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「芸人がみとめた芸人の本」は面白いのか?

こんにちは。
フォレスト出版・編集部の美馬です。

先日、アメトーーク!(テレビ朝日)『本屋で読書芸人』の放送後に、気になった書籍を購入したという話を下の投稿でしました。

『文豪たちの悪口本』という書籍を紹介しています。Aマッソ加納さんがおすすめされていたなかなかマニアックな書籍ですが、これがかなり面白いので、文学好き、そして『文豪ストレイドッグス』好きにはぜひ読んでほしい1冊。


さて、実は、あの放送を観てから気になって購入した書籍がもう1冊あります。こちらもAマッソ加納さんが紹介されていた作品。もしかしたら加納さんとは本の趣味が同じなのかもしれません。うれしい!

『僕の心臓は右にある』(大城文章/朝日新聞出版)

その1冊というのは、芸人のチャンス大城さんのエッセイ本。

【著者プロフィール】
大城文章(おおしろ・ふみあき)
芸人。チャンス大城。一九七五年尼崎生まれ。
中学三年で大阪NSC(八期)に入るが
退所し、定時制高校に通う。
その後、再び大阪NSC(一三期)に入る。
上京後、地下芸人時代を経て、
現在は吉本興業所属芸人として活躍。
工業地帯と海辺の風景が好き。
趣味は、夜音楽を聴きながら散歩すること。
座右の銘「おまえ、その執念、忘れるなよ」

『僕の心臓は右にある』(大城文章/朝日新聞出版)より

実は私、チャンス大城さんのこと存じ上げていなかったんです。地下芸人の代表と呼ばれている人物っぽいのですが、そもそも「地下芸人」ってなんだ? という感じ。

ちなみに調べてみたところ、地下芸人とは、インディーズライブを中心に活躍する芸人のことのようで……、(つまり売れてない芸人ってことのような気もしますが)大衆ウケしにくい尖ったネタを披露することが多く、コアなお笑いファンを持つことも特徴とのこと。

チャンス大城さん本人が、地下芸人について言及している記事もありました。

話が逸れましたが、その地下芸人のチャンス大城さんは、書籍タイトルのとおり、なんと心臓が右にあるようなのです。内臓逆位と呼ばれる症状で、内臓の一部が鏡に映したように反対になることを言います。これだけでも驚きなのに、本書で語られる内容はもっとずっと驚かされるものばかり。

幼少期のいじめ、宗教の問題に直面したり(父親がクリスチャンだったようです)、30年にわたり売れない下積み生活を送っていたり……、あまり明るく語ることのできないエピソードのはず。しかし、チャンス大城さんの持ち前の明るさと、個性的なキャラクターの力で、どれもクスっと笑える面白エピソードに変わっているんです。

 プロローグ
 僕の一日は、床から始まります。
 玄米を炊飯器で炊いて、みそ汁にサバ缶と刻みネギを入れて、オリーブオイルで炒めた野菜を一品、しらすと納豆とバナナ・ヨーグルト。
 むちゃくちゃ健康的でしょう。
 いろいろあって、お酒をやめて、健康的な生活に切り替えたんです。
 これをみんな床の上に並べて、床に座って食べる。武田鉄矢さんのラジオ、「今朝の三枚おろし」を聴きながら食べるんです。
 一応、隣の部屋にテーブルはあるんですが、床に座って食べた方が落ち着くんです。「明石家サンタの史上最大のクリスマスプレゼントショー」でさんま師匠からもらったベッドも持っているんですけど、まだ箱から出してません。やっぱり床に布団を敷いて寝た方が落ち着くし、なんかベッドって、洋風っていうか、高級っていうか、偉そうな感じがするやないですか。  なんで、そう思うんかな。
 やっぱり僕には、ストリートの血が流れてるんかな。
 いや、ストリートなんてかっこつけすぎやな。
 ホームレスになったことはないけど、ずっとホームレスすれすれの生活をしてきたから、地べたの方が落ち着くんかな。
 きっと僕の体の中に、路上の気分があるんだと思います。路上魂、とでも言うんでしょうか。
(中略)
 そういえば、前に住んでいた風呂なし共同トイレのアパートに、玉置ピンチ!さんが泊まりにきたことがありました。玉置ピンチ!さんは、僕と「右心臓800」というコンビを組んでいた先輩芸人さんなんですが、陸上の800メートル走で国体に出たことがあるんで、玉置さんが「800」。僕は先天的に内臓逆位で、心臓も右側にあって、だから「右心臓」。ふたり合わせて、「右心臓800」というわけです。
 玉置さんは、チリひとつない部屋に住んでいる、ものすごい潔癖症の人でした。
 僕はその風呂なしアパートでも床に布団を敷いて、毛布にくるまって寝ていたんですが、そこには虫がアホほどいたらしいんです。でも、尼崎のドブネズミと言われたほどの僕ですから、虫なんて全然平気でした。
 ところが、玉置さんが僕の使っていた毛布にくるまって寝ようとしたら、「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」
 っていきなり変な呼吸を始めたんです。
「玉置さん、玉置さん? 大丈夫ですか?」
 潔癖症の玉置さんは、アナフィラキシーショックというのになってしまったんです。あんまり虫が多いから、皮膚がたまげてしまったらしい。
 それで救急車を呼んだのですが、僕は玉置さんの苦しそうな呼吸を聞きながら、
「人間って、毛布かぶっただけで呼吸困難になんねんな」
 って不思議な感動に包まれていました。
 地域によるみたいですが、救急車って料金がかかることがあるんですね。玉置さんは潔癖症なんで、後で救急車代をちゃんと払ってくれました。

『僕の心臓は右にある』(大城文章/朝日新聞出版)
プロローグより

本当にずっと読んでいても飽きない、何かネタの台本を読んでいるような感覚に。潔癖症の玉置さんとのくだりがとくにお気に入りで……、本を読んで声に出して笑ったのは生まれてはじめてかもしれません(笑)。

このプロローグの続きに出てくる、同じ内臓逆位の女の子との奇跡的すぎるエピソードや、父親の寝室に野犬を放り入れたエピソード、兄と神父さんの掛け合いエピソードも、もう本当にとびきり笑えるので、本を読んで笑いたい!!! 元気になりたい!!! と思っている人は絶対に読んでほしい1冊です。

少し前に比べて、本を出される芸人さんが増えてきたように思います。”読書芸人”という枠も確立してきているように、芸人さんはお笑いだけでなく、いかに良い本を出せるか、ということも気にされているご様子……。そんななか、チャンス大城さんの今回の書籍は、多くの芸人さんから絶賛され、支持を集めています。

「芸人がみとめた芸人の本」というわけです! 


最後に、わたしと本の趣味が似ているであろうAマッソ加納さんの、そのほかのおすすめ作品を勝手に紹介して締めくくりたいと思います。

『君のクイズ』(小川哲/朝日新聞出版)

『おいしいごはんが食べられますように』(高瀬隼子/講談社)

『笑うな』(筒井康隆/新潮社)

『嫌いなら呼ぶなよ』(綿矢りさ/河出書房新社)

『アホウドリの迷信』(岸本佐知子・柴田元幸翻訳/スイッチ・パブリッシング)

以上の5点もAmazonのショッピングカートで眠っています。いつ買うのやら。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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