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【フォレスト出版チャンネル #48】出版の裏側|「紙の本」と「電子書籍」の関係、今後どうなる?

このnoteは2021年1月20日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。

電子書籍のデメリット(制作面)

渡部:フォレスト出版チャンネルのパーソナリティの渡部洋平です。昨日に引き続き、今日も電子書籍をテーマにお話してもらいたいと思います。「電子書籍はこれからどうなっていくのか?」ということで、今日もぶっちゃけトークを森上さん、寺崎さんにお願いしたいと思います。お二人ともよろしく願いします。

森上・寺崎:よろしく願いします。

渡部:昨日の放送では、電子書籍の今についてですね。お二人に「ぶっちゃけどう思っているの?」というところを話いただきました。聴いていない方は昨日の放送も聴いていただければうれしいです。今日は未来の話です。お二人、いかがでしょうか?

森上:まず電子書籍のデメリットについて、ちょっとお話してもいいですか?

渡部:ビジネス書を出版する出版社の編集者からみる電子書籍のデメリット。これをまず教えていただけるということで。

森上:これ、寺崎さんいいですか?

寺崎:はい。まず、制作面で言うと校正のやりづらさ。

森上:あるね。あれはなんだろうね?

寺崎:紙で見ると見落とさないっていうのは、脳科学的にあるような気がするんだよね。

渡部:すみません。ちょっといいですか? 電子書籍の校正って画面でやるんですか?

森上:基本的に電子書籍の校正は画面だよ。

渡部:そうなんですね。

寺崎:そう。最終的に読者は画面で見るから。

渡部:同じ環境でチェックするんですね。

森上:もちろん!

渡部:そうなんですね!

森上:そう! あれは、かなり見落とすよね。紙の本での校正のゲラもPDFでDTPの会社さんとか、印刷所さんからもらったりするけど、そこだけで見ようとなんて絶対しないですね。危ないから。絶対プリントアウトして、それでチェックする。全然見落としの差はありますよね。

寺崎:そうなんだよね。不思議とね。やっぱり見落とす、画面は。

森上:画面はダメですね。

寺崎:ツルッといっちゃう。ツルッと!

渡部:校正、つまり誤字脱字がないかというチェックはしづらい?

森上:なんだろうな、あれ。何なんですかね? 他の出版社の人も同じようなこと言っている人もいるので、我々の能力問題じゃないよね?

寺崎:たぶん、脳科学ですよ、きっと。

森上:そうなんですよ、そういうデメリットはありますよね。

渡部:その他の制作面のデメリット?

森上:そう。あとカバーとタイトルについてもいろいろと紙の本とは考え方が違ってきますね。

寺崎:ここはまだ未知数というか、今のところ我々は電子書籍だけを出すということはそんなにないので(※)、これからの挑戦ですね。

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電子書籍のデメリット(販売面)

森上:そうですね。紙の本で出ているものを電子書籍にするときは、そのまま出しますので、紙の本用につくったデザインと同じものをね。果してそれで良いのかといったところで言うと、そうじゃないんじゃないかっていう問題があって、考えていますね、制作面では。
あと、販売面で言うと、ただ出しただけじゃ売れないですよね。これ、寺崎さんはどう思います?

寺崎:やっぱり埋もれちゃう。ネットの大海の中に。

森上:そうなんですよ。昨日お話したんですが、刊行点数を出せることは出せるんですけど、もう半永久的に置かれていくので、どんどんどんどん……玉石混交で。いいのか悪いのかわからないですけど、本当に誰でも出せるじゃないですか。今、玉石混交なんです、まさに。

渡部:逆に言うと、書店さんに並んでいる本っていうのは、ちゃんと書店さんがこの本が良いなと思って並べてくれているとか、取次さんがこの本だからって、選ばれているわけですよね、その時点で。

森上:そういうことです。そういう意味では、(電子書籍は)売り場がもう玉石混交なんで、点数も半端ないじゃないですか。売り場面積無限大ですよ。そんな中から見つけてもらうって結構ですよね。

渡部:そうですよね。見つけてもらえない問題。

森上:そうなんですよ。電子書籍と書店さんの話でよく出てくるのが、「偶然の出会いがない」というね。やっぱり電子書籍だと。

渡部:目的買いがメインになってくるってことですね?

森上:そうです、そうです。

寺崎:検索キーワード次第ですからね。だからSEO対策みたいになってくるかもね、今後電子書籍は。

森上:でも、それって中身との比例じゃないからね。果たしてっていうところですよね。そればかり目につくってことですもんね。出版社も著者さんも求められることって、寺崎さんがおっしゃっている部分ですごくわかって、ある程度のマーケティング力、ファンがどれだけついているかとか、いわゆる「人検索」。最近よく言われますけど。そういう時代になっていますよね。

寺崎:そうね。そういう時代かもしれない。

森上:「この人が書いたから買う」とか、「この出版社が出しているから買う」とかっていう時代も来るんじゃないかなって、ちょっと思ったりしていますので。すでにその傾向をちょっと感じますけどね。

映画・テレビ・YouTubeの映像メディア業界から見えるヒント

渡部:電子書籍の編集者的な嫌な面、デメリットを語っていただいたんですけども、ここからは電子書籍の未来を考えていくと、どうやって未来を見据えているんですかね?

森上:一番わかりやすいところだと、他業界をちょっと見てみようっていう話なんですよね。僕がある芸能事務所の元重役だった人から聞いた話なのですが、ちょっとおもしろい話があって。映画が全盛でテレビが出てきた当初、映画人は何と言ったかと言うとですね、「あんな紙芝居、大したことない」とテレビを馬鹿にしたらしいんですよ。

渡部:ちょっと今似たようことを思い浮かべましたね。テレビとYouTubeの関係みたいな感じがします。

森上:まさにそのとおりなんです。で、今、流れが今度はテレビからYouTubeなんですよ。で、そのテレビ自体がYouTubeを当初バカにしていたというか。「しょせん、素人がやっていることだから」って。で、それが結局、今、YouTubeがどんどん力をつけてきているじゃないですか。その関係性。これってすごい話だなと思っていて。そこに共通するのは、「市民権がどっちに行くか」っていう。市民権がどんどん移動したという考え方です。

渡部:映画からテレビに、テレビからYouTubeに、市民権がどんどん移ってきているわけですけれども、ただそうじゃないっていう側面もあるわけですよね?

森上:そうなんです。私に話してくれたその重役の方がおもしろいこと言っていたのは、テレビに出ている人が映画に出るのって、実はすごく選ばれた人だったんだと。テレビのドラマに何回出ても、映画に出るっていうのは1つハードルがあると。で、今YouTuberは全員テレビ出ているのかといったら、やっぱりYouTuberでも、選ばれた人がテレビに出ると。ということはどういうことかというと、オールドメディア、「映画」⇒「テレビ」⇒「YouTube」という構図の中で、オールドメディアのほうが「自分たちのほうが価値がある」っていうことに気づいてないのが1番の問題なんだよ、って話してくださったんですよ。
だから、オールドメディアが自分たちの価値にも気づいてないし、ニューメディアを馬鹿にしている。ただ、ニューメディアの人は、オールドメディアをある程度リスペクトしていると。その関係性を頭に入れていると、また何か見えてくるものがあるんじゃないかっていう話を聞いて、これって、出版業界で言う「紙の本」と「電子書籍」の話に重なる。発信する側は両方出版社ではあるんですけど、そのあたりは、考え方としてヒントがあるかなというのは感じたんですけど。寺崎さん、どう思います?

寺崎:それを聞いて思い出したのが、オールドメディアになったものはアートになるっていうふうに主張している人がいて、おもしろいなって。映画が登場して、写真がアートになったんですよ。テレビが登場して映画がアートになったじゃないですか。ジャン=リュック・ゴダールとか、フランスの映画とか。これって、もしかしたらYouTubeが登場してテレビがアートになる時代が来るかもしれないし、電子書籍が登場して、書籍がアートになるという未来もあり得るなと思ったりもしましたね。

渡部:前回お話しに出た、紙がインテリアになるとか、そういう価値付けのお話を聞くと、あながちないわけじゃないぞみたいなのを感じますね。

森上:そうですよね。これからの未来としてはね。

渡部:読むのは電子、飾るのは芸術としての紙の本みたいな。そういうのはあり得ると。

電機メーカーが自動車をつくるように、他業界が出版に入ってくる時代!?

森上:何を言いたいかというと、紙の本と電子書籍、それぞれの価値をちゃんとこちらが認識した上で使い分けていく必要があるかなと。そこを明確にしていく必要があるかなと言うのはちょっと思いますよね。これって出版業界の枠を越えたところにヒントがあると思うんですけど。
1つ、おもしろい話があってご存じの方は結構多いと思うんですけど、馬車が走っていた頃に車が出てきた時にヘンリー・フォードが言った言葉があるんですよ。スティーブ・ジョブズとかも引用しているので、知っている方も多いと思うんですが、「馬車に乗っている彼らに何が欲しいかと聞けば、彼らは足の速い馬が欲しいと答えるだろう」という言葉を発しているんですね。どういうことかと言うと、馬車に乗っている顧客の声をいくら聞いたところで、自動車の新市場を生み出す必要なエッセンスは出てこない。だから馬車が紙の本で、自動車が電子書籍と考えた場合に、紙の本の顧客の声をいくら聞いたところで、電子書籍という新市場を生み出す必要なエッセンスは出てこない可能性があるぞっていうことに置き換えられる。

渡部:作り手側としてはすごく注意しなくてはいけないポイントのように聞こえましたね。

森上:そうなんですよね。だからこの言葉は、出版業界でも使えると言うか、響く言葉。これから考えていく上で。

渡部:逆に言うと、僕らは出版業界にいるわけですけど、別の業界の人たちが、さらに電子書籍の価値を高めて、市場を変えてしまったり、みたいなことも可能性としてある?

森上:十分ありますよね。

渡部:それこそIT系の企業とかエンタメ系の企業とか、いくらでもありそうですよね。うかうかしてられないんじゃないかって気がしますね。

森上:いや、ホントそうですね。だから、クルマ業界が……。

渡部:テスラにやられちゃうみたいな。

森上:そうそう。テスラにやられることと同じ。そのあたりはちゃんと使い分けていかなきゃいけないかなと……。

「紙の本、電子書籍を出して終わり」にしないビジネスモデル

渡部:その教訓をもとに今、フォレスト編集部はどのようなお考えを持ちなんですか?

森上:そうですね(笑)、寺崎さん、どんな感じですか?

寺崎:正直、現時点で電子書籍はキャッシュポイントにはならないので、そのキャッシュポイントを何か別の場所につくって、そのフロントとして電子書籍をどう置くかをこれから考えていこうかなというふうには思っていますね。

森上:そうですよね。だから今までうちも紙の本があって、渡部さんがいるデジタルメディア局でセミナーとか教材とか、それがキャッシュポイントになるっていう形があったと思うんですけど、それがますますまた評価されてくるのかなっていう感じはしますよね。

渡部:電子書籍というものが、教育コンテンツの中の一部として、紙の本で完結、電子書籍で完結という形ではなくて、総合的な学べるコンテンツとして進化してくるのではないか。

森上:そうですね。それがまた強化されていくね。

寺崎:紙の本と同じ発想でつくっちゃダメだろうなっていうところですよね。

森上:そういうことです。ちなみに、キャッシュポイントの話で、さっきの話YouTuber、最近テレビによく出てないですか? テレビあまり見ないんでしたっけ?

渡部:テレビもYouTubeもあまり見ないです……。

森上:最近、YouTuberがテレビによく出るようになったんですよ。で、それを見ている限り絶対そうだろうなと思っていたのは、誰もがみんな気づいていることで、リスナーの皆さんも気づいていることだと思うんですけど、YouTuberにとってテレビ出演なんて、出演ギャラで稼ごうなんて一切思ってなくて、自分たちのキャッシュポイントは自分たちのYouTubeがあって、そこを広めてくれる、いわゆる広報的な扱いでテレビをうまく使っている。そうとしか見えないんですよね。

渡部:ブランディングみたいな?

森上:そうです、そうです。ブランディングと、いわゆる認知の強化ですよね。ギャラなんてタダでもいいという人もいると思うんですよ。それでもテレビに出たいYouTuberがいっぱいいると思うんですよね。テレビのギャラはいらない。なぜなら、それはキャッシュポイントをちゃんと自分たちは持っているから、ということだと思うんですよね。そういう感じの流れになってきていますよね。

編集者視点で、変わること、変わらないこと

渡部:本日の全体のテーマとしては、「電子書籍の未来」ということで、お二人にお話ししていただいていますけれども、たぶん時代が流れるにつれて、紙の本だけの編集ではなくて、電子書籍も見据えた編集をしていく必要が出てきて、そうするとインターフェースとかもどんどん変わってくるんですかね?

森上:そうですよね。寺崎さんどうですか? そのあたり。

寺崎:わからないですけど、今の紙の本に匹敵するインターフェースが発明されたら、一気に塗り変わる可能性はあるんじゃないかなと思いますよ。例えば、最近出始めている折りたたみ型のスマホ、フォルダブルって言うんですかね。あれが、例えば本を読むような感じで、それこそページをめくるみたいな体験ができるようになれば、5Gとか、まあ今は6Gとかも中国が開発しているみたいだけど、そういう高速回線と組み合わせれば、本当に紙の本と同じような電子書籍が今後主流になる可能性はゼロじゃないかなと思ったりしますね。

森上:そうですね。それを意識した形で逆算した編集をしていく、求められる、編集者にも、って言う感じになってくるかもしれないですね。そういう意味では、また新しい挑戦ができるというか、それはおもしろいですね。
もう1つあるのは、そういうインターフェースもいろいろ変わるにせよ、つくり方が変わるにせよ、絶対変わらないだろうなと思うことが1つあって。出版社の編集者において、1番大事な仕事って、人の役に立つようなテーマを探したり、人を探したりしながら、それを1つのコンテンツの企画としてまとめる。で、その出口がいろいろ増えていくだけであって、編集としての核となる「企画をつくる」とか、「文字のテキストメインの編集力」とか。もしかしたらもっと動画とか、そういったものを学んでかなきゃいけないかもしれないんですけど。ただ、その能力を磨き続けることが大事なんだろうなっていうのは個人的に思ってますけどね。

寺崎:そこは変わらないですよね。表現が変わっても、根幹の部分は。

森上:そうなんですよね。だから、出す場所が変わる、出口が増えるって感じかな。そういうふうに捉えているっていうのが電子書籍って感じですね。

渡部:「電子書籍の未来」ということでお話しいただいたんですけれども、前回と今回含めて電子書籍の今と未来ですね。「ぶっちゃけどうなの?」って話で始まりましたけど、結論から言うと、かなり肯定的に電子書籍を見ていて、これから楽しみみたいな結論でしょうか?

森上:そうですね。でも紙の本もつくりたいなあっていうのは変わらずありつつも、新しい出口のための挑戦もしたいという感じですよね、

渡部:今思いついてしまったんですけど、それこそ今Voicyさん、僕らやらせてもらっていて、音声を音声メディアで皆さんに届けていますけれども、電子書籍×音声っていうところでうまい組み合わせができたりとか……。

森上:できるかもしれないです。それはあるかも。

渡部:動画なのかもしれないでし、いろんな組み合わせができそうですね。

森上:意外とそういう意味では、文字のテキストで言うと、noteさんも競合になりますからね、電子書籍の。結局のところ、もう内容(勝負)なんですよね。

渡部:そうですね。本当に突き詰めて言っちゃったら、内容があって、何の媒体メディアで伝えるかって言っても、みんな同じ情報を扱っているってことですよね。

森上:そういうことです!

渡部:では、お時間になってまいりましたので、ここまで2回にわたって「電子書籍の現在と今」について、お二人の編集者の視点から語っていただきました。それでは森上さん、寺崎さん、今日もありがとうございました。

森上・寺崎:ありがとうございました。

(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)



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