#441【ゲスト/編集者】超ヒットメーカー編集者が語る、本づくりの極意
このnoteは2022年7月19日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。
ゲストは、東洋経済新報社 編集第3部編集長・中里有吾さん
土屋:フォレスト出版のパーソナリティを務める、土屋芳輝です。編集部の森上さんと共に今日もお伝えしていきます。森上さん、どうぞよろしくお願いします。
森上:よろしくお願いします。
土屋:本日も素敵なスペシャルゲストをお招きしているのですが。森上さん、今日はフォレスト出版ではなく、他の出版社の編集者さんがゲストに来てくださっているんですよね。
森上:そうですね。僕は十数年前にある1冊の本に出会って依頼、その書籍の担当編集として、お名前だけはずっと存じ上げていて、ずっとお会いしたかった編集者の方なのですが、十数年越しに、今年に入ってお目にかかる機会があって、今回こちらのVoicyに大変お忙しいにもかかわらず、ゲストにお越しいただけるということで、お越しいただきました。ありがとうございます。
土屋:ということでさっそく、ゲストの方をお呼びします。本日のゲストは東洋経済新報社、出版局、編集第3部編集長の中里有吾さんです。中里さん、本日はどうぞよろしくお願いいたします。
中里:よろしくお願いいたします。
土屋:では、さっそくですが、中里さんから簡単な自己紹介をお願いできますでしょうか?
中里:はい。私は1979年生まれの42歳です。2003年に新卒で東洋経済に入社しました。で、いろんな会社があるんですけど、弊社の場合は部門別採用で、書籍で採用されるとずっと書籍の部署にいる人が多くて、雑誌とか記者の人はずっとその状態っていうケースが多くて。私は書籍で採用されたので2003年から出版局、書籍を作る部署にいて、最初の半年間くらいは制作部みたいなところで紙の勉強とかするんですよね。あと校正の仕方とかを勉強して、2003年の10月に編集部に移って、そこからずっと書籍をやっているので、書籍歴は2003年からだから、だいたい20年ぐらいやっているという感じです。編集長になったのは2017年くらいからなので、東洋経済でずっといるポジションの編集長としては最年少らしいんですけど。そこからやっているというかたちです。だいたい153冊ぐらいこれまで作ってきたという感じですね。
土屋:ありがとうございます。森上さんは中里さんとどのようなかたちでお知り合いになったんでしょうか?
森上:前の会社にいたときに、『食品の裏側』という本に出会ったのが一番最初なんですね。で、リスナーの方でもご存じの方が多いと思うんですが、添加物の危険性とか、警鐘を鳴らすという企画コンセプトはもちろんさることながら、本の流れとか作り、それが実に見事で、「東洋経済新報社にはすごい編集者がいるんだな」という印象があって。同業者としてリスペクトを含めて、すごさが伝わってきたんですね。この本の担当編集者が中里さんであることを知って、いつかお会いしたいなと常々思っていたんですよ。で、中里さんはあまり会合とか、表に出て来られるタイプではないという印象があって、今年に入っていろんな編集者が集まるところにたまたまいらっしゃって、やっと念願叶って、お目にかかるという機会をいただいた次第ですね。本日もこういったかたちでVoicyにご出演いただいて、本当にありがとうございます。
中里:いやいや。こちらこそ、ありがとうございます。
森上:ありがとうございます。中里さんがどれだけすごいかっていうことは、ご自身だとお話ししにくいと思うので、私から少しお伝えしますと、『食品の裏側』というご本も……、中里さん、これは、今は何万部くらいいっているんですか?
中里:今、電子も入れて80万部ぐらいっていう感じですかね。
森上:すごい! この本はまだまだいけそうな感じですけども。中里さんは超ヒットメーカーなんですよね。『食品の裏側』以外でも、多くのリスナーの方も知っていると思うんですけど、近年だと魚住りえさんの『たった1日で声まで良くなる話し方の教科書』とか、ムーギー・キムさんの『最強の働き方』、あとは池上彰さん、佐藤優さんの共著の『僕らが毎日やっている最強の読み方』、直近だとこのVoicyでも紹介したんですけども、Voicyのパーソナリティとしても人気の佐々木俊尚さんの『現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全』などなど、きりがないほど、出すもの出すものがベストセラーになっていくという、本当に超ヒットメーカーという。僕の中里さんに対するリスペクトが伝わるかなっていう感じはあるんですけど。土屋さんも今言った本は知っているものが多いんじゃないですか?
土屋:そうですね。今聞いた中でも、読んだ本はいっぱいありますね。
過去の担当書籍からひも解く、中里流編集哲学
森上:そうですよね。今日はどうしても『食品の裏側』の制作秘話についてちょっとお聞きしたいんですけど、こちらが出たのは2005年でしたっけ?
中里:そうですね。2005年ですね。
森上:ですよね。これは、企画のきっかけみたいなものは何かあったんですか?
中里:入社2年目のときに、編集会議みたいなのものがあって、その会議に営業の方も出ていて、営業の方の奥さんが生協系のライターさんだったんですよ。で、著者の安部さんってまだ本を出したことがなくて、そんなにメディアにもたくさん出ていなくて、ただ「暮らしの手帖」か何かに出ていたんですよね。その取材をしたことがあったのが、その営業の方の奥さんのライターさんだったので、「おもしろい人がいる」って教えてもらって。僕は2年目だったので、「じゃあ、僕がちょっと行ってきます」みたいな感じで会いに行ったのが1番最初っていうことですね。それが2004年で、会いに行ったら、おもしろい人だなっていうのと、安部さんも「本を出したい」みたいな感じだったので、そこから1年ぐらいかけて本をつくって、2005年に出したら売れたというかたちですね。
森上:なるほどね。僕がすごく印象に残っているのがサブタイトルの「みんな大好きな食品添加物」っていう。タイトルは『食品の裏側』で、そのサブタイトルがちょっとポップな感じで、読者の心のひだを触るというか、心を揺るがすというか、このコピーはすごくセンスがあるなと思ったんですけども、これも中里さんが全部決められてつくられているんですよね?
中里:こういうタイトルって難しいんですけど。だから『食品の裏側』というタイトルも「こんなんじゃ絶対売れない」っていろんな人に言われて。書店さんからも言われたし、社内からも結構言われて。でも、「いや。ここはこれがいいと思います」って感じで、押し切ったんですけど。この「裏側」にもいろんな意味が込められていて、加工食品の裏ラベルにいろいろな添加物が書いてあって、その「裏側」という意味もあれば、今の僕らの快適な生活の裏でどういう化学物質があるのかみたいな、そういう「裏側」もあるし、食品製造の舞台裏っていう意味もあるし、いろんな意味がこもっているからこのタイトルがいいなと思ったんですけど。
そのサブタイトルの「みんな大好きな食品添加物」っていうのも、みんな「添加物は嫌だ」と思うかもしれないけど、添加物があるから安く買えるし、長持ちするし、朝買ったおにぎりを夕方に食べても大丈夫だし。だから、「支持しているのはあなたでもあるんですよ」みたいな感じで、メーカーも好きだし、売り手も好きだし、実は消費者も好きなんですよっていうそういう意味も込めて、そういうサブタイトルがいいかなと思って、つけたかたちですね。
森上:このサブタイトルが、読者に刃物の先を突き付けたような、すごく鋭いながらも、優しい感じで、絶妙だなと思ったのと、あと「はじめに」の「“白い粉”だけでとんこつスープができる」っていう、一番インパクトがある、衝撃的なネタを最初に持って来て、読者を惹きつけるっていう、この感覚ね。これも中里さん、結構お考えの上で、こうなったという感じですか?
中里:これは今でもそうですけど、やっぱり「はじめに」って、ラブレターじゃないですけど、自己PRみたいなものなので、本編をつくってから、最後に「はじめに」は何回も練り直してつくってみたいな。つまり、どこが「売り」かがわかないと、どの売りを最初に持って来ていいかわからないじゃないですか。「はじめに」はいったんつくっておくんですけど、最後にそこはいろいろと改良に改良を重ねてつくっていくみたいな。私は割と長めの「はじめに」が多いです。
森上:確かに、確かに。8ページ以上。
中里:自分の好みだけじゃなくて、私は割と無名な著者の本をつくることも多いので、そうすると、まずは自分がどんな人かっていうのを読者に伝えないと説得力がないじゃないですか。知っている方だったら別に短くてもいいんですけど、どういう人かってわかるんですけど。安部さんにしろ、どういう人かって最初に伝えないと、この人が何を書くかっていう、いわゆる「WHO」の部分ですよね。「WHO」を言った上で、「こういうことを書いていますよ」って、言わないと、書くだけ書いても「お前は誰だ」ってなってしまうので。そこの部分を冒頭にうまく盛り込むっていう感じにすると結構長めになるという。
森上:なるほどね。原稿を見渡して、インパクトのある事実を、「これはもしかしたら“はじめに”に、使えそうかな」なんていうことを考えながら編集をされていて、かつ、その著者の権威性をちゃんと「はじめに」に入れていくのが、中里さんの本づくり意識としてあるというところですよね。それを「誰が言っているのか」っていうのは一番重要ですよね。その著者の権威性が、やっぱり本の入り口と訴求力になりますもんね。
中里:本って基本的にはお金を出して買うものなので、娯楽とかは別にすると、やっぱり実用書って、基本的には著者に教えてもらう本じゃないですか。著者に話し方を教えてもらったり、著者に食べ方だったり、食品の見抜き方を教えてもらうので、ある意味、本を買うというのは、著者は先生なんですよね。先生に教えてもらうっていうことだから、やっぱりその人がいかにすごい人か、先生であるかっていう、「この人に教えてほしい」って思うことがまず冒頭にないといけないじゃないですか。それがあるから説得力が出るみたいな感じで。
森上:なるほどね。これはまだ駆け出しの編集者にはすごく参考になるお話だと思いますね。うちにも新人が入っているので、ぜひこれを聞かせなきゃと思っております。
中里:ありがとうございます(笑)。
森上:本当におっしゃるとおりですね。そして、このあたりのご本はさることながら、ずっと書籍を作り続けて165冊?
中里:だいたい150冊ぐらいですかね?
森上:その中でも数々のベストセラーを続々とこの後も出されていて。近年だとやっぱり、インパクトあったのは、魚住りえさんの『たった1日で声まで良くなる話し方の教科書』。これについてのお話を中里さん以外の方にお聞きしたんですけど、最初は原稿の内容が全く違っていて、いい意味で中里さんがひっくり返して、この方向に持って行ったっていうのを、伝説のようにお聞きしたことがあるんですけど、実際はどうだったんですか?
中里:私が今までつくってきた本で10万部を超えたのって14冊ですかね。だから、割とコンスタントに10万部が、毎年とは言わないですけど、結構出ているんですけど、作家の人もそうですけど、10年経ったら入れ替わるじゃないですか。やっぱり編集者も20年、ずっとコンスタントにベストセラーをつくっている人ってあんまりいないんですよね。で、「なんで作れるんですか?」「他の人と何が違うんですか?」ってたまにセミナーとかでも聞かれるんですけど、私がもしつくれるとするならば、やっぱり著者に依存していないつくりをしているからだと思います。
森上:なるほど。
中里:編集者って、やっぱりこの人が売れたら、この人に行ってみたいな感じで、何かが売れたら、それの2っぽいものをみたいな、いわゆる二匹目のどじょうを狙っていくじゃないですけど。私の場合は、この人が売れているからいくというよりも、自分がおもしろそうだったらつくるという感じで。魚住さんも本を出したいとのことで、最初は他社に話を持って行って、断られているんですよね。
森上:魚住さんのほうが出版社に声をかけていたわけですね。
中里:そうなんです。魚住さんは第一局アナ世代というか。
森上:フリーになってだいぶ経ちますよね。
中里:局アナを辞めてフリーになっていて、やっぱり本を出したいっていう気持ちがあったので、いろんな出版社に行ったんだけど、結構断られて。で、僕のところに相談がきたみたいな感じで、「やりましょうか」ってなって。魚住さんがつくりたかったのは、ボイトレとは言わないですけど。魚住さんって、コミュニケーションの専門家というよりはどちらかというと朗読だったり、アナウンサーの方ってそうじゃないですか。朗読だったり、原稿をちゃんと伝えるみたいな仕事なので。だから、最初は「こうすれば声がよくなる」みたいな、声の本だったんですね。
森上:声の本だったんですね。
中里:どちらかというと。彼女は1番そこが得意というか。なんですけど、声の本だと売れないじゃないですか。だから、話し方っていう、ビッグマーケットの本で、「じゃあ、声と話し方の本にしましょう」みたいな感じでつくっていって。で、最後にいいタイトルが思いついたなと思うんですけど。「声と話し方の教科書」っていう、ダブルメインの本ではあるんだけど、そこで2本立ての看板まで見せちゃうと、ちょっと弱くなるかなと思って。
森上:なるほど、なるほど。
中里:1個下げて、「声まで良くなる話し方」と。
森上:なるほど。
中里:だから、「声と話し方の教科書」よりも、「声まで良くなる話し方の教科書」とすると、お得感が出るかな、みたいな感じで。そういうふうにうまく設定してつくっていったみたいな感じですね。
森上:メインを「話し方」に持っていったんですね。そして、「声までも」をおまけというか、プラスアルファとして。
中里:本当は声と話し方の二本柱の本なんですけどね。
森上:そういうことだったですね。そういう意味では、これも結構お時間をかけておつくりになられたっていう感じなんですか?
中里:やっぱこれも、初めて本を出す人だから、原稿がほっといたら全部完璧にできるっていうものでもないので、そこは割とやりとりしてというか。いろいろとこっちでも考えてというか。ネタを出してみたいな感じで。あとは著者の話を聞いて、どの辺が売りになるのかっていう構成をこっちで考えたりっていう。その辺の時間はかかりますけど、逆にその辺を著者に任せてない分、割と商品性が高いものができるのかもしれないですね。本の構成って難しいですからね。
森上:おっしゃるとおりですね。そこは一番の肝であり、著者さんの強みも、ご自身が気づいていないことをこちらが気づくっていう場合もありますもんね。
中里:ありますよね。どこがおもしろいかっていうのも、それはいいですねっていう部分もあるし、それをどう並べたら読者に一番惹きがあるかっていうか、並べ方の問題。本って10万字くらいあるので、その10万字を、ストーリーを持ってつくるっていうのは、やっぱりなかなか本をつくり慣れてないと難しいですよね。
森上:なるほどね。中里さんが細かいところまで含めて、手取り足取りで編集の作業をされているっていうのはお聞きするんですが、最近の御本で言うと、佐々木俊尚さん、ご自身のVoicyでもお話されていましたが、『現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全』、あれも第一稿がアップしてから、かなりのお時間を割かれたとお聞きしたんですけど、これもかなり細かいところまで書き直しをしてもらったり?
中里:佐々木さんの場合は、ご自身で原稿を書かれる方なので、基本ライターさんもいなくて、1対1で原稿をやりとりするんですけど。最初に書き下ろしで書いていただいたんですけど、佐々木さんも頭のいい方なので、頭のいい方ってやっぱり書くものが難しくなる傾向にあるんですよ、一般的に。だから、「はじめに」なんかも冒頭に「この本の目的は情報を四次元化することである」みたいに難しい感じで(笑)。今の「はじめに」と全然違うみたいな感じで(笑)。だから、今の「はじめに」と最初に「はじめに」じゃ、3行くらいしか被ってないみたいな。
森上:そうですか。
中里:「全部こういうふうに書いてくれ」みたいな感じで、お願いし直してもらったっていうか。
森上:今回の佐々木さんの件は、佐々木さんご自身がお書きになられると思うんですけど、いざとなったら自分で書いちゃおうと思うときってあったりしますか?
中里:本文まで全部はなかなか書く時間がないんですけど、「はじめに」なんかは割とこちらで書くというか。例えば、「本書を書きたいと思った理由は3つある。1つ目は……」、「この……を決めてください」みたいな感じの。
森上:なるほど、なるほど。
中里:で、「本文ではこの辺のコンテンツをここにつなげればつながるので」っていう感じで。で、「2つ目は……」、「この……を埋めてくれ」みたいな感じで。そういうかたちで書くことは結構あります。そこまでやってあげると、著者の人も書きやすいっていうのはあると思うので。
森上:なるほどね。書きやすい枠みたいなものはこっちで一回用意してぶつけてみるというところですよね。
中里:はい。あとは、今ある原稿の中で強いところを「はじめに」に持ってきたりするっていうのも。そのままカット&ペーストしただけだと文脈がちょっと違うからうまくつながらなかったりするじゃないですか。そこを持ってきて、「ここにはまるようにちょっと直してくれ」とかっていう指示は結構しますよね。
森上:なるほどね。いわゆる「ダイジェストにしてくれ」というところですよね。
中里:ゼロから書くことは少ないけれども、全くやらないわけでは当然なくて、どちらかというと、設計図を書いて、そこをコンテンツで埋めてもらうみたいな感じで。そのコンテンツを埋めるのは著者でないとできなかったりするので。
森上:そういうところですよね。なるほどね。すごく勉強になりますね。本づくりにおいて、中里さんが心掛けていることっていうのは、今までもすでにいろいろとお話を伺っていますが、改めてお聞きしてもいいでしょうか?
中里:心がけていることはいろいろとありますけど、やっぱり本って中身を読んでから買う人っていないじゃないですか。書店で見て、カバーとか「はじめに」を見て買うので、売り逃げ逃亡販売みたいなことをするのはよくないな、みたいな。
森上:なるほど。
中里:売れそうなタイトルと、帯コピーと、「はじめに」だけ用意すれば、ある程度そこでね。それを見て買っちゃって、「がっかり」っていう。そういう本ってつくろうと思えばつくれるのかもしれないですけど、そういうことをしていると「本っておもしろくないね」って。その本は買ってくれるけど、次の本は買ってくれなくなるじゃないですか。
森上:そうですね。
中里:長期的につながってくるみたいなところもあると思うので。だから大事にすることは「読者を騙さない」っていうか。編集者ってコンテンツのゲートキーパーみたいなものなので、60点のものを出しちゃうのか、もうひと手間かけて80点までつくり込むのか、そこは編集者じゃないとできなかったりするじゃないですか。だから、「読者を騙さない、裏切らない」。読んだ後の満足感はもちろん人によって違うんですけど、納得して、「これだったら恥ずかしくなく出せる」みたいな本を作るっていうのが1つの自分の中での職業的良心かなみたいなのはありますかね。あとは、20年ぐらいやってきて、実績もあって、「他社でこの人が売れているからやる」っていう、そういうことをやってもしょうがないなと思っていて。やっぱり「自分にしかつくれないものを1冊でも多くつくっていきたいな」という気持ちはあるんですよね。
自分にしかつくれないものっていうのは、例えば「新しい著者のもの」。やっぱり新人の著者だとなかなか企画が通らなくても、一応こうやって実績があると「彼にだったら任せていいだろう」っていう企画もあるので、新しい人だったり、同じ著者でも新しいテーマだったり、逆にすごく時間がかかるようなやつとか、お金がかかるような企画とか、そういう自分にしかできないものを1冊でも増やしていこうかなっていう。編集者って、会社によるんですけど、後ろのクレジット、奥付に名前が載ったりするじゃないですか。あれって、自信のないものとか、手を抜いた本ほど消したくなるんですよ
森上:(笑)。
中里:やっぱり、「これまずいな」っていうものほど、担当編集の自分の名前を消したくなるんです。それはまずいなと思って。自分の名前を出しても恥ずかしくないもの、読者の人で知らない人はもちろんたくさんいるんですけど、他の人とか、書店さんとかは見ていたりするので、「こんな本を出しているんだ」って言われないように。売れる、売れないは別にしても、「いい本作っているね」っていうのは、大事にしているとこかな。
森上:なるほど。御社は、最近はずっとクレジットを入れるようにしているんでしたっけ?
中里:そうですね。編集担当として奥付のところに入っております。
森上:昔は入れたり、入れなかったりという感じでしたよね?
中里:そうですね。会社によっても違いますよね。
森上:そうですね。中里さんは企画、ネタを考えるときはテーマから考えるのか、人から考えるのか、そういうのってありますか? 傾向みたいなものは。
中里:本って基本的には人で買うか、テーマで買うかの二択なんですよね。村上春樹さんだから買うっていう、人で買うパターンと、あとはテーマで、おいしい和食レシピが欲しいからとか、ダイエットしたいから買うっていう。人かテーマがどっちかで買う訳じゃないですか。僕はどっちかというと人のほうが多いですかね。この人はおもしろそうだからって、おもしろそうな人を探してきて。
ただ、例えば空き缶コレクターの空き缶の本とかをつくってもあまり売れないじゃないですか。だから、いくらおもしろくても、テーマになかなか読者の関心が及ばないものだと、本をつくるのは難しかったりするので、おもしろそうな人を探してきて、みんなが興味のあるようなテーマ、睡眠とか、食べ方とか、話し方とか、ダイエットとか、そういうところと絡めていくっていう感じでつくる、みたいな。だから、まずは人ありきです。テーマから探すことは少ないですかね。
森上:そうですか。なるほど。僕もどちらかというと、人からで。でも、編集者によってはテーマから企画を立てる人も結構いらっしゃったりとか。
中里:それは登山と一緒で、頂上に登る道にはいろんな道があって、別に必ず人から探さなきゃいけないとか、テーマから探さないといけないとかじゃなくて、いろんな道があって、自分はこっちから登ることが多いけど、でもテーマから探すことも、もちろんあります。もちろんあるので、そこは別にどっちを否定するとかっていうよりも、10:0じゃないっていうことですね。
森上:そうですよね。なるほど。いろいろとお聞きしてきたのですが、ちょっとお時間が迫ってきまして……。土屋さん。
土屋:はい。ありがとうございます。いろんな貴重なお話をお聞きできて、とても勉強になったんですけれども。そんな中里さんが担当された最新刊がなんと3冊あるということで、ムーギー・キムさんの『京都生まれの和風韓国人が40年間、徹底比較したから書けた! そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』、岡本純子さんの『世界最高の雑談力』、そして遠藤功さんの『「カルチャー」を経営のど真ん中に据える』という、3冊があるということで。これはまたジャンルが比較文化からビジネススキル、そして経営という幅広さで、しかも6月末から7月刊行で3週連続という、もはや「週刊中里」状態になっているんですけれども。
中里:(笑)。
土屋:明日はこちらの話を伺っていきたいなと思っております。タイトルを聞いただけで気になるという方は明日の放送前までに電子書籍だとチェックできると思いますので、ぜひチェックしてみてください。ということでは、また明日もよろしくお願いします。中里さん、森上さん、本日はありがとうございました。
中里:ありがとうございました。またよろしくお願いします。
森上:ありがとうございました。
(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)