改善を成功に導くカギ その弐の三
今日は、お報せしていた通り『改善を成功に導くカギ その弐の二』の続きです。
前回のラストで予告したとおり、MAZDA再生の事例を題材にして、全社的な取り組みに関してのお話をしていきたいと思います。
2006年に始まったMAZDA再生
2006年というと、ライブドア事件があった年です。
この時のMAZDAは好調でしたが、2年後の2008年には赤字に転落。
その後、東日本大震災の影響もあって、2012年まで5年連続で赤字でした。
でも、2011年に発表したSky Active Technologyで作成したSky Active エンジンを搭載したデミオを発表し、その後超人気車種となるCX-5を発表したのです。
その結果、2013年には黒字に転換。
そして新型ロードスターを発表した2015年には、売上高3兆円を突破し、営業利益率も6%台と大きく躍進したのです。
この大躍進のスタートは、10年前の2006年だったのです。
MAZDAの大躍進は10年後の未来を語ることから始まった
MAZDAがまだ好調だった2006年に、当時専務だった金井氏は、10年後のMAZDAはどんな会社でありたいかと言うことを、皆で語ったと言います。
ある講演会で、金井氏はこのように語っています。
「今回の取り組みで最も重要で、有効だったのは、2006年に2015年を描いたことだ。これがなければ何も始まっていない」
当時、約10年後にどうありたいか皆で議論をしました。10年というのはなかなか良い設定でして、ある程度無責任に語れます」
その10年後に描いた夢を実現するために、何時に何を作って、何を市場に出して、ということを決めて行ったわけです。
それが2011年のSky Active Technologyの発表と、デミオやCX-5の発売であり、その躍進は2013年のアテンザ、2015年のロードスターに続くわけです。
このように先のゴールを決めて、それに向かって実現していく段階を設定して行く方法を『バックキャスト』と言います。
『笛吹けど踊らず』が起きなかったMAZDA
このような話をすると「トップダウンでやれば、それは出来るよ」と言われそうですが、実際には多くの企業や組織で『笛吹けど踊らず』の現実が起こっています。
今回のMAZDA金井氏の事例を再確認してみましょう。
「当時、約10年後にどうありたいか皆で議論をしました。10年というのはなかなか良い設定でして、ある程度無責任に語れます」
この「皆で議論しました」というところがポイントだと思うのです。
改善・改革の成否は“巻き込み力”で決まる
今回のMAZDAの躍進は、金井氏の巻き込み力が大きな要因ではないかと考えています。
金井氏は講演会の中で、「皆で議論しました」と語っていますが、この皆が全社員のはずはありません。
最初は間違いなく、取締役などの経営陣か、自分の担当だった開発陣から始めたはずです。
そこで描いた未来図を、徐々に共有し広げていって、そして全社的な活動へと変えていったのだと思います。
実際、Sky Active Technologyを最初にスタートさせたのは開発部門からでした。
そしてそれが、開発から設計へ。
設計から製造へ。
製造から営業へと拡がっていったのです。
トップダウンでもいきなり全部は巻き込めない
トップダウンであれ、ボトムアップであれ、新しいことをやろうとしたら、必ず周りの協力が必要になります。
そのためには、自分がやろうとしていることをキチンと説明して、周りの同意を得ることが大事になります。
そのためには、まず周りを巻き込んでいく必要があるわけです。
確かに会社や組織の経営陣であれば、それなりの影響力はあるでしょう。
しかし、たとえ社長であっても、いきなり全社員を巻き込めるわけではありません。
ソフトバンクの孫さんや、ジャパネットたかたの高田社長といった、カリスマ性を持っておられる方ならその限りではないでしょうが、そうした方たちであっても難しいのです。
徐々に範囲を広げていって、志を同じくする仲間を増やし、その中で新たな事例を生み出しながら、活動を広げていく。
何か新しいことをしようとする時は、必ず反発があるものです。
表面的には反発せずとも、日和見・傍観者でいる人も増えるでしょう。
だからこそ、バックキャストで未来図を示し、そこから現在までの時間の中でなすべきことを明確にし、その未来図に賛同してくれる人たちを巻き込んでいく。
改善を行っていくためには、このステップを踏まないと、先に言った『笛吹けど踊らず』になってしまいかねないのです。
だからこそ、いきなり全社展開するのではなく、徐々に範囲を広げて、周囲を巻き込みながらやっていく。
このやり方が、改善を成功に導くカギになるのです。