「離婚後の共同親権とは何か」読書会#4 レジュメ
【前回】
<参考文献>
可児康則「離婚後共同親権は子どもの利益にならない」梶村太市・長谷川京子・吉田容子編「離婚後の共同親権とは何か」(日本評論社、2019年)62頁以下
子の利益とは何か
<民法820条>
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
※民法上に定義はない。
<児童福祉の視点からの定義>
児童福祉に関してまず考えなければならないのが、「子どもの最善の利益」です。「利益」とは、子どもにとっての安全・安心・幸福などを指します。日本は法治国家ですからそれに対するさまざまな法律が制定されており、それらの法律はすべて、日本国憲法から派生しています。
日本国憲法の「国民主権」「平和主義」「基本的人権の尊重」という三大原則のうち、児童福祉(保育や幼児教育を含む)と直接的に関わるのが、第11条に示される「基本的人権の尊重」です。基本的人権とは、誰にでも平等かつ公平に与えられる人間としての最も基本的な権利や自由のことで、憲法25条には「生存権」が定められています。ただ単に生きていればいいというのではなく、「健康で文化的な最低限度の生活を営む」権利である生存権。みなさんも「ご飯が毎日3食食べられる」「お風呂に毎日入れる」「スマホを持っている」など、自分なりの「最低限度の生活」を考えてみてください。
(久保田力相模女子大学教授)
<憲法学上の子どもの権利>
個人の尊重(13条)、生存権(25条1項)、教育を受ける権利(26条1項)から説明される。(木村草太東京都立大学教授)
<裁判所>東京地方裁判所判決令和3年2月17日
親である父又は母と子とは,三者の関係が良好でないなどといった状況にない限り,一般に,子にとっては,親からの養育を受け,親との間で密接な人的関係を構築しつつ,これを基礎として人格形成及び人格発達を図り,健全な成長を遂げていき,親にとっても,子を養育し,子の受容,変容による人格形成及び人格発展に自らの影響を与え,次代の人格を形成することを通じ,自己充足と自己実現を図り,自らの人格をも発展させるという関係にある。そうすると,親である父又は母による子の養育は,子にとってはもちろん,親にとっても,子に対する単なる養育義務の反射的な効果ではなく,独自の意義を有すものということができ,そのような意味で,子が親から養育を受け,又はこれをすることについてそれぞれ人格的な利益を有すということができる。
問題設定
親権・監護権に関する問題を親の利益ではなく子どもの利益を最優先に考慮して解決すべきことは、単独親権であろうと共同親権であろうと変わらないはずである。
(P.62)
本章では、裁判所が関与するような事案を中心に、離婚後共同親権を導入した場合の影響を具体的に予測し、検討を加える。
(P.64)
1、親権者指定
<現在の実務>
これまでの子の監護養育状況、子の現状や父母との関係、父母それぞれの監護能力や監護環境、監護に対する意欲、子の現状や父母との関係、父母それぞれの監護能力や監護環境、監護に対する意欲、子の意思その他子の健全な成育に関する事情を総合的に考慮して、子の利益の観点から親権者を指定する。
(東京高等裁判所判決平成29年1月26日)
<検討>
①子どもの愛着対象を親権者とし監護養育を担わせることが子どもの利益となるから、過去の監護実績を中心に親権者を定める裁判所の姿勢は、親権者指定につきおおむね妥当な解決につながっている。
②6歳未満の子どもに費やす平均時間が、父→49分 母→3時間45分であり、当然やむを得ない結果である。
2、父母の対立は解消されるのか
2-1 司法統計からはどう見えるか
①子どもをめぐる事件は増加しているが、増加しているのは子の監護に関する事件(面会交流、子の監護者指定、子の引渡しなど)である。
②一方で、夫婦関係調整調停(親権で対立している夫婦の離婚のケース)は、おおむね減少傾向
司法統計からは、離婚にあたり親権をめぐって対立する事件の増加も、親権をめぐる父母間の対立の激化傾向も読み取ることはできない。
面会交流、子の監護者指定、子の引渡し事件は、離婚後共同親権によっては解決できない。
2-2 離婚後共同親権が可能となった場合の法的紛争
親権をめぐって激しく対立するというよりは、むしろ離婚後にどちらが子どもと一緒に暮らし、子どもを監護養育するかの対立(中身の対立)
2-3 離婚後共同親権が可能な範囲
どの範囲が重要事項で、どの範囲が日常生活であるかの仕分けが容易ではない。(特にDV、高葛藤のケース)
※参考:法制審議会家族法制部会第6回
https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00084.html
3、DV被害からの回復が阻害される危険
離婚後共同親権では、被害者のストレスは現在の比ではなく心身の回復が妨げられる。
また、単独親権にすると規定しても、DVや虐待について証拠が存在しないことが多く、裁判所も認定に積極的ではない。精神的DVが中心の事案では、被害者のダメージが大きくともDV事案に区分される共同親権となる可能性が高い。
4、離婚後の親権行使
・居所の指定
(親の介護のケースや、DVケースの場合の被害者保護)
・子どもの教育に関する事項
(高校・大学の進学時、適切・適切に迅速に裁判所が決める規定の必要性、子どもの進路変更の場合の対処法、特別支援学級に通わせるか否か、裁判所が適切に判断できるか?)
・重要な医療方針の決定
(重病の場合の治療方針の決定、子の症状が刻々変化する中で可能か?判断が尊重されるのは主治医?医務技官?)
・その他の重要事項
(氏の選択、宗教の選択、家裁の手続きを多用することによる経済的負担の問題等)
5、再婚家庭に与える影響
養子縁組のケースの対立の問題。
・再婚時に非監護親の承諾が必要になる。
・養子縁組を阻止された場合、継親との間に法的な親子関係が生じず、法律関係が錯綜する。
・継親の親族との人間関係
・ただでさえ不安定な継親との関係に拍車をかける。
・家庭裁判所の介入が難しい。
要するに、問題は何なのか
①紛争がいつまでも終局的に解決しない。
離婚後の様々な場面で紛争が激化・長期化・継続する。
②裁判所への信頼失墜
人員等のリソースを解決しても、画一的な処理が信頼を失わせる。
③父母間の対立を緩和しない
【結論】
離婚後共同親権は子どもの利益にならない。
(以上)
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