「新シーズン」の開幕を迎えるメキシコ
昨年、Jリーグは、夏春制から秋春制へシーズンを移行することが発表された。近年、この話題が報道される度に、リーグ制度について様々な議論が繰り広げられ、ヨーロッパなどのリーグが議論の比較対象となった。
世界を見ると、ヨーロッパのように、秋春制を採用している国が多い。メキシコ国内リーグも秋春制であるが、他国とはひと味違ったリーグ制度となっている。
今回は、日本やヨーロッパとは異なるリーグ制度と、「新シーズン」開幕を前にあった様々な動きに触れていきたい。
メキシコの2ステージ制
2023年、メキシコ国内サッカーリーグ「リーガMX」は、クラブアメリカがアペルトゥーラ王者に輝き幕を閉じた。
2ステージ制であるこのリーグは、1月から後期戦(Clausura クラウス―ラ)が始まる。
しかし、メキシコは単なる2ステージ制ではない。
一時期2ステージ制を採用していたJリーグとリーガMXでは、全く別ものと感じる。その理由として、チャンピオンチームの決め方の違いと、中断期間に移籍市場が活発さが挙げられる。
1年で最大2チームが王者となるリーグ
Jリーグで見られたような通常の2ステージは、
【前期戦+後期戦】による一年間の「長期戦」。
そこで前期王者と後期王者、そして、年間王者を決める。
これに対して、リーガMXは
【前期戦+短期決戦(プレーオフ】+【後期戦+短期決戦(プレーオフ)】
を1シーズンの流れとし、前期王者と後期王者という1年間に2度リーグチャンピオンを決めるシステムになっている。
そのため、前期戦(アペルトゥーラ)が終われば、各チームで補強が始まり、後期戦(クラウス―ラ)の王者もしくはプレーオフ進出を目指したチーム作りをする。
実際に、今シーズン、クラウス―ラを前に、アトレティコ・サンルイスやクラブワールドカップで浦和レッズと戦ったクラブ・レオンなど新しい監督を迎え入れたチームも珍しくない。
このように、日本やヨーロッパにはないリーグ制度の形によるシーズン中断期間の活発な移籍とチーム作りは、リーガMXの魅力の1つと言えるだろう。
移籍市場を賑わせたスター選手
2023シーズンのアペルトゥーラ後から始まった移籍市場は大いに賑わった。
話題の中心となったのは2人のスター選手だ。その2人とは、モンテレイのエースであるフネス・モリと元メキシコ代表のハビエル・エルナンデス。
フネスは移籍が実現し、エルナンデスはフリーのままである。
それぞれの移籍の経緯や状況について触れていきたい。
エースストライカーの電撃移籍
様々な記事で”El histórico goleador” (歴史的なゴールゲッター)と表現されるストライカーは、モンテレイに在籍した9年間で154のゴールを記録した。出場数は312試合であるため、ほぼ2試合に1得点を挙げるといったことになる。
そんな彼の移籍先は、プーマスに決まった。プーマスは、メキシコ国立自治大学が母体となるクラブで、2023アペルトゥーラでは準決勝まで勝ち残った強豪。昨年夏にもプーマスへの移籍が噂されていたものの実現することはなかったため、今回の移籍は、プーマスファンにとって嬉しい知らせだろう。
プーマスの準決勝についての記事はこちらから↑
クラウス―ラでのタイトル獲得を目指す中でのフネスの加入は、最後のピースが揃ったと言える。
プーマスはメキシコサッカー界の新たな顔となりつつあるセサルを中心とした攻撃で大躍進を遂げながらも、準決勝で敗退した。この敗戦の際、「チームの経験値」を指摘するような記事が多数見られた。プレーオフを勝つためには、トーナメント制の独特な雰囲気にも打ち勝つことが求められる。
実際、アペルトゥーラで決勝まで勝ち上がったクラブ・アメリカとティグレスは近年、上位争いの常連であり、チームの経験値も高かったことも勝ち上がれている要因となっているのだろう。
プーマスはこの課題に対して、フネスの経験値の高さに期待した。
公式サイトのニュースでも
とあるなど、得点という結果以外の面でもフネスへの期待が大きい事が分かる。エースの加入によって、経験値、数字ともに、チームにどのような化学変化をもたらすのか注目だ。
難航するレジェンドの復帰
ハビエル・エルナンデス。言わずと知れたメキシコのレジェンドである。
かつては、マンチェスターユナイテッドやレアルマドリードなどでもプレーし、数々のゴールを生み出したメキシコを代表するストライカーだ。
セビージャでプレーした後、元日本代表吉田麻也が所属しているロサンゼルス・ギャラクシーに4年間在籍していた。昨年11月に退団が発表され、フリーとなった。
エルナンデスの退団を機に、メキシコメディアでは国内リーグ復帰が騒がれるようになった。国内リーグ復帰先として名前が挙がったチームは、グアダラハラ。「チーバス」の愛称で知られるクラブは、メキシコ中部に位置する国内第二の都市グアダラハラを本拠地とする強豪だ。
エルナンデスはチーバスでプロデビューを果たし、マンチェスターへと巣立った。彼がメキシコに復帰するのであれば、このクラブ以外考えられないだろう。
そんな彼の復帰の噂は、現地メディアにも大きく取り上げられ、注目された。
しかし、結論から述べると、14年ぶりとなる古巣復帰は現時点で確定していない。
なぜ復帰がすぐに決まらないのか。
この理由を年明けからの現地の記事の一部を紹介しつつ見ていく。
2024年1月6日
"Jugadores de Chivas revelaron que Chicharito Hernández ya está "confirmado"" 「チーバスの選手たちが”チチャリート”(エルナンデスの愛称)の獲得がすでに”確定”していることを明らかにした」
2024年1月11日
"La cláusula por la que se ha retrasado la firma de Chicharito con Chivas"
「チチャリートとチーバスの契約が延期となったクラウス―ラ」
ここで初めて、エルナンデスの交渉が難航している理由が報じられた。
この記事の続きには、
フロントが懸念した万が一の問題は、エルナンデスが抱えている膝の故障であった。プレー復帰までに時間を必要とすることから、スター選手の獲得を躊躇ったのだろう。
チーバスは、2023アペルトゥーラで5位とプレーオフに進出したものの、昨年のクラウス―ラ準優勝チームとしては物足りなさも残った戦いとなった。
ファンや解説者からは、エルナンデスが持つ爆発力に期待する声も大きい。
エルナンデスのチーバス復帰も時間の問題だろう。
メキシコのレジェンドのプレーが再び見れる日は近いかもしれない。