◇幹事を引き受けるワケ⑩ ~ 惨めな道中 ~
鉛のように重い足をなんとか前後に動かし、カラオケ店に向かって歩みを進める。さっきはなるべく早く部屋の中から立ち去りたいという気持ちだけの行動で、彼女らの思惑が理解できなかった。
今頃バカなやつだと私のことを笑っているのだろう。
何かLINEのメッセージを送ろうかとも思ったが、どうせ返事を返してこないだろうという気持ちから、とにかく早く戻ることを優先することにした。
『その代わり今帰ったら、今日の写真みんなにばらまくけどね』
まあや様の言葉が頭の中を駆け巡る。もしかしてまあや様は既にきょうこ様とゆみか様から他の社員の連絡先を聞いて、写真や動画を共有しているのだろうか?
みっともない姿を撮影された時点で私は絶対的に弱い立場にあることを思い知らされた。いくらでもコピーができるし、既に3人の中では共有されているはずだ。
電車に乗っている時間がものすごくもどかしい。早く戻りたい気持ちがあっても、電車は決まった時間にか到着しない。
何とか解決する方法はないのだろうかと考えても、結局は彼女らの気分次第で全てがコントロールされてしまうことになりそうだ。
ようやく電車がカラオケボックスの最寄り駅に到着した。ぐちゃぐちゃの上着を着ていることも忘れて全力で走ってカラオケボックスへと向かう。
走りながら、彼女たちにどう説明すればよいのかと考えたが、何も答えが浮かばない。結局なるようにしかならないのだ。
店に到着すると外で息を整える時間を部屋の中へ入った。
店 員「お客様すみません!」
店員に声をかけられた。そういえば、息を切らした男がぐちゃぐちゃの背広で店内に入ってきたら、不審者と思って当然だった。
わたし「申し訳ありません。先程まで13番の部屋を使っていたものですが?」
店 員「はい?」
わたし「あの。女性3人と私で入っていたのですが、私が先に帰りまして。その後忘れ物に気が付いて。」
店 員「はぁ。それでその恰好はどうしたのですか?」
わたし「急いでいたら、ぬかるみでこれんでしまいまして、、、」
訳の分からない言い訳をしたが、そこは追求されなかった。そういえば電車でもこの恰好で白い目で見られていたんだなと不快な目線も気にならない程慌てていたことを思い知る。
わたし「そうだ!もう帰っているかどうかを一緒に部屋まで確認に来てもらえませんか?」
店 員「それならシステムで確認できますので。それより、連絡は取れないんですか?」
わたし「えっと、はい。それではお願いします。夢中になってスマホを見ていないのかメッセージを確認してもらえていなくて。。。」
店 員「はい。それでは確認しますね」
怪訝な顔を見せつつも、彼女らが退店しているかどうかを確認してもらえるようだ。退店していれば顔を見せなくて済むが、鍵は返ってこない。
その時、まあや様が13番の部屋から出てくるのが見えた。私は迷ったが、思い切って声をかけることにした。
わたし「まあやさん!」
まあや「せんぱい?」
彼女は一瞬ぎょっとした表情を見せたが、その後すぐに無表情になる。
店 員「まだ帰られてなかったみたいですね。それでは」
まあや「せんぱい、どうしたんですか?とりあえず部屋に入ってください」
わたし「ちょっと転んでしまって、、、はい」
まあや様が私の服装が外で汚れたかのような会話をすることで自然と自室へと誘導した。
わたし「ありがとうございました」
店員さんにお礼を言ってから、再び地獄の密室へと足を踏み入れた。