現れますので3分以内に倒してくださーい」
博夫の実技試験が始まり、なにやら赤い色の敵が出てきた! 博夫はとにかく得意のパンチとキックと繰り返す。すると、衝撃を受ける度に赤い液体みたいなのが飛び散っている。博夫は日頃鍛えていることも幸いし、あっという間に赤い敵を倒した。
「なんか余裕でした~。こんなもんでいいんですかね~」
博夫が笑顔で実技会場から出てくるも、その姿を見てミギネジは愕然とした。実技を終えた博夫が、血まみれだったからだ。
「血とか苦手なんだよぉーーー! あと、その状態で笑顔はやめてぇーーー!」
ミギネジは数々の敵を倒していたが、これまで敵も含めて一滴も血は流していない。震えながら、実技会場へ入っていくしかなかった。
「では、ミギネジさんの実技試験を始めまーす。よーい、スタート!」
同じように赤い敵がミギネジに向かってきた!
ミギネジは、向かってくる赤い敵をパンチするしかなかった。すると、赤い液体がミギネジの顔にかかってしまった。
「やっぱり無理ぃぃぃーーー!」
ミギネジは、苦手な血が顔につき、あきらめようとしていたときだった。顔についた血から少しいいにおいがしてきたのだ。もしやと思ってなめてみると、ある事実が判明した。
「これは……、おいしい……。もしや、ケチャップ!?」
「ということは、もしかしたらアレをかければ、一瞬で退治できるかもしれない!」
ミギネジは、急いでバッグから白い粉を取り出した。
残り数秒での大逆転!
「いけ、重曹!」
ミギネジは、敵の頭を回転させて外し、持っているすべての重曹を敵の中に入れた。
しかし、なにも起こらなかった。
「シーン…」
会場が静寂に包まれ、試験官である審査員も渋い顔をしている。
「残り1分~」
「このままだと間に合わない!」
そう思ったミギネジは、敵の頭にフタをして、一心不乱に振り続けた。しかし、時間はあっという間に過ぎていく。
「残り3秒、2秒、1秒……」
その瞬間、
「ピューーーーーーーーーーーーーーー」
赤い液体、いやケチャップが会場全体にすさまじい勢いで舞い飛び散った! その勢いで審査員のメガネにも、びっしりとケチャップがついてしまっている。
「し、しかし、なんで……?」
審査員は唖然としていた。
「酸性のケチャップとアルカリ性の重曹が反応して二酸化炭素がブクブクと発生し、一気に飛び出たのよ!」
「紅い液体と白い粉って、まるで紅白〇合戦ですな~」
審査員のボケはすべっていた。
博夫、ナミ、そして、ミギネジの順位は……!?
「みんな結果はどうだった? 合格って書いてある。しかも2位」
光波ナミは、光波を出す実力やこれまでの社長の護衛などの経歴が買われ、2位で合格していた。
「私は……、合格だけど最下位だった」
ミギネジは面接でしくじったものの、「紅白〇合戦」でツボに入ってしまった審査員の心をわしづかみにし合格していた。
「ミギネジが1位じゃないって、いったいどんな人が1位なんだろう?」
「えーーー! 俺、すごいじゃん!!」
なんと、1位は博夫であった。これまでの多くの戦いの経験や日々鍛えていた体力が買われ、1位で合格していたのだ。ちなみに、博夫は元々、というか、今でもミギネジの助手である。
「なんか悔しい……」
ミギネジの戦いは続く。
■今回のミギネジ必殺技■
必殺技名:「紅白〇合戦」
分野:化学
費用:★☆☆、手間度:★★☆、危険度:★★★
■ミギネジの予備実験室■
~準備するもの~
・ケチャップ(今回は、HEINZを使用。)
・重曹
~実験手順~
①ケチャップのふたを開けて、ケチャップを適量取り出し重曹を入れます。
②ケチャップの蓋を閉めて振ると、容器がパンパンに膨らんでいきます。このとき、蓋は自分や人に向けないようにしてください。
③蓋が自然と開き、ケチャップが容器の中から勢いよく飛び出します。
▼注意事項
・異なる容器で行う場合などは特に、容器が破裂する場合がありますので安全に配慮し自己責任で行なってください。
・ケチャップが飛び散りますので、汚れても良い場所や服装で実験してください。
・ケチャップが飛び出る蓋を、自分や人に向けないで実験してください。
・容器がパンパンに膨らんでもケチャップが飛び出ない場合は、急に飛び出す可能性がありますので蓋をのぞきこまず、飛び出ても良い方向に向かって蓋をそっと開けてください。
五十嵐美樹(いがらし・みき)
科学のお姉さん。
東京大学大学院修士課程修了。東京大学科学技術インタープリター養成プログラム修了。2020年春より東京大学大学院情報学環客員研究員。ジャパンGEMSセンター特任研究員。国際科学オリンピック応援団。
幼い頃に虹の実験を見て感動し、科学に興味を持つ。上智大学理工学部在学時に「ミス理系コンテスト」でグランプリを受賞後、自身が科学に興味を持つきっかけとなった科学実験教室やサイエンスショーを全国各地の子どもたちにむけて開催、講師を務める。科学館や小学校だけでなく、商業施設や地域のお祭り、お寺など幅広い場所でサイエンスショーを開催し科学の一端に子どもたちが触れるきっかけを創り続けている。Great Explorations in Math and Science取得。また、大企業エンジニア職での経験を活かして理系女子キャリアイベントの講師としても活動し、理系女子未来創造プロジェクト理事を務める。女子を対象に理科教育などを実践する個人または団体を表彰する日産財団「第1回リカジョ賞」準グランプリ受賞。
◆著者HP:https://www.igarashimiki.com/
イラスト:桜井葉子
https://www.cubic333.com/tag/sakuraiyoko/
(次回に続く)
※本連載は、毎週日曜日更新となります。
※当面の間、無料公開ですが、予告なしで有料記事になる場合がありますのでご了承ください。
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