相手を思った厳しいフィードバックには本当に効果があるのか??
前回はエンゲージメントの【5C】のセレブレーション、「称賛と注目」についてお伝えしましたが、今回ももう少し掘り下げて考えてみます。
物理学と心理学の違い
コーチングのトレーナーをされている平本あきおさんが教えてくれた「物理学と心理学の違い」というお話を紹介します。
例えば、皆さんのお家のトースターが壊れて、パンが焼けない!!ことがわかりました。皆さんならどうしますか?
まずは最初にどこがおかしいのか、わかる範囲で調べますよね。コンセント?ダイヤル?グリル部分??
故障箇所を確認し、修理に出します。そうすればトースターは修理され、後日戻ってくるでしょう
対象が「モノ」ならエラーが出てる箇所の確認が改善への第一歩です。一方、相手が人間ならどうでしょう?
部下のAくんが、あるタスクをミスしてしまいました。
上司のあなたは、
「Aくん、7番のタスクができてませんよ。」
と伝えます。
そして次の日も7番のタスクが不十分でした。
「また今日もダメでしたね。」
次の日も、昨日よりは頑張ったものの、合格点には至りません。
「またダメか…。」
すっかり自信をなくしたAくん、、、
7番のタスクだけでなく、8番のタスクも焦ってミスをしてしまいます。
どんどん自信を失い、6番のタスクも9番のタスクもできなくなってしまいました…。
対象がモノであれば不具合の発見は改善の第一歩につながりますが、対象が人の場合はそうとも限りません。
不具合の発見や指摘が新たな不具合につながることがあるのです。
これが物理学と心理学の違いです。
モノを扱う職業の管理職は要注意
私は企業に研修をする仕事をしているのですが、モノやシステムを商品として扱う企業、例えば製造業やIT業には顕著に不具合を探すものの見方が社風として浸透しています。
製造業は、欠陥品や歩留まり、製造ラインでのボトルネックなど、不具合や欠陥を発見する視点が非常に重要です。
同様にIT業はシステムエラーが生じた時に、どこにエラーやバグが発生しているかを、いち早く見つけ修正するスキルが求められます。
つまり、「できているところ」より、「できていないところ」を自然に見る視点が職業柄必要なので、習慣として刷り込まれているのです。
もちろんその視点は仕事をする上で非常に重要な視点なのですが、危険なのは、管理職の方が、その視点を切り替えずにオーガニックに部下に向けてしまうことです。
この場合、上司側に悪気は全くありません。できるが故に、部下のできてないところを善意で指摘します。
もちろん厳しいフィードバックも状況によっては必要です。ですが、できていないところ「だけ」を指摘する、とか無意識で指摘「しまくる」のは問題です。
続ければ続けるほど、自然と部下は自信を失います。あなたはダメ出しマシーンと認知され、部下はあなたの前では緊張しっぱなしになり、次第と敬遠されてしまうことでしょう。
これではチームとして機能するはずもありません。
厳しいフィードバックは本当に効果的なのか?
厳しいフィードバックに関する研究が人に与える影響については、いろいろな研究で、残念ながらあまり効果が見られないことがわかっています。
人間はネガティブなフィードバックを受けると交感神経が活性化し、闘争/逃走反応を取ることがわかっています。この状態は、先のことを見据えて、フィードバックを受け入れる体制とは正反対で、「目先の危険を乗り切ることだけを考えているモード」といえます。
加えて認知・感情・知覚機能になんと軽い障害をきたすこともわかっています
つまり、部下のネガティブな面を指摘すればするほど短期的には部下の生産性を下げ、長期的には成長を妨げることにつながります。
もちろん、現実的には相手の性格やあなたとの関係性によっても受け止め方は変わります。叱ることが必要なケースもあるでしょう。
大事なことは、日常的な関わりの中で、フィードバックを聞いてもらえる関係を部下としっかり築き上げていないうちに、無闇にネガティブフィードバックを繰り返してしまうと、例えあなたがどれだけ善意であったとしても相手との関係の破壊や相手のパフォーマンス低下につながる可能性が高いということです。
ではどうすればいいのでしょう。
できていることに注目する
先ほどのトースターの例で出てきたAくん、7番のタスクも8番のタスクもできていません。でもなんだか5番のタスクはすっごく上手です。
「Aくん、5番のタスク、すごく上手にできてるね!」
…続いて5番の次に6番のタスクを教えます。非常に拙くはありますが、なんとか6番もクリアしました。
「6番もできたのかい!すごいね!丁寧にやってくれたのが伝わるよ。」
自信をつけて気分が良くなったAくん、苦手な7番に自ら挑戦します。
「7番に自分で挑戦してるんだね!ガッツあるじゃん!」
…繰り返すうちに7番のタスクもできるようになりましたとさ。
どうでしょう?今までの経験で、身に覚えありませんか??できてるところを認めてあげ続けると、人間は自信をつけて、とんでもないことを成し遂げる動物なのです。
この前、5歳の息子とサイクリングに行きました。人生2回目のサイクリングです。彼の愛車は子供用のストライダーのコマなし14インチ(大人の自転車の半分サイズの車輪、同じ距離だと大人の2倍漕ぐ必要がある)
近くにある千葉県の手賀沼1週コースに挑みます。手賀沼は1週約20kmほど。途中でしんどくなったら適当に切り上げようと思い走りました。
道中「イイネ!」とか「カッコイイネ!」とか「ハヤイネ!」とか声をかけ、天気も良く息子くんもいい気分で走ります。
結果的に5歳児は手賀沼を2週しました、、、
人間のデフォルトはネガティブ仕様
「できてるところ見つけましょう」というと、多くの上司が「見つかりません」といってうなだれます。
そうです。難しいんです。
心理学者のリック・ハンソンによると、「人間の脳はネガティブな経験にはマジックテープのように密着するが、ポジティブな経験はテフロン加工のように弾いてしまう」とのこと。
「人の不幸は蜜の味」とはよくいったモノですね。脳とはどうやら、そういう設計になっているようです。
また言語学の研究によると、世界中のあらゆる言語の単語の7割はネガティブな意味を持つそうです。どうやらポジティブな単語、あるいはニュートラルな単語はこの世界に3割しか存在しないみたいです。
つまり、人間はほっておくとネガティブなものに惹きつけられる性質を持つということなので、意識的に習慣化しない限り、ポジティブな面に注目できない動物なのです。デフォルトがネガティブ仕様なんです。
だからポジティブなところを称賛したり、注目したりするのは意識的な訓練が必要なんです。
寝る前に訓練しよう
そういっても難しいことはありません。夜寝る前に、「今日あった良いこと」を思い出して寝るだけでOKです。
自分のポジティブに注目できる人は他人のポジティブにも注目できます。「いいことなんてなかった」という人は「とはいえ、少しでも良かったことは?」と問いかけて下さい。
ここでいいことが出ない人はハードルが高いことを自覚しましょう。
「シャケフレークをかけた炊き立てご飯が美味しかった」とか、「みんな健康で会社に来てくれた」とか、そんなレベルでいいのです。そういうレベルの良いことがポンポン出てくるようになれば、自然と他人の褒めどころが浮かんできます。
わかりやすい結果や行動は褒めやすいですが、頻繁には起こってくれませんん。褒めるためには、「もっとやって欲しいこと」を探すと見つかりやすいです。「元気よく挨拶してくれた」「誰も拭かないテーブルを拭いてくれた」「データを丁寧に集計してくれた」そんなレベルからでいいので、「あーそれやってほしかった!」ということを探して口にし始めるといいですよ。