チェルシー、財政から見ると今季が運命の分かれ目
予算。今風に言うとバジェット。年末に近づくと人事評価とともに、中間管理職のタスク表に特大の爆弾を落としていく奴。しかし!ここで負けては来年度の課の運営がままならない。財務部の意地悪な質問に耐え、申請した金額を守り抜くのが、中間管理職の定めなのだ。
ことさように、組織を動かすにはお金がついて回るもの。欧州サッカー市場において、今、そこが一番のネックになりそうなのがチェルシーです。(強引な紐づけ!)
昨季はまさかのチャンピオンズリーグ(CL)どころかヨーロッパリーグ(EL)出場権も逃し、今季は巻き返しを狙うプレミアリーグ所属の強豪チェルシー。そんな彼らの前に立ちはだかる財政的困難と、今季のピッチ成績別に待ち受ける未来についてデータ30%、妄想70%で語っていきたいと思います。後半の今季成績別の売却選手予想は、有料としています。ただ、前半の本筋は無料公開です。いつも通りお楽しみください。
厳しいお財布事情
実は控えめだった24年夏市場の立ち振る舞い
今夏の移籍市場、チェルシーは相変わらず市場の耳目を集め、プレミアリーグの支出ランキングでまたもや1位に輝きました。しかし、お財布の紐が固くなっているな、と思える点が2つ見受けられました。
一つ目は、支出額の大幅な減少です。2022年にチェルシーのオーナーはロシア人富豪のアブラモヴィッチ氏から、アメリカ人のトッド・ベーリー氏へ変わりました。その年の移籍市場に6.3億ユーロ(約1,000億円)の大金を投じたことで、一気に注目の存在となりました。
しかし、2期連続で中位に甘んじた後の今夏は2.4億ユーロとベーリー氏初年度の半分以下の金額にとどまっています。
二つ目は、移籍収支が均衡に近づいていることです。ベーリー氏が来たばかりの22/23シーズンの移籍市場の収支は▲5.6億ユーロ(約900億円相当)と、これを大赤字と言わずして何という金額を計上しました。
しかし、昨季、今季と赤字額は大きく減少しています。特に今夏は、ユース出身者(イアン・マートセン、コナー・ギャラガー、ルイス・ホール、オマリ・ハッチソンなど)を次々と売却し、ルカクも損切り覚悟でナポリへ放出するなど実は売却の方もかなり積極的に進めました。
余談ですが、よくチェルシーは選手を獲得しすぎてトレーニングルームが一杯と揶揄されます。しかし、これは今に始まったことではなく、前アブラモヴィッチ政権からのお家芸とも言えます。
ルール抵触ギリギリだった昨年決算
なぜチェルシーは支出を切り詰めつつあるのでしょうか?主な原因の一つとして、今のプレミアリーグ全体に多大な影響を与えている「収益と持続可能性に関する規則(PSR)」の存在があります。
PSRは一言で簡潔にまとめると「3年合計で許容できる赤字額は1億500万ポンド(£105mln)」という財政ルールになります。詳細には、インフラ支出やユース育成などは計算に含まれないため、赤字額≠PSR対象額とはならないのが難しいところです。
チェルシーはアブラモヴィッチ政権の最終期(21年6月決算)に1.56億ポンドという超赤字を計算しましたが、これはコロナ禍に伴う特例によりカウントされません。計算に入るのはベーリー政権に入ってからです。
ベーリー政権1年目は1.21億ドルの赤字でPSRに抵触しても不可思議ではない水準でしたが、ここでは抵触の危険性は取りざたされませんでした。恐らく赤字の中にPSRへ含まれない項目があったと推察されます。
ただ、2年目に入り成績が振るわない中、このままだと更なる大赤字は不可避という所に追い込まれます。さすがにPSR抵触か、、、と思われたときに、何と!チェルシーは保有していたホテルをオーナーのベーリー氏が率いる投資会社Blue Coに売却するという「うぉぉぉい!会計操作!」と非難されても仕方がないグレーな手で乗り切ります。なお、このディールは後にプレミアクラブ間で投票にかけられ、過半数以上のクラブが容認したためお咎め(おとがめ)なしとなっています。各クラブとも多少なりとも身に覚えがあったように思えます。
チェルシーの長期契約を理解するための減価償却の話(寄り道)
とは言え、チャンピオンズリーグ(CL)出場を逃してしまった以上、今季売り上げを爆発的に伸ばす手立ては限られています。代わりにチェルシーは一時チケット代を40%値上げすることも考えたようですが、当たり前にファンからの強烈な反対にあい、5~8%の値上げに落ち着いています。売上を伸ばせないなら、費用を削減するしかありません。ただ、こちらも非常に厳しい状態に置かれています。
と、その前にフットボールクラブの費用は、ざっくり×2言うと、営業費=給料、販管費=選手の減価償却費、と見なせます。減価償却費?という方もいらっしゃるので少し寄り道です。
サッカー選手の獲得は、会計上「人」扱いではありません。普通の企業にとって工場を建てるのと同じく、「資産」を得たとみなされます。工場で売上に直結するモノを作るように、サッカー選手は売上に直結するプレーをするからですね。
工場を作って翌年に使えなくなったという例は稀有です。徐々に古くなって生産効率が落ちていき、やがて使えなくなるという考えが自然です。このように少しづつ使用価値が落ちていく分だけ、費用に計上する考え方を「減価償却費」と言います。
サッカー選手も年齢とともに稼働率が落ちていくと考えられるので、少しずつ費用計上されます。毎年の費用額は「獲得費用÷契約年数」で計算されることが多いようです。
費用の削減余地は小さい可能性
チェルシーが若手を5~7年の長期契約で獲得する理由として、上記の減価償却費を抑えることが挙げられます。例えば、1億2千万ユーロで獲得して3年契約だと、毎年4千万ユーロの費用計上が必要となります。しかし、6年契約にしてしまえば毎年2千万ユーロの費用にとどまります。
23年6月期に言えば、減価償却費(含む売却損失)はやや減少しており、狙い通りのコスト削減効果が発揮されています。一方、選手へのサラリーが主となる営業費はそれ以上に増加しており、長期契約のメリットをサラリー増加が食いつぶして、なお余っている状態に陥っています。
とどのつまり、チェルシーが費用削減で利益をねん出するのはかなり厳しく、ピッチ上の成績で何とかする以外方法がないのが現状だと思われます。
チェルシーのシナリオ別選手売却予測
想定の前提
さて、いよいよチェルシーの移籍戦略予想となります。
ピッチでの成績に伴う増収効果を考える前に、まず25年6月までに埋めるべき赤字額を予想していきましょう。残念ながら24年6月期の通期決算は出ていないため、23年6月期に不動産売却がなかったとしたら計上していたであろう赤字額に、今年の夏の移籍金収支額、チケット増収効果を足し合わせたものとします。推計結果は約2億ポンド。今期はPSRへ絶対抵触しないように、この赤字額を帳消しにいくと仮定します。
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