特定の人に対する「キモい」という中傷で問われる罪とは?
相変わらずSNS上ではさまざまなバトルが繰り広げられ、罵詈雑言や誹謗中傷が飛び交っています。
読んでいると気が滅入ります。
「見なきゃいいじゃん」という意見はごもっとも。
でも、見ちゃうんです。
これは、ネガティブな情報ほど注意を向けてしまうネガティビティバイアスの一形態であるドゥームスクローリングという行為です。ネットで暗いニュースばかり見続けてしまうことを言うのですが、ある意味ヒトの本能的な振る舞いといえます。
詳しく知りたい方は、ぜひ以下の本を読んでみてください。
さて、こうしたネガティブなバトルを見ていると、トンチンカンな言葉、卑劣な言葉、差別的だったり人権意識の低い言葉などに対して、時に私も反論を書き込みたくなるものです。
しかし、それをやってしまうと沼にはまり込んでしまうことがわかっているので、書き込みたいという欲求をグッと飲み込んでいます。
それに、激情に頭が支配されてしまうと、乱暴な言葉づかいをしたり、見境がなくなって誰かを誹謗中傷してしまう可能性もあります。そうしたネット上のやりとりが、法廷闘争に発展してしまう事例もけっこう多いですよね。
ところで、誹謗中傷はどのような罪に問われるのでしょうか? 侮辱罪とか名誉毀損罪とか聞いたことがあるけど、そもそもこの2つがどう違うのかなど、よくわからないという方も多いはず。
そこで、10代向けの犯罪抑止の本、犯罪学教室のかなえ先生『もしキミが、人を傷つけたなら、傷つけられたなら』から関連する箇所を一部抜粋、本記事用に改編して掲載します。
「キモい」と言っただけで、罪に問われる可能性がある
●知らずに自分も加害者に!? ネットの誹謗中傷
「キモい」「うざい」「死ね」など、一般的に誹謗中傷として扱われる言葉を、他人に対して言ってしまったり、書き込んだりしたことがある人はどのくらいいるでしょうか。
もしかしたら、こうした言葉を頻繁に使うことで、誰かを傷つけ、最悪の場合は逮捕されるかもしれません。
そもそも誹謗中傷とはなんでしょうか。
誹謗中傷は犯罪なのか、犯罪だとしたら、どのような犯罪なのか。
昨今、問題意識の高まりを受けて耳にするようにはなりましたが、具体的にどのような書き込みが誹謗中傷になるのかを理解している人は少ないと思います。
まず、「誹謗中傷」は法律用語ではありません。
試しに、辞書(デジタル大辞泉)を引いて確認してみました。
●誹謗中傷によって相手を自殺に追い込んだ責任は?
では、実際に起きた事件から、どのような誹謗中傷が犯罪になるか考えてみます。
2020(令和2)年に起きたことです。
有名な女子プロレスラーさんが、自身のSNSに殺到した誹謗中傷コメントを苦に自ら命を絶ってしまうという事件が発生します。人気テレビ番組に出演した際、共演者に対して怒りをぶつける姿が放送されて以降、彼女の振る舞いについて批判的な意見が書き込まれるようになりました。その中には「死ね」「バカ」「消えろ」などの批判の域を超えた誹謗中傷が多数含まれていました。
彼女の死後、遺族が警察に事件を告訴し、捜査が開始されました。
そして同年12月に警察は、女子プロレスラーさんのSNSに「性格悪いし、生きている価値あるのかね」「いつ死ぬの?」などと複数回にわたって書き込み、公然と侮辱したとして20代男性を侮辱罪の容疑で書類送検(「書類送検」は法律用語ではなくマスコミ用語。被疑者の身柄を拘束していない状態で、捜査が警察から検察へ移ることです)しました。また、「死ねや、くそが」「キモい」と書き込んだ30代男性も同様に2021(令和3)年4月に書類送検されています。
その後、2人の男性は、結果として前科がついてしまいました。
「『キモい』という言葉だけでも、犯罪になるの!?」と驚かれた人もいるかもしれません。結論から言えば、このように犯罪になることもあるのです。
具体的に誹謗中傷は、「侮辱罪」やそれよりも罰則が厳しい「名誉毀損罪」に該当する可能性があります。
●侮辱罪とは? 名誉毀損罪とは?
まず、侮辱罪について考えてみましょう。
侮辱罪は、刑法第231条に規定されています。
条文には「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留または科料に処する」と記されており、①事実を摘示しなくても、②公然と、③人を侮辱した、という3つが成否のポイントになります。
①事実の摘示(示すこと)とは、「バカ」「キモい」などの抽象的な内容ではなく、「前科がある」や「浮気をしている」などの具体的な内容を指します。
この場合における「事実」とは、「真実」のことではなく「虚偽の事実」も含みます。
続いて、②公然とは、不特定または多数の人が認識できる状況を指します。
③については、他人の人格を蔑視する価値判断を示す(バカ、アホなど)ことです。
つまり、不特定多数の人が閲覧できるSNSやネット掲示板などで「〇〇はバカだ」や「〇〇は死ね」と書き込む行為は、侮辱罪に該当する可能性が高い行為なのです。
では、今度は「名誉毀損罪」について考えてみましょう。
名誉毀損罪は、刑法230条に規定されています。
条文には「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金に処する」と記されており、①事実を摘示、②公然、③人の名誉を毀損の3つが成否のポイントになりそうです。
①②については、侮辱罪のところでも解説したとおりです。
しかし、①は侮辱罪と違って事実を摘示している可能性があります。
つまり、「バカ」などの抽象的な書き込みでは成立しない可能性が非常に高く、「〇〇は前科を持っている」などのより具体的な「事実」を示している必要があるのです。
③の人の名誉を毀損とは、誹謗中傷によって自分のプライドが傷ついた(名誉感情に傷がついた)ことを指すのではなく、誹謗中傷により周囲からの評価(社会的な評価)が低下したことを指します。
また条文にもあるとおり、示されている「事実」が真実か否かは問われません。
よって、ネット上で「〇〇は詐欺師だ」「〇〇には前科がある」と書き込む行為は、名誉毀損罪に該当する可能性が高いと言えます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
( い し ぐ ろ )
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