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【フォレスト出版チャンネル#134】フリートーク|編集者おすすめの3冊 【4】
このnoteは2021年5月20日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。
国語の教科書に載せてほしい『僕は模造人間』
今井:フォレスト出版チャンネルのパーソナリティを務める今井佐和です。今日は「編集者おすすめの3冊」ということで素敵なスペシャルゲストをお呼びしています。フォレスト出版編集部の石黒さんです。よろしくお願いします。
石黒:よろしくお願いします。石黒です。スペシャルと言われるのは恐縮なんですけど・・・。頑張ります。
今井:はい。では早速、石黒さんおすすめの3冊を紹介していきたいと思います。
石黒:おすすめの3冊ということで、「今日そういえばそんな収録があるな」と思って朝、自宅の本棚を見たんですけど、そこからちょっと適当に3冊選んできました。特に一貫性が何にもない選び方なんですけど、まずは小説ですね。これはもう絶版になっている本で、『僕は模造人間』って言う島田雅彦さんの小説です。
今井:『僕は模造人間』、新潮文庫さんからですね。
石黒:はい。島田さんはご存知の方も多いと思うんですけど、今芥川賞の選考委員をやっていて、過去に6回、芥川賞候補になるんですけど、全て落選して最多落選記録を持っている作家さんで、なのに芥川賞の選考委員をやっているっていう、文壇ではトップの方になります。私がなんでこの本を選んだかと言うと、確か高校時代か予備校の時に読んだ本なんですね。だから、もう今から20年以上前なんですけど、その時はやっぱり本とかあまり読んでいなかったんですよね。その頃は思春期なんで非常に頭の中がモヤモヤしていたんですけど、その時にたまたまこの小説を読んで非常に救われたんですね。単純に頭の中おかしいし、「死んじゃおうかな」とか普通に毎日思ってたんですけど、これ読んだら爆笑しちゃって。
今井:面白系の本なんですか?
石黒:面白系って言うか知的ではあるんですけど、筆致が軽妙で内容もかなりお下品な話とかもあって(笑)。声を出して笑えたんですよね。こういうノリの小説が芥川賞の候補になるんだと思ったら、文芸の世界って懐が深いんだなと思って、それ以来小説とか本とかたくさん読むようになったきっかけの本ですね。内容はと言うと、主人公の名前が亜久間一人(あくまかずひと)って言うんですよ。イントネーションとしては、「あく↓まかずひと」なんですけど、学校とかに行ったらやっぱり「あく↑まかずひと」って言われて、「悪魔が水を飲んだ」とか、「悪魔がトイレに行った」とか、それだけで漫談のネタにされるっていう、そういうキャラクターで、そういう名前がきっかけで倒錯した性格で10代を過ごしていくという内容で、非常に笑えるんですよね。その笑えるって言うのが下品なんですが、例えば小学2年生の時におちんちんが気になって夏休みの自由研究におちんちんの研究をしようとしたり(笑)。
今井:純粋な感じもしますね。
石黒:純粋なのかな(笑)。あと、これも小学2年生の時なんですけど、まだおしりが青かったみたいなんですよね。
今井:蒙古斑ですかね。
石黒:そうそう(笑)。だから「まだおしりが青いのね」って言われて、それが恥ずかしかったんで、本を読むと「おばの足を見てパンティストッキングを履くと足の色が変わることを発見し、早速試してみることにした。タンスから母のパンティストッキング、それも濃いブラウンを引っ張り出し素っ裸になってそれを履いた。ウエストのバンドを肩まで引き上げて洗濯バサミで留め、僕はどんなもんだとばかり悩ましい白タイツ姿のバレリーナよろしく、おばの前に仁王立ちした。」みたいな。
今井:かわいいですね(笑)。
石黒:かわいいのかな(笑)?こういう倒錯したことを高校卒業くらいまで綴っているんですけど、こういう馬鹿みたいなことを皆考えて生きているんだなと思ったら非常に気持ちが楽になったという、そういう1冊になります。これこそ、僕は小学校とか中学の国語の教科書に載せてほしいなって、そういう作品ですね。国語の教科書って今読むと印象違うかもしれないんですけど、教訓めいた小説とか道徳的なものが多かったりするんですけど、そういうのって響かないんで、思春期の悩んでいる子たち、中高校生におすすめなんですけど、是非こういう『僕は模造人間』みたいな作品をお読みいただきたいなと思っております。
今井:大人にもおすすめですか?
石黒:大人が読んでも面白いと思いますよ。でも、やっぱり一番読んでほしいのは中高生。ちょっと救われると思います。
今井:はい。ということで、石黒さんおすすめの1冊目は『僕は模造人間』島田雅彦さんでした。続いて石黒さんおすすめの2冊目をお願いします。
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今井:続いて石黒さんおすすめの2冊目をお願いします。
ひなびた町を旅したくなる『貧困旅行記』
石黒:2冊目はつげ義春さんの『貧困旅行記』ですね。
今井:『貧困旅行記』。
石黒:はい。つげ義春さんは有名な漫画家で、『ねじ式』とか、『紅い花』とか芸術の域に達しているような漫画とも評される、そういう漫画家さんなんですけど、非常に暗いんですよね。非常に暗くてインタビューとかでも「人生、楽しいことなんで一つもなかった」みたいなことを語るような漫画家さんなんですよ。その人が書いた旅行記。漫画ではなく文章で書いているんですけど、これも私が大学生の時につげ義春に出会って、だいたい20年以上前の大学生とかってサブカルにハマると絶対つげ義春に出会うんですよね。
今井:そうなんですね。
石黒:そういうもんですね。それで、「つげ義春だ。芸術だ。」なんて言って、わかったようなことを語ってたりするんですけど。
今井:(笑)。
石黒:私もそれのご多分にもれず、つげ義春の漫画とかこの『貧困旅行記』を読みました。何が貧困かと言うと著者曰く、お金もあまりないので貧困というのと、自分の文章表現とかそういったものが貧困だから、『貧困旅行記』にしたと書いてあるんですけど、ところが中身は非常に面白くていいなと。何がいいのかと言いますと、つげ義春さんって最初の旅のテーマにもあったんですけど、「どっかに蒸発したいな」とかそういうふうに考える人なんですよね。「もういなくなりたい」とか。
今井:すごく漫画で成功されていらっしゃるのに消えてなくなりたいみたいな感じなんですか?
石黒:ちょっとニュアンスが違って、漫画で成功したとも言えないんですよ。
今井:そうなんですね。
石黒:なんでかって言うと儲かってもいないんで、この人。ただカルト的な人気って言ったらなんですけど、そういうのがあって性格が暗いんですよね。ただそういう意味で私の大学生時代の鬱々とした精神状態とマッチして、これを読んで「旅っていいな」って思いました。要するに私も沢木耕太郎の『深夜特急』とか読んで海外でバックパッカーの真似事みたいなことをしたくちなんですけど、日本旅行についてはつげ義春さんの影響をかなり受けたなと思います。やっぱり私も派手なところ、きらびやかなホテルとかよりもひなびた温泉旅館とか観光客が誰もいないようなところに異邦人として行くっていうのがロマンチックに感じていいなと。例えば養老渓谷ってご存知ですか?
今井:はい。
石黒:ご存知?千葉県出身?
今井:千葉県ではないんですけど、車で行ったことがあります。
石黒:養老渓谷の話もあるんですけど、それに影響されて私も大学時代に旅をしたんですよ。で、ここに書いてある、つげ義春が巡った町とか写真とかあって、「川の家」って宿があるんですけど、私もここに行ったりして、つげ義春が歩いた道のりを私も歩いたりしました。
今井:実際に行ってみていかがでしたか?
石黒:変なおっちゃんがいたんですよね。私も二十歳くらいで一人でいたんで、面白がって変なおっちゃんがいたんですよ。で、「ここは夜になるとコンパニオンの女の子がいっぱいいて、選び放題だぞ」みたいな余計なことを言ってくるんですよね、タバコ吹かしながら。下にはすごく綺麗な川が流れているんですよ。で、そのおっちゃんがタバコの吸い殻を川の中にポイって捨てるんですよね。
今井:おっと・・・。
石黒:で、地元の人とかって町の自然とか空気を大事にするイメージを勝手に持っていたんですけど、そういうの全然ないんだなっていうことがわかってちょっと新鮮だったなっていう・・・。
今井:なるほど(笑)。そこに新鮮さを感じたんですね。
石黒:へーって思って、あんまり地元を大事にしてないんだなって。それも一つの旅の楽しさかなっていう。そんな感じを受けました。そういう意味で今コロナで自粛していますけど、この『貧困旅行記』に出てくるようなひなびた町とか温泉宿とかそういったところは人いないから遊びに出てもいいんじゃないかなと。
今井:そうですね。
石黒:個人的に思ったりします。
今井:はい。石黒さんの2冊目はつげ義春さんの『貧困旅行記』、新潮文庫さんでした。では最後、石黒さんおすすめの3冊目をお願いします。
虐待の連鎖に絶望を覚える『「鬼畜」の家』
今井:では最後、石黒さんおすすめの3冊目をお願いします。
石黒:はい。前の2冊は20年以上前に読んだ本なんで、ちょっと古かったんですけど、次ご紹介するのは石井光太さんの『「鬼畜」の家: わが子を殺す親たち』っていう、ノンフィクションですね。
石黒:これが出たのが2016年初版、最近と言っても4年以上前の本にはなるんですけど、こちらを紹介します。石井光太さんってノンフィクションライターで、これまで『物乞う仏陀』とか『遺体』とか、貧困とか事件もののテーマでいわゆる調査報道と言うか自分で足を運んで関係者に色々話を聞いてそれをレポートにまとめるっていう手法を取っている方です。この『「鬼畜」の家』では3つの親が子を殺した事件をこの方が実際に足を運んで中身を伝えているんですけど、例えば「厚木市幼児餓死白骨化事件」「下田市嬰児連続殺害事件」「足立区ウサギ用ゲージ監禁虐待死事件」というおどろおどろしい事件名なんですけど、なぜ親が子を殺すのかというのを調べるんですね。私もこれを見て驚いたんですけど、そういう親ってモンスターペアレントと言うか、そういうサイコパスみたいな人をイメージするかもしれないんですけど、読むとそうじゃないんですよね。
今井:そうじゃないんですか?
石黒:ええ。子どもをちゃんと愛しているんですよ。
今井:え!
石黒:そうなんです。子どもをちゃんと愛しているんですけど、ただ「彼らなりに」愛しているんですね。
今井:なるほど。
石黒:ちょっとたがが外れているんですよ。『ケーキの切れない非行少年たち』ってご存知ですか?
今井:はい。
石黒:非行少年に「ケーキを三等分にしろ」って言うと、普通に三等分にしないで横に切ったりとかする、要するにちょっと頭が弱かったりするんですけど、そういった人たちの系統に当たるのかななんて思ったりもして、この子を殺す親は。例えば、一番最初の事件に出てくる子を餓死させて7年間放置させていた親なんですけど、「ちゃんと子どもの面倒を見ていた」って言うんですよね。ただどんな面倒を見ていたかと言うとお父さんが仕事に行く時は食事セットって言うのをまず用意するらしいんですよ。(父と子の二人暮らし)
今井:食事セット。
石黒:はい。パン1個、おにぎり1個、レモンウォーター500㎖のペットボトル1本、これを1日分として渡して、自分は仕事に行くんですけど、おむつ交換は1日1回で入浴は数日に1回、外出は月に2~3回近くの公園に連れて行くと、たったそれだけと思うんですけど、本人としてはこれでおれはちゃんと面倒を見ているって本気で思っているんですよ。そこらへんでもうなんか違うなっていうのをちょっと感じて、それで石井光太さんは色々取材するんですけど、取材すると殺された子の親、さらにその親と全員狂ってるんですよ。常識が通用しないと言うか。
今井:家系で連綿と繋がっている感じなんですか。
石黒:そう。要するに虐待された人は大人になると自分の子にも虐待するみたいな話ありますけど、まさにそういう連鎖があって、本にも書いてあるんですけど、「子を生んじゃいけない人っている」っていうふうに言ってて、最終的には「どうしても望まない出産をしなければいけない時は」っていうことで、特別養子縁組をサポートする組織、NPOがあるんで、そういったところに助けを求めた方がいいんじゃないかっていうところをエピローグで記して終わっています。ニュースとかで見ると頭おかしいなって思うんですけど、もっと問題は根深いところにあるなと気づかせてくれる1冊です。
今井:んー。ありがとうございます。石黒さんおすすめの3冊目は『「鬼畜」の家: わが子を殺す親たち』石井光太さんでした。
ここまで石黒さんおすすめの3冊ということで、島田雅彦さんの『僕は模造人間』、つげ義春さんの『貧困旅行記』、そして石井光太さんの『「鬼畜」の家』をご紹介してきました。石黒さん、ここまで本を紹介してきてVoicyの皆さんにお伝えしたいことはありますか?
石黒:そうですね。今、気づいたんですけど、紹介した3冊全部新潮社の本なんですよね。
今井:ほんとですね!
石黒:ただ、新潮社の回し者じゃないので(笑)、これは本当にたまたまです。おすすめ本3冊と言いつつ、他にもおすすめしたい本がいっぱいあります。何かの機会でまたご紹介できたらなと思います。このVoicyを聞かれている方はビジネス書とかそういったものに関心がある方が多いとは思うんですけど、今回紹介した小説もそうなんですけど、ノンフィクションとかかなり面白いんで、好き嫌いせず是非お読みいただければ嬉しいなと思います。
今井:そうですね。先ほどの『「鬼畜」の家』なんかは虐待する親がまさか愛情を持っていたとはっていうのでまた世界が開いた感じがしました。素敵な本をご紹介いただきありがとうございました。
石黒:ありがとうございました。
(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)