リギージャが創り出すメキシコのサッカー文化
いよいよ、フィナーレへと向かうメキシコ国内リーグ『リーガMX』。
18チームによる総当たりのリーグ戦、『リギージャ』と呼ばれる1位から8位までのプレーオフを経て、チャンピオンを決める。
今シーズンのクラウス―ラで、決勝に勝ち残ったのはクラブ・アメリカとクルス・アスル。
下剋上も大いにあり得た中で、リーグ戦の上位2チームが今シーズンの締めを飾ることになった。
J1リーグでも導入されたものの一時的であったプレーオフ制度。その他、ヨーロッパリーグなどを見てもプレーオフ制度は極めて珍しい方式だ。
その滅多にない方式であるからこそ、他リーグでは味わえない緊張感や盛り上がりが見られるのが、リーガMXの魅力。
今回は、短期決戦リギージャならではの盛り上がりを現地メディアの記事や動画を通して紹介する。
試合前日から始まる闘い
当たり前であるが、短期決戦のリギージャは、1試合の結果が極めて重要である。そのため、サポーターもいつも以上に熱が入る。
特に、対戦相手がライバルチームであると余計に負けられない。
絶対に負けられない戦いを選手に後押しすべく、メキシコのサポーターは試合前日から選手を激励する。
選手を激励するためにサポーターが集まるのは、チームが宿泊するホテル。
警察官が配置されたホテルの前で、多くのサポーターが大旗や太鼓を持ち、チャントを歌う。
選手や監督もそれに応えるため、サポーターの前に顔を出すことも。
掲載している動画を見ると伝わると思うが、集まったサポーターの数や旗は想像以上。
グアダラハラを本拠地とするチーバスは、準決勝アメリカ戦前夜に、メキシコシティのホテルに多くのサポーターが集結した。
国内で最も熱狂的とも言われているチーバスサポーター。最大のライバルとの戦いへの想いやクラブへの愛をチャントで表現した。
試合前夜にホテルに集結したのはチーバスサポーターだけでない。
今シーズン快進撃を続けたクルス・アスルのサポーターも激励するため、チャントを響かせた。
アスルは名門クラブでありながら、2021年以来優勝から遠ざかっているチーム。2021年の優勝時のメンバーとは大きく入れ替わっていることがその原因の一つという指摘もされてきた。
その状況で、今シーズンから指揮を執った38歳のアルゼンチン人指導者・アンセルミ監督。3-6-1から繰り出される攻撃的なスタイルで、快進撃を遂げた。
チームの躍進にサポーターの熱も高まる。
準決勝第2戦ラジャドス（モンテレイ）戦前夜。名門クラブとして決勝の舞台へ戻るためにサポーターが集結した。
それに、選手や監督もサポーターの前に顔を出し、旗を振り、チャントを一緒に歌うなどして声援に応えた。
リギージャというクラブの運命が大きく変わる決戦。試合前日という貴重な時間ではあるものの、この瞬間を通して、サポーターと選手、スタッフがまた一段と団結し、試合に臨んで行くのだ。
スタジアム外での熱狂ぶり
試合前日にこのような盛り上がりを見せれば、当日になると当然、そのボルテージは高まっていく。
準々決勝のモンテレイダービー。
ラジャドスはホームでの第2戦にあたり、スタジアムの外では熱狂的なサポーターが選手のバスを迎えた。
大旗とチャントだけでなく、発煙筒や花火が上がった。
サポーターの熱い想いの後押しが大きな力になったのだろう。
ティグレスに先制こそ許すも、その後は試合をコントロールし、1対1の同点で終了。2戦合計で勝ち越し、今シーズン最後のライバルとの戦いを制した。
メキシコサッカーの縮図を表すファイナル
リギージャの開催は、メキシコだからこそ創り出せる応援や雰囲気、メキシコのサッカー文化を、より強く感じられる。
その戦いもついにファイナルを迎える。
クラブ・アメリカ vs クルス・アスル
名門クラブ同士、リーグ戦1位2位の対決となったこの試合を現地のサッカーファンはどう見ているのだろうか。
１つ興味深い記事があったので紹介したい。
記事の見出しは
”Casi todo el país esta con Cruz Azul” 「メキシコほぼ全土がアスルの味方」
以前のnoteでも触れたように、アメリカはメキシコ１人気であり、憎まれたチーム。
最も歴史が長く、スポンサー企業も大手。クラブの資金も国内トップクラスと、メキシコサッカーを牽引してきた。このように、他のサポーターが「嫉妬」するポイントが多いことから、「打倒アメリカ」のような構図が完成されたのだろう。日本で言えば、プロ野球の巨人のような存在というのが分かりやすいだろうか。
現地メキシコの記事では、この背景を踏まえ、
¿ Cruz Azul será consciente que casi todo el país a excepción de los americanistas, están con ellos? Todo el país va con Cruz Azul"
「クルス・アスルは、アメリカファンを除く全ての国民が味方していることに気づいているだろうか？国全体がクルス・アスルを応援している。」
"si este apoyo a la Máquina de los aficionados de diferentes equipos de la Liga MX, le servirá a los cementeros para quedar campeones."
「アスルファンだけでなく、リーガMXの他クラブのファンもアスルを応援すれば、彼らがチャンピオンになるための力になるだろう。」
と現地の解説者がコメントした。
これに対し、ファンの間ではその関係図を示す画像が作られるなど、2チームのサポーター以外も注目する一戦となりそうだ。
このように、王者奪取を目指すクルス・アスルは、他クラブサポーターと自チームサポーターの応援と期待を背負い戦う。
一方、アメリカは名門クラブとして圧巻の強さを見せつけ、アペルトゥーラに引き続き国内チャンピオン獲得を目指す。
決勝戦は、第1戦をアスルのホーム、第2戦はアメリカのホームで行われる。
今シーズンの最後を歓喜で終えるのはどちらのクラブか。
国内全土を巻き込んだ戦いに注目だ。