啓蟄の頃と味噌カツの味

このところオフィスで作業している日が続いています。
今年に入ってからは土曜日日曜日も
新刊本「食情報インフルエンサーの教科書」(徳間書店)
の執筆に充てる時間が多かったですね。
執筆は頭を使いますが、根を詰めて書き続けるとやはり疲れます。
作業している間はユーチューブの
「蛙の鳴き声」や
「海の波の音」
を聞いてせめて小旅行気分を味わっています。(笑)
さて。
東京はすっかり春めいて来ました。
最近、早朝、ウォーキングをしていますが、
陽がすっかり長くなってきました。
先先週の木曜日の2月18日に24節気では「雨水」を迎えました。
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雨水 (うすい) 2/18(2021年)
正月中 (睦月:むつき)
陽気地上に発し、雪氷とけて雨水となれば也(暦便覧)
空から降るものが雪から雨に替わる頃、深く積もった雪も融け始める。
春一番が吹き、九州南部ではうぐいすの鳴き声が聞こえ始める。(こよみのページ)
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春一番にうぐいすの声です。
雪が溶けて水になるから「雨水」ですね。
そして来週の金曜日。
3月5日には待ちに待った「啓蟄」の頃となります。
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啓蟄 (けいちつ) 3/6頃
二月節
陽気地中にうごき、ちぢまる虫、穴をひらき出れば也(暦便覧)
啓蟄は冬眠をしていた虫が穴から出てくる頃という意味。
実際に虫が活動を始めるのはもう少し先。
柳の若芽が芽吹き蕗のとうの花が咲く頃である。
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冬眠をしていた虫が穴から出てくる頃、です。
もぞもぞと動き出す頃。
春は黄色い花から、と言い、黄色い菜の花が咲き始めます。
「里の春は黄色い花から」
前にこのコラムでも書きましたが、
私が1年で一番好きな季節がこの「啓蟄」から「春分」の頃です。
今年の春分は3月20日。
東京の開花予想が3月19日ですから、
桜の花も咲き始めます。
啓蟄はまだ春浅き頃、ですね。
国立大学の2次試験が終わる頃。
そして中学や高校では卒業式がある頃です。
私は、転校して1年間だけ通って卒業させていただいた高校(米子東高校)の卒業式の後、
米子市街からかなり離れた根雨という町に住む同級生のところに行き、
何泊かさせていただいた事が本当に楽しかった。
そして嬉しかった。
思い出に残る出来事でした。
私は貧しかったですがとても厳しい家庭に育ちました。
高校時代の外泊は一切禁止。
東京の高校生から見たらびっくりですね。(笑)
運動会や文化祭の後、打ち上げで友達の家に皆で泊まることがあっても
私だけは1人自転車で深夜、家に帰りました。
ただ卒業式の後は、外泊しても叱られなかった。(笑)
初めて友達の家におおっぴらに泊まれて、
またその友達のお母さんがとても料理が上手で、
産まれて初めて「みそかつ丼」というものを食べました。
そのうまいのなんのって!
かつの揚げたても衣から豚肉まで最高に美味しくて、
またとんかつの上に何とみそのソースが塗ってあって驚愕のうまさでした。
家以外で食べた食べ物の中であれほど美味しいと思ったものはなかったです。
友達のお母さんは多分、名古屋あたりの出身だったんでしょうね。
みそソースを上手に使う方でした。
こんなうまいもの食って本当に俺、大丈夫だろうか、
もう2度といいことないんじゃないか、って頭に浮かびました。(笑)
今でも夢に見るくらい。
鳥取県特有の春先のどんよりした空の下、
もう運転免許を取った友達がおっかなびっくり軽自動車に乗ってやってきたり
友達のお母さんの作る料理を食べたり、励ましてくれたり
本当に楽しくて幸せな至福の時間でした。
根雨は山深いところで、
ところどころには根雪がまだ残っている頃。
卒業という解放感と、大学生活の(生活の)不安であったり
1人で京都に出る不安と希望とときめきと。
そしてみそかつ丼のビックリするくらいの美味しさ。
春先に吹く強い風の中、人生に漕ぎ出す門出の味がしました。
あれから30年以上時間は流れましたが、
あれ以上美味しい外で食べたご馳走には出会ったことがありません。(笑)
その友達は、今では福島で喫茶店をやっています。


一度、福島の彼の店にお邪魔して自慢の珈琲を飲みながら
あの時のお礼を言いたいですね。
お母様にも。
「あの時、優しくしてくれてありがとう」って。
今でも東銀座の名古屋の味噌カツ屋「矢場とん」の前を通り過ぎるたびに
あの時のみそかつ丼の味を思い出して、
あの時の風の強さと土の匂い、それから不安と希望で胸をふくらませて
同じ時間を過ごした友達の事を思い出します。
そしていつでも勇気づけられる気がするのです。
男の子は、晩成で遅熟で、その時はただただ美味しいだけでしたが、
そうしたちょっとした大人の優しさや光景をずっと覚えていて
ふとした時に思い出して、
自分が苦しい時や悲しい時の糧とするものです。
あの時食べた味噌カツの味は今でも私を元気にしてくれる思い出です。
多分、その友達も覚えてないだろうなあ。
私にとって啓蟄とは、土の混ざった田舎の風の匂いや
根雪の泥だらけの光景、そしてあの時の味噌カツの味と共に思い出す
ほろ苦く苦しみながら前に進む事を決意した季節です。
あの頃も、辛く苦しい毎日でした。
今でも啓蟄の頃になると色んな事が脳裏に浮かびます。
それでは。
今週も明るく元気に前向きに。

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