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#5 20代で転職そして独立。バリバリ働く道を自ら選択し歩んできた小林彩子さんが20代に伝えたいこと。「できることを仕事に!そしたら自然と好きになる!」
for 20's第5回目のインタビューのお相手は有限会社イラストレーターズ・サイ(通称SAI)代表の小林彩子さんです!CM絵コンテやイラストレーションの制作会社であるSAI。HPに掲載されている「一目惚れして購入したHONDAフュージョン」とともにこれまで歩んでこられ、創業からもうすぐ四半世紀を迎えられます。
そんな愛されるSAIそしてその代表である小林彩子さんに、20代の羅針盤となるような経験談やマインドセットを聞いてきました。
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伊藤忠商事のグループ会社からイラスト制作会社に転職された後、1999 年に独立。その後、2001 年に現在代表を務める有限会社イラストレーターズ・サイを設立。主にTV- CM絵コンテやイラストレーションの制作を扱い、経験豊富なコンテライター、イラストレーターを抱え、広告イラストの制作実績も多数。
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<聞き手・ライター:桝井孝一・茂野そら>
1. 20代前半のご経歴
事務職の2年間:ずっとモヤモヤを抱えていた
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for20's第5回目の取材のお相手は有限会社イラストレーターズ・サイ(通称 SAI)の小林彩子さんです!
本日はどうぞよろしくお願いします!(インタビュワー・桝井)
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ありがとうございます!よろしくお願いします!(小林彩子さん)
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早速ですが小林さんは20代前半の頃どのように過ごされていましたか?
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22 歳までは大学生、23〜24 歳は伊藤忠商事のグループ会社(不動産会社)に入社し、事務職を 2 年経験しました。当時、バブル崩壊後の社会的な背景、そして 4 大卒の女性地方出身者という肩書きから就職先の選択肢が少ない実状がありました。そういうこともあり、総合職ではなく一般職を選んだんです。ただ、寮があったり日本橋勤務だったりと条件は悪くなかったです。当時は「腰掛け OL」 といった結婚を機に辞めていく女性社員やいわゆる「お局さん」がいる時代。毎日決まった時間に働いて定時になると退社といった職場の中で「せっかく東京にいるのにこのままの生活でいいのかな」といった不安や葛藤を抱いていましたね。初めて社会人になった私にとって、就職先はこれからの人生を左右するほど重要でした。あとは、実は事務職の仕事があまりできなかったんです。向いていなかったというとカッコいいですがこんなモチベーションのまま働いてたらそりゃ仕事ができないわけで、自分自身が嫌になっていた時期でした(笑)
2. 20代後半のご経歴
今につながるイラスト制作会社へ転職
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「このままでいいのか」という不安や葛藤を抱えていらっしゃったのですね。そうすると20代後半は転機が訪れそうな予感がしますが、どのように過ごされていましたか?
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25 歳で今の独立の母体となるイラスト制作会社に転職をしました。やはり、20 代前半の職場で抱いた「この生活のままは嫌だなという思い」が強かったです。
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今でこそ「転職」は当たり前になってきていますが、当時は転職をする方は珍しい?のかなと思ったのですが、そこはいかがでしょうか?
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親には大反対されましたし、母体も伊藤忠だったのでせっかくそこに就職したのにもったいない。という意見はありました。でも、それを捨ててでも今のままの生活でこのまま過ごすことは人生もったいないって思って転職を決意しましたね。
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そうだったのですね。事務職からイラスト制作会社へ転職なされたとのことですが、イラスト制作会社を選択なされたのは何か理由があったのでしょうか?
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求人情報を見ていて、たまたまイラストレーターを募集している会社さんがあって。自分は取り柄とかは特になかったので半分こじつけで「私は絵が得意でイラスト関係の仕事に就きたい」という動機でその会社を志望しました。実は、募集は終了して いたのですが、無理を言って社長に面接の機会を作っていただき、無事その会社に転職が決まりました。学生時代に制作した作品を持ち込みましたが、プロとしてやっていけるレベルではないということで、イラストレーターとしては採用されませんでした。ただ、営業としてなら採用してもよいということで、イラストコーディネーターとして営業部署に配属されました。
終電を逃すことも日常。すごく忙しかったのですが、広告業界の仕事にどっぷりハマってしまって(笑) 前職と比べるとそんな毎日が充実していました。
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転職先がまさに"天職"だった訳ですね!お仕事はどんなことをなされていたのですか?
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広告代理店やCMプロダクションなどの広告関連会社から依頼された仕事を複数のイラストレーターさんに指示して、納品。メールでのチェックや納品はなかった時代でしたから、直接持っていくのです。修正が入ったら出向いて、またイラストレーターさんに指示して納品。そして事後の金額交渉、請求にいたるまでの一連の役割をしていましたね。
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お互いの橋渡しの役割をされていたのですね!間に入る仕事ってすごく大変なイメージがありますがそこはいかがでしょうか?
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間に挟まれた状態になるので、あっちからもこっちからも色々な意見や不満が飛んできましたね。イラストレーターさんの職人肌たる拘りや、絵を仕上げていく制作過程の大変さは理解しつつも、取引先もクリエーティブな制作側ですから拘りはかなり強く・・・制作側の責任は全て私が持つことになりますので。イラストレーターとぶつかることは日常茶飯事でした。あ、辛いことばかりではありませんよ。
制作した絵コンテの企画がCMに流れたり、仕上がった印刷物とかを見るのも嬉しかったですね。
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苦労もありつつ、でもその先にある喜びが原動力だったのですね。そのイラスト制作会社にはいつまで在籍されていたのでしょうか?
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3年間在籍していて、28 歳になったときに独立をしました。そして 2 年後の 30 歳になったときに法人化をして「有限会社イラストレーターズ・サイ」を設立しましたね。
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20代で独立されたのですね!28歳からの2年間についても詳しくお聞きしたいです。
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当時は「やれる!」と思って独立したんですが、私はイラストレーターではないので当然一人ではできないんですね。なので、私と同じようにフリーになったイラストレーターさんたちに、仕事をふったりしながら少しずつやっていきました。最初は、イラストレーターさんの事務所を間借りして屋号を作って始めたのですが、一緒にいる時間が長く、居心地が悪くなっちゃって・・・。しかも共同経営の話も持ち掛けられて。「それは私が本来意図していたカタチと違うな」と思い、半年で屋号を変えて一から出直しました。
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そうだったのですね。独立した当時は「やれる」と思ったのは何か根拠があったりしたのでしょうか?
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根拠は仕事ができたからでしょうか(笑)そう言い切れるほど、自分を過信していましたね。改めて思うと、バカだったかもしれないです(笑) 大した事業計画をしたわけでもなく、アホみたいに本当に「いける!」「稼げる!」と思っただけで独立したようなもの。そんな勢いあまる行動、20代だからこそできたのかもしれません。
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今も健在
3.大切にしている価値観や考え方
"実るほど頭を垂れる稲穂かな"
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小林さんと比べるのは恐縮なのですが、私も現在20代という中で根拠のない自信みたいなものがある気がします。ここまで20代のお話をお聞きしてきましたが、小林さんがこれまで生きてきた中で、大切にしている価値観や考え方を教えていただきたいです。
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"実るほど頭を垂れる稲穂かな"という言葉です。実家が兼業農家で、母がお米や野菜と一緒に送ってくれた手紙にこの言葉が書かれていて。母に意味を聞いたところ、要は人間も偉くなればなるほど謙虚な姿勢で人と接することが大切だということでした。当時、20 代で独立して経営者になると、たまに周りからチヤホヤされるんですね。どんなに会社が成長したり発展しても常に謙虚な姿勢でいることは、絶対に忘れてはいけないなと。手紙はずっとトイレに飾っていました。
4.困難な壁にあたったときの対処法
"口に出して喋る"
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ここまで色々なお話伺ってきて大変なこともたくさんご経験されたと思いますが、困難な壁にあたったときに小林さんはどのようにそれを乗り越えられてきましたか?
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悶々としていないで"口に出して喋る”ことですかね。仕事柄不規則な生活で、誰かと一緒に行動することは少なかったので、よく一人で行きつけの飲み屋さんとかに通っていたんです。常連客やオーナーさんと会話する中で、話題の一つとして喋るだけ。友人に相談を持ち掛ける形だと、自分の中で事が大きくなってしまったりするので。あとは、一人で家や車の中で、経緯から辿って声に出して喋ってみたり。そうすると自然と整理されていくんですよ。または、辛い状況のときに、感情を声に出したり、無理に泣いてみたりするんです。ふとした時に、自分自身が滑稽に感じて、気づいたら何てことないじゃんって吹っ切れた自分がいるんです(笑)
5.もし今20代に戻れるなら
"英語力を身に付けたい"
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私も行き詰まったときは、行きつけのお店とかに行ってとりとめもなく話したりするのですごく共感しました!少しお話変わりますが、小林さんがもし今「20代に戻れる」なら何をしたいでしょうか?
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「英語力を身に付けたい」です。今まで20ヵ国ほど、海外を旅行しましたが、海外の人たちは、自国の言葉に加えて英語が話せる人が本当に多いです。よっぽどの国でなければ、英語で事足ります。最低限のコミュニケーション能力は欲しい。20 代の頃にもっと海外に行っていたら必要に迫られて、仕事に加えて英語も身に着けようと頑張っていたかなと。メリットの話にもつながるかもしれませんが、記憶力がある 20 代のうちに英語は打ち込みたかったって思いますね。50 代となった今では、なかなか身につかないのです。半ば諦めている自分もいけないのですが・・・
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6.今の20代のメリット
全部!
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メリットの話もつながるということですが、小林さんが思う「今の20代のメリット」って何だと思いますか?
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全部です!20代は徹夜とかも平気でできちゃうくらい体力があるし、何か学ぼうとしたら全部を吸収できる記憶力・学習能力があると思うのです。自分を過信してもいいと思います。ただ、20 代がピークなんだと自覚した上でちょっと焦るくらいの気持ちも持ち合わせたほうがいい。言葉キツイですが、20代ってあっという間ですし、ピークを過ぎれば下降していきますから(笑)
7.今の20代のデメリット
ない!と言いたいところですが・・・
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20代は人生のピーク、まさにそうですね。逆に小林さんが思う「今の20代のデメリット」ってなんだと思いますか?
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ない!と言いたいところですが、何でもできるとはいえ、それにはお金が付きまとうので、やはり経済的な部分がまだ少ないというのがデメリットにはなりますかね。お金がないからそのために働いて、それで時間がないというのはそうなのだけれど、20 代は「どっちも全力でやりなさい」と言いたいです。でも、学生さんだったら親にお金を借りてでも、何か「行きたい・学びたい」というものがあるなら今やるべきだと思いますね。お金がないから諦めると言うのは、すごくもったいないので。
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たしかに20代で経験することと30代〜40代で経験することの吸収率とかは何にも変え難いですよね。
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あとはもう一つデメリットで言うと、社会に出ると皆さんのことをあれこれ邪魔してくる人たち、いわゆる老害と呼ばれる人たちに触れてしまうことですかね。そこは意外と悩まされると思います。ちょっとそこはぶち当たる壁になるかも。
8.20代に伝えたい人生設計における羅針盤
"好きなことを仕事にしないでできることを仕事にする"
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20代という貴重な時間を無駄にしないようにということですね!ここまで色々なお話伺ってきましたが、このメディアの核となる質問です。小林さんが考える20代の人生設計(ライフデザイン)において大切なことは何だと思いますか?
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"人生は有限だ 多くの時間を好きなことに割いた方がいい 好きなことを仕事にしないでできることを仕事にする"ということですかね。Twitter をみていた時にたまたまこの言葉を見つけてしっくりきました。あとで、この言葉を調べたらひろゆき氏の言葉で。20代の皆さんに特に伝えたいという面で言うと、後半部分の「好きなことを仕事にしないでできることを仕事にする」ということかなと。前半部分は、今の私が意識していることなのですが、正直20代に言ってもピンとこないかもしれないですし、実際に当時の私もそうだったと思います。私の20代は人生=仕事でしたし。そういった中で感じたこととして、好きなことを仕事にしないでできることを仕事にしていった方が続けやすいし、選びやすいと思いますね。最初から自分に合っている仕事なんてなかなかないと思うので。この言葉を見たときに少しでも気が楽になればなと思いますね。
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この言葉に救われる人は多いのではないかと思います。「好きなことを仕事に」というワードも一時期ブームになっていたかと思います。
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私の話でいうと、仕事を続けていたら好きになっていったんです。なので仕事を選ぶときに「好きなことを仕事に」という基準で探すと、意外とそれがなくて落ち込んじゃう。そうなるのはもったいなくて。できることを仕事にしていったらそこでスキルや経験が培われて自然と好きなものになると思います。
9.20代にオススメしたいモノやこと or ご自身が影響を受けた人やモノ・コト
海外に行く経験をしてください
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いよいよ最後の質問なのですが、20代にオススメしたいモノやこと or ご自身が影響を受けた人やモノ・コトなどありますか?
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どこでもいいので海外に行ってみることをおすすめします!20 代はさっきのメリットでもお話したように、吸収力がすごくあるので何かしら得るものがあると思います。今は海外の情報を手軽に入手できて、行った気分にもなりますが、やはり実際に日本から一歩出てみてほしいなって思います。私のように言葉の壁にぶち当たって苦労するもいい。ツアーで観光名所だけ巡るだけでもいいです。その国の歴史や文化を追求したくなるほどハマってしまうかもしれません。日本では意識していない宗教が、他国ではとっても重要だと気づくかもしれません。より一層、愛国心が湧くか、今の日本の悪い部分にも気づくかもしれません。とはいえ、堅苦しく考えず、息抜きがてら、現実逃亡がてらにサクっと。
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ご自身の転職そして独立のお話、そして20代へのアドバイスやマインドセットなど、20代にとって勉強になる情報をいくつも教えてくれた小林さん。個人的には、このメディアのコンセプトでもある「20代は人生のターニングポイント“今の自分”を設計し、30代への羅針盤を作る」という言葉を体現なされている小林さんの生き様がカッコいいなと思いました。私も気になっている国がいくつかあるので20代のうちに行きたいと思います!
番外編
現役大学生が、社長として活躍されている小林さんに気になったことを質問してみました!(インタビュワー・茂野そら)
1.仕事をする上で意識していること
双方とワンチームの気持ちで進む
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人と人の間でお仕事されているというお話でしたが、そういったポジションでの立ち振る舞いでこころがけていることはありますか?
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おっと、難易度高いご質問(苦笑)
人と人との間というと、私の場合は、得意先と委託するイラストレーターですね(得意先からすると、私の会社に依頼するという形ですが)。私は、受注関係の壁をとっぱらって、同じプロジェクトに向かっている同志なんだっていう気持ちで振舞っているかな。そう振舞うことによって、得意先もイラストレーターも同じ感覚に近づいて協力的になるんです。いっちょ頑張りますかって(笑)そもそも、得意先は言いたい放題の敵じゃないし、こちらは従うだけの奴隷じゃないですから(笑)
勿論、一連のプロジェクトが円滑に進むよう、得意先への提案幅を増やしたり、適切なリスク管理をして、納品に至るまでの橋渡しは基本だけど。私にとって、たとえ双方が外部であっても、ワンチームなんだと。例えば、仕上げたCM絵コンテ企画が競合プレゼンに勝ったり、好印象の感想をもらえたら、得意先やイラストレーターには、感情あらわにして喜んだり、がっかりしたり、割とフランクに立ち振る舞っていますね。最近、リモート打合せに切り替え、イラストレーターも同席する形態に変えたんです。得意先、私、イラストレーターの敷居がぐっと縮まり、より同じプロジェクトに向かっている同志として振舞いやすくなりましたね。
2.海外旅行のススメ
「海外に行ったら必ず〇〇をする」
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海外旅行について、行ってみて印象的だった国やおすすめしたい国などはありますか?
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印象的だったのはやっぱりイスラエルですね。10月7日ハマスからの奇襲攻撃があった時に渡航中で、それは言わずとも印象的な国になるのかな。あと、特定の国ではありませんが「海外に行ったら必ず〇〇をする」みたいなことをしても面白いですよ。マクドナルドに行くとかね。私は旅行する先々でクラブ(踊るほう)に行ってみるのですが、意外だったのが台北のクラブ。コロナが収束しはじめてた頃、日中はみんなマスクをしてたけど、クラブに一歩入ると、もの凄く盛り上がっていて、フロアも大きくて。台湾という国と、若者の印象がかなり変わりましたね。
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〈取材・文・編集・写真=桝井孝一・茂野そら〉
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