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「定期的な1on1」をやめたほうがいい4つの理由
フォレスト出版編集部の寺崎です。
突然ですが・・・みなさんの会社では「1on1」をやってますか?
1on1はアメリカのシリコンバレーが発祥だとされています。激しい人材の争奪戦が繰り広げられているシリコンバレーでは、優秀な人材が他社に流出しないよう、人材育成や囲い込みをするための手段として1on1を導入するようになったと言われています。
日本では、2017年に出版された『ヤフーの1on1』(本間浩輔著・ダイヤモンド社)がきっかけとなって広まりました。本書では「週1回、30分の『部下のための時間』が人を育て、組織の力を強くする」とされ、さまざまなノウハウを開示することで一般的になりました。
このように一般化しつつある「1on1」「1on1ミーティング」ですが、これこそが無理ゲー化しつつあるプレイングマネジャーをさらに無理ゲーにしている一番の原因であり・・・
「いっそ1on1なんてやめちまえ!」
・・・というのが、本論の趣旨です。
いったいどういうことか。
『成果を上げるプレイングマネジャーは「これ」をやらない』から引用してご紹介します。
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「定期的な1on1」がもたらす4つの弊害
「定期的な1on1」は、4つの弊害があります。
【「定期的な1on1」がもたらす4つの弊害】
弊害① 上司の仕事を増やす
弊害② 噂話で上司のモチベーションを低下させる
弊害③ チーム会議の活性化を阻害する
弊害④ 全体のコミュニケーションに時間がかかり、質が低下する
それぞれポイントを説明しましょう。
「定期的な1on1」の弊害① 上司の仕事を増やす
実際の1on1の場面を想像してみてください。
メンバーが自分の困りごとを説明します。メンバーは、その困りごとを上司に解決してもらえると思って相談します。
この瞬間に、問題を解決するタスクはメンバーから上司に移管されてしまうのです。はい、これで上司であるプレイングマネジャーに1つ仕事が増えました。ただでさえ忙しいプレイングマネジャーの貴重な時間が1on1によって奪われるのです。
しかもこの移管された仕事の大半は、管理職がやるべき仕事ではなく、本来であればメンバーが解決すべき仕事だったりします。
しかも、たちが悪いことに、1on1はクローズドな環境で対話をしています。もちろん、心理的安安全性を担保するためには必要なことです。
したがって、1on1で聞いた内容の詳細を周囲に話せないことがあります。そうなると「メンバーから聞いた話が事実かどうか」を確認するための現状把握だけでも時間がかかるのです。
こうしてさらにプレイングマネジャーの貴重な時間が失われます。
「定期的な1on1」の弊害② 噂話で上司のモチベーションを低下させる
人は一般的に、悪口や陰口を言うのが好きです。噂話も大好きです。
しかし、それを公の場でする人はそんなに多いわけではありません。
ところが、1on1の場では事情が異なります。
メンバーは本音を話してよい、あるいは上司は部下の本音を把握する必要があるという間違った前提があったりします。すると、大勢の前では悪口を言えない人でも1on1の場では言えたりするのです。これに噂話も加わりがちです。
そのような話を聞くと、弊害①と同様にプレイングマネジャーは人間関係などの配慮に対応しなければいけなくなり、確実に生産性が下がります。
そして、さらに悪影響を及ぼすことがあります。
そもそも人の悪口は、聞いていてもあまり気持ちのいいものではありません。したがって、聞いているプレイングマネジャーのモチベーションが下がってしまうのです。職場のメンバーは家族でもなければ、友人でもありません。職場は仕事をする場です。ところが、悪口や陰口を言いやすい場になるのが1on1の弊害なのです。
運用に気をつけないと、ひどい場合は、プレイングマネジャーのメンタルに悪影響を及ぼす場合もあります。
「定期的な1on1」の弊害③ チーム会議の活性化を阻害する
上記2つの弊害を放置すると、さらなる弊害を誘引します。
1on1を定期的に行っていると、メンバーは「何か言いたいことがあっても、1on1で相談をすればよい」と考え始めます。
すると、チームメンバーが集まる定例会議(チーム会議)で誰も発言をしなくなりがちです。つまり、定例会議が機能しなくなるのです。
日本の企業は、そもそも会議で活発に意見をぶつけあうことが少ない傾向があります。みんなの前で意見を言うのが苦手、あるいは意見を言うと批判を受けるかもしれないと考える人が少なくないからです。
ところが1on1は違います。
相手は1人なので卒直な意見を言いやすい環境です。しかも、マネジャー側は人事部の研修で、「傾聴しなさい」「受け取りなさい」と繰り返し教わっているので、ていねいに聴いてくれます。
その結果、チーム会議で発言する必然性が下がってしまいます。
メンバーが会議で何かを発言しようと思っても、「次の1on1で個別に話をしよう」と考えがちになるのです。当然ながら、会議での対話や議論が激減します。
例えば「現場の意見が欲しい」あるいは「実行する際のリスクを想定したい」と意見を求めても、会議が機能しなくなってしまいます。周囲の空気を読む傾向が強い日本では、みんなが発言しなくなると誰も発言しなくなります。
「定期的な1on1」の弊害④ 全体のコミュニケーションに時間がかかり、質が低下する
会議で議論すれば簡単に済む話が、弊害③が進むことでチーム会議が機能しなくなり、その結果、さらに多くの1on1が必要になります。
いわゆる「ハブ&スポーク型のコミュニケーション」が必要になるのです。1on1で話をした内容を、プレイングマネジャーがハブになって、さらに別の1on1で伝えなければならなくなります。
こうしてプレイングマネジャーの生産性はどんどん悪化していきます。しかも、1人1人に個別に情報を伝える必要があるため、タイムラグも生じてしまいます。
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中尾隆一郎(なかお・りゅういちろう)
株式会社中尾マネジメント研究所(NMI)代表取締役社長
株式会社LIFULL取締役。LiNKX株式会社取締役。
1964年生まれ。大阪府摂津市出身。1989年大阪大学大学院工学研究科修士課程修了。同年、株式会社リクルート入社。2018年まで29年間同社勤務。2019年NMI設立。NMIの業務内容は、①業績向上コンサルティング、②経営者塾(中尾塾)、③経営者メンター、④講演・ワークショップ、⑤書籍執筆・出版。専門は、事業執行、事業開発、マーケティング、人材採用、組織創り、KPIマネジメント、経営者育成、リーダー育成、OJTマネジメント、G-POPマネジメント、管理会計など。
著書に『最高の結果を出すKPIマネジメント』『最高の結果を出すKPI実践ノート』『自分で考えて動く社員が育つOJTマネジメント』『最高の成果を生み出すビジネススキル・プリンシプル』(フォレスト出版)、『「数字で考える」は武器になる』『1000人のエリートを育てた 爆伸びマネジメント』(かんき出版)など多数。Business Insider Japanで「自律思考を鍛える」を連載中。
リクルート時代での29年間(1989年〜2018年)では、主に住宅、テクノロジー、人材、ダイバーシティ、研究領域に従事。リクルートテクノロジーズ代表取締役社長、リクルート住まいカンパニー執行役員、リクルートワークス研究所副所長などを歴任。住宅領域の新規事業であるスーモカウンター推進室室長時代に、6年間で売上を30倍、店舗数12倍、従業員数を5倍にした立役者。リクルートテクノロジーズ社長時代は、リクルートが掲げた「ITで勝つ」を、優秀なIT人材の大量採用、早期活躍、低離職により実現。約11年間、リクルートグループの社内勉強会において「KPI」「数字の読み方」の講師を担当、人気講座となる。