「夜空と交差する森の映画祭」という企画の運営とボランティア組織作りで大切にしていること
こんにちは。森の映画祭、代表補佐のちばひなこです。
9月も後半、森の映画祭2021まであと2週間を切りました。いつもと違うところも多い1年がまだ続いていますが、森の映画祭2021の準備を始めて半年少々、あっという間に秋になったように思います。
さて、今回は、森の映画祭の企画の作り方や普段大切にしているスタッフや組織のことを、森の映画祭代表・サトウの登壇したイベントの内容を基にご紹介しようと思います。
(森の映画祭の活動をもっと知りたい方は、こちらのポータルサイトをご覧くださいませ)
「RIDE ON シバヒロ」は、町田市役所本庁舎跡地に芝生広場として2014年5月にオープンした〈町田シバヒロ〉を舞台としたプロジェクトチーム。〈町田シバヒロ〉をもっと楽しく居心地の良い場所とするために、皆の好きを持ち寄って、次のシバヒロをつくっています。
※こちらのnoteは、森の映画祭の代表であるサトウダイスケが登壇した、未来町田会議さんのオンラインイベント『\ RIDE ON シバヒロ 2021 / 五感で楽しむ映画祭の作り方 〜夜空と交差する森の映画祭に聞く、新しい映画体験〜』でのトークセッションのイベントレポートです
「RIDE ON シバヒロ」では、小さな声でも、誰かが「好き」と言ったことを大事に、乗っかり合うことで企画を作っており、森の映画祭同様にいろいろな人が集まってさまざまな企画を行っているとのこと。
そして、そんないろいろな人による企画であること、誰かの好きに乗っかって企画を企てることにより生まれる「偶然性」が、森の映画祭の企画の立て方やイベントの作り方にも繋がるところがあるのではないか、と今回登壇のお話をいただきました。
映画にも「偶然の出会い」を
森の映画祭は2014年が初開催でした。最初は代表のサトウの素朴な「野外映画やりたいなあ」という気持ちからスタートしています。
普段自分がたのしんでいた「音楽フェス」で起きるような、遠くから聞こえる音楽に誘われて”偶然”知らない音楽と出会う体験が「映画×フェス」にすることで映画でも起こせないだろうか、と思い、「日本初の野外映画フェス”夜空と交差する森の映画祭”」が誕生します。
森の映画祭にて、著名な長編映画だけを流すのではなく、短編映画も多く上映しているのは、回遊性をあげるだけではなく、お客さまと短編映画自体の「偶然の出会い」も演出できれば、という狙いがあります。
代表のサトウも短編映画の監督を務めることもあり、思い入れもある「短編映画」。
若干わき道にそれますが、短編映画について少しご紹介すると、映画業界では短編映画を作り、それを名刺代わりにプロデューサーを探すことがあります。たとえば映画『セッション』も元々は短編映画として発表された作品です。
※森の映画祭では、30分以内の作品を短編映画と定義しています。短いときは1分程度のものも。
そのため、「短編映画」をどうやって広くいろいろな人にみてもらうかを考え、「フェス」の持つお祭り感やエンタメ性が「短編映画との”偶然の出会い”をつくれるのではないか」と森の映画祭は考えました。
イベントは「生もの」!
イベントはハード面でもソフト面でも「生もの」です。その瞬間に起きるあらゆること、そしてイベント当日までのあらゆることの積み重ねでその「ひととき」が生まれます。
ハード面から話しをすると、野外上映イベントは日照時間や天候にかなり左右されます。
夏は夜が短く、冬は寒すぎてじっと座りながら映画をみることができません。
また、映画はプロジェクターを使って再生するので、太陽が完全に沈み、暗くならないと写し出すことが出来ないのです。
雨問題も深刻です。お客さまは「フェス慣れ」をしていることが多く、ポンチョやタオルなど準備万端で来てくださるのですが、やはり雨が強くなってくるとスタッフ含めヒヤヒヤします。台風情報が事前に発表され、みんなでテルテル坊主を作った年もありました。
ただ、イベントには「興行中止保険」という保険があるので、万が一の時に備えてその保険に森の映画祭は入っています。とは言っても、「イベント」は「生もの」。準備で様々なお金も時間も人も信頼も動いているので、なるべく延期をしないようにしています。
(過去には、朝4時くらいに雨が強まり早期終了をしたほか、一時中断もしたことが何度かあります)
「コンパス」を最初に決めることが大切
イベントが「生もの」なのは、外部環境の要因だけではありません。ソフト面でも、短編映画を含む上映作品のラインナップや企画のコンセプト設定、展開の仕方の一つ一つで最終的なイベントの形や温度感、手触りは違うものになります。
だからこそ、森の映画祭では一番最初にみんなで向かいたい「コンパス」の中心である針の部分を決めます。「世界観」です。
2019年の世界観「いつのまにか」をコンパスに依頼したメインビジュアル
この世界観は、実行委員募集以前に代表・サトウと代表補佐・ちばで昨今の感じていることなどをベースにキーワードをぶつけあって決めています。そのときに意識しているのは「そのあとに余白があるかどうか」です。言葉の定義が狭すぎて広がりや解釈を持てないと、それは「コンパス」ではなく、ピンポイントなどこかの場所になってしまいます。具体的すぎない、でも広すぎない、そんな匙加減の言葉を探して話し合い、そしてモリモリになったところからどんどん削り合いを行い、最後にその細くなったところを「世界観」と呼んでいます。
スタッフが集まるタイミングで、概要資料や世界観のキーワードとなる言葉やイメージを集めた資料を作成し、みんなで共有します。
最初に「世界観」をみんなで確認することで、キャリブレーションが起きなくなる、とサトウは言います。
ただなんとなくイベントやりたいよね、で集まると、向いている方向がバラバラになり、スタッフもバラバラ、イベント自体もバラバラとなってしまいます。目指す先さえ決まっていれば、後はみんなで「どう目指すか」を考えていけば、ブレることはありません。
森の映画祭で毎年設定している「世界観」も最初のキーワードや単語(2021年で言う”よりみち”)は「コンパス」として初めに決定しますが、そこから先のエリア名や設定はスタッフみんなで考えます。
(2021年は、どこかで何かを忘れてしまったような名前のエリア”なんだっけ村””だったはず川””そんなような坂””きがする標”と、それを結ぶ”リグナの結び目”というエリアになりました)
こういったクリエイティブを決めていく会議でも、向かう方向が決まっているからこそ、別の方向を向いているような案が出てくることはなくなります。
また、短編映画のチョイスも、同じコンパスを使用します。「森の映画祭」で毎年設定している世界観に沿ったものを公募作品の中から選び、エリアコンセプトに合うものをそれぞれ上映コンテンツとしてタイムテーブルに配置していきます。
パンフレットの作成も同じです。
たとえば、2018年は世界観が「交差」。会場は円環状のサーキット場の周辺一帯。イベントの最中に出会った人や訪れた場所でページを集め、自分が森の映画祭2018で出会った人や訪れた場所といった「ひとりひとりの交差の記録」が順番にページとして重なるパンフレットを考案しました。
オンラインイベントの最中、ファシリテーターを務めてくださったYADOKARIの伊藤幹太さんが「森の映画祭のサイトを見たり、イベントに訪れたときに、わ~っ!楽しそう!と思うのは、世界観がしっかりしながらも愛される部分としての『余白』が、最初の世界観決定時に”削り合い”によって生まれているのかもしれない」とコメントくださり、サトウが「自分自身、(アイディアやコンセプトの)引き算が得意なので」と発言するシーンがありましたが、ジェンガを引き抜くように、コアを削らずに余分を削ることが「コンパス」、そしてイベント自体をつくるコツなのかもしれません。
全体に流れるストーリーとしての”文脈”とイベントの会場にある導線としての”文脈”を大切に
トークセッション中、広くて平らな芝生広場である〈町田シバヒロ〉の空間を演出するのなら?という質問が。
〈町田シバヒロ〉で上映イベントをするのであれば、「観客席は面積として広いから、レジャーシートの色、形などに力を入れるのもいいかも」とサトウは回答。
また、サトウは「森の映画祭は森だと木があるので、装飾がしやすいです。フラットだと空間として上下を作るのはすごく難しいですね。仮設の何か大きいものをつくるのは大変で大掛かりになるし、木材で何かを作ると小さくなってしまうから、「浮かせる」ことはいいかもしれません。」と続けます。
過去に〈町田シバヒロ〉では、芝生に旗を立てて風で同じ方向になびかせることで、上空の風を味方につけて美術を作ったこともあるのだとか。設置物の安定性などで困りごととになる「風」を味方につけるという発想を持つことで、視点が変わるのもおもしろいですね。
そういえば、森の映画祭では、具体的な演出を考えるときに、よく「面積の広いものを抑えよう」と言います。
視界に入るのが芝生が多いのであれば、その芝生である「地面」を、ひろくてきもちのいい空があるのであれば「空中」を、人がたくさん集まるのであればお客さまに「ドレスコード」を用意するのもいいかもしれません。全員の導線を統一できるのであれば、「ゲート」の作り込みに重点を置くのもよさそうです。
2019年の屋内ステージ。白い部屋にオレンジ色の布や風船を浮かせ、床にはパズルマットを設置した。
また、導線を考えるときには、正確な開催地の計測も欠かせません。森の映画祭では、開催地に正確な地図がない場合は、パソコン片手にイラレで細かいパスを引きながら会場を練り歩いたり、フォトグラメトリーを使ったりして、伊能忠敬氏のように会場地図を作ることもあります。
先ほど、「コンパス」として説明した、全体に流れるストーリーとしての「世界観」の持つ文脈に、リアルな会場にある導線としての文脈が加わり、この2つの文脈が会場を一気に演出していくのです。
イベント終了後も思い出す”きっかけ”になる
さて、イベントのクライマックスはいつでしょう。
これはどんなイベントにおいても変わらず、当日のリアルな体験そのものではないでしょうか。しかし、その高揚感や体験をどうにかイベント終了後にも思い出してもらえないか、と考え、森の映画祭では、「捨てたくないパンフレット」を目指してパンフレットを作っています。
このパンフレットをつくることを、代表・サトウは『思い出の延命』と呼んでいます。
2017年の文庫本型のパンフレットでは、ドリンクチケットを書籍カードにしたところ、もったいなくてドリンクチケットを使わずに持って帰るお客さまもいらっしゃいました。
森の映画祭では「10年後もふと思い出してもらえること」を目標の一つにしています。だからこそ、『思い出の延命』を企んで実行しています。
イベントを企画するタイミングでは、「どんな企画にするのか」も大切ですが、お客さまにとって「どんな体験として残ってほしいか」を考えるのも大切なのです。
もし、実施したいと思っているイベントの体験してもらいたいことが「その日で人生が変わる」であれば、10年後にふと思い出してもらうのでは企画設計が正しくありません。体験に対して的確なアプローチが大切です。
スタッフにとって、どんな体験として残ってほしいか
森の映画祭のスタッフはボランティアで、30~40名程度の実行委員と当日のみの100~200名程度のスタッフが運営を行っています。
(実行委員について、もっと詳しく知りたい方はこちらのnoteでご紹介しております)
実行委員は「スクラップ&ビルド方式」。イベント終了2週間後には打ち上げをし、毎年完全解散を繰り返します。また、スタッフ募集は非常に「フラット」に行っています。説明会を開き、その後、面談をひとりひとりと30分ずつ代表・サトウと代表補佐・ちばとで行い、イベントに参加する動機やその人の興味ややってみたいことを聞きながら「その年ならではの組織図」を編成しています。
これは、森の映画祭実行委員となるスタッフメンバーにも「森の映画祭」が「どんな体験として残ってほしいか」を考えているからこその体制です。
と、いうのも、森の映画祭は営利目的のイベントではなく、通年で活動している4名の実行本部と名付けている『超コアスタッフ』の興味関心や、やってみたいことをベースに活動を行っています。
収入も9割はチケット収入で、そんな森の映画祭に興味関心を寄せ、行ってみたいと思ってくださるお客さまによって成立しているイベントです。収入を翌年分を繰り越すこともほとんどなく、その年のコンテンツのクオリティアップにほとんどを充てて実施しています。
だからこそ、スタッフにも「興味関心や、やってみたいことをベースに活動をした」という体験として森の映画祭を感じてほしく、「スクラップ&ビルド方式」をとっています。今年の場所とテーマ、やりたいことをおもしろいと思ったひと、やりたいと思った人と、毎年森の映画祭は一緒に作っているのです。
もちろん、ひとりひとりの興味関心に合わせたフラットなスタッフ募集を行ったり、イベント終了後に強制解散することは、組織づくりという意味での不安はあります。それでも、この体制が森の映画祭のスタイルとしては合っているとサトウは言います。
人が変わり、場所が変わり、世界観が変わり、そんな中でも興味や好奇心、やってみたいという気持ちで成り立っているのが森の映画祭なのです。
2019年の入り口で使った木のポストは、ストーリーに出てくるポストを再現したいというスタッフの声で制作が進みました。絵本型のパンフレットと一緒に渡したクレヨンも、どうしてもクレヨンを使って童心を思い出してほしいというスタッフの声から実現しています。
誰かがこぼれたものを拾うことで、やってみたいひとを支える
フラットな組織編成をしたうえでこぼれる部分は、代表・サトウが拾っているほか、サトウを含むそれぞれのスタッフメンバーが持っている知識をベースにした勉強会なども開催し、ノウハウや知識の共有、一緒にミニプロジェクトとして何かをやってみることも積極的に行っています。
また、組織内のコミュニケーションツールは、一般的であるLINEではなく、現在はChatworkを使っています。
特に、LINEは使わないでほしいと近年はスタッフに伝えています。それぞれがチーム内での情報共有を行うことが、『超コアスタッフ』への「ステルスホウレンソウ(情報共有がそのまま”報告・連絡・相談”を兼ねること)」にもなることと、当日近くなり情報量が増えたときでも、プライベートとは別のコミュニケーションチャンネルにすることで、プライベートと混ざらないようにしてあげたいという想いでツールを選んでいます。
※もちろんLINEでしか相談できないことや、当日だけのスタッフとのコミュニケーションなど、活用した方がいい場面では使用しています。
2021年はそれぞれのチームの全ての会議の議事録を貼るチャンネルを作成したりと、情報のオープン化には力を入れています。
オープンしてもらったからには、『超コアスタッフ』の実行本部はそれぞれに目を通し、困ったときはすぐに助けに入ったりします。完全解散する組織だからこそ、引き継がれづらい過去のノウハウを伝えるなど機敏で丁寧な動きや情報処理が必要にはなりますが、実行本部がこぼれているものを見つけたり、拾ったりすることで、スタッフがやりたいことをやれる環境が出来ると森の映画祭では考えています。
コンパスは変えずに、アプローチは変えるオンライン開催
2021年のコンパスが指す「よりみち」は、余白の失われつつある昨今の体験から生まれました。リアル開催ではなく、オンラインでの開催となりましたが、このコンパスは変えずに持ち続けています。
しかし、そのアプローチは変えています。
リアル開催では、埼玉県飯能市名栗エリアの町全体を白地図片手に「よりみち」をたのしみ、ゆく先々で映画を観ながら集めたシールを地図に加えることで、自分だけの「よりみち」で彩られた地図を手にするという文脈を考えていました。
オンライン開催では、それぞれの自宅に「謎解きセット」をイベント当日の1週間前に森の映画祭のプロローグとしてお届けし、イベント当日は、当日だけ開く限定サイト上であちらこちらのエリアに移動することで、「よりみち」を体験してもらえるような文脈を用意しております。
(森の映画祭2021のチケットの発売はこの「謎解きセット」の送付の関係で、9月30日まで!こちらからお求めいただけます。)
というわけで、森の映画祭2021ではオンライン開催に変更になりましたが、変わらずに「よりみち」というコンパスの下、スタッフ一同で各種企画を考えています。チケットの発売ももう間もなく終了です。
よろしければ、一緒に「よりみち」をたのしみましょう。森の映画祭2021でお待ちしております!