“死ね”から始まる信頼関係構築レッスン【何も考えていなかった私が社会福祉士になるまで①】
子どもの頃、夢なんて深く考えたことがなかった。
『セーラームーン』からの『お花屋さん』という、周囲に影響されまくりの王道パターンを通った幼稚園時代。
小学生になって、本を読んでいた流れでなんとなく『小説家』と言ったら、周囲の反応がよかったので、しばらくはそれで固定。
卒業文集には、当時犬を飼いたい欲望が強かったから『獣医さん』と書いたが、書いた翌日に「獣医になったら動物の血を見なあかんやん」と気づいて秒で断念。
そんな私が、ソーシャルワーカー(社会福祉士)を目指すまで。
3人の子どもとの出会いが大きかったので、分けて書いていきます~
児童養護施設での“はじまり”(私の胃痛も)
特に将来のことを深く考えたことがなかった私が、初めて興味を持った職業が「保育士」だった。
理由は単純で、友人の弟や妹によく懐かれていたから。
そして、子どもと関わる仕事といえば保育士くらいしか知らなかったから。
「保育士になりたい」と親に相談したら「あんたは飽きっぽいんだから、もっと広い視点で学びなさい」と諭され、結局、大学では福祉関係を学べる学部へ進学することに。
「キャンパスライフを満喫するぞ!」と意気込んでいた私。
入学してすぐ、できたてほやほやの友人たちから声をかけられた。
「今日、児童養護施設の学習支援ボランティアサークルの見学があるから行くねんけど、一緒にどう?」
正直「児童養護施設って何?」というレベルだったけど、とりあえず「行く」と二つ返事。
友人との仲を深めるチャンスだと思ったのと、特に他に予定もなかったのが理由だ。
今思えば、これがはじまり。
見学中、施設を案内してくれた職員から、子どもたちの背景について話を聞いた。その内容は、想像以上に壮絶だった。
表面上は無邪気で元気に見える子どもたちも、さまざまな事情を抱えて施設で生活しているという現実に驚かされた。さらに、職員は私たちにこう釘を刺した。
「子どもとの信頼関係を築くには時間がかかる。このサークルに入るなら、最低でも1年は続ける覚悟を持ってください。」
「友人らと仲良くなるきっかけやし、あわよくば履歴書に書けそうやな」という私の浮ついた気持ちはここで一蹴された。
帰り道、一緒に見学に行った友人たちは口々にこう言った。「うーん、私には無理そう」「1年絶対続けろとか重すぎやろ」
そんな中、私はただただ何となく「とりあえずやってみようかな」と決めた。無邪気に遊ぶ子どもたちの可愛さが頭から離れなかったのが大きかった。
ただ、その選択がこの先1年の私の胃痛の原因になるとは、この時は思いもしなかった。
“死ね”が飛び交う日常
施設の子どもたちは、とにかく個性豊か。
人懐っこくくっついてくる子、ヤンチャ話を得意げに語る子、ご飯の早食いを挑んでくる子、遠くからじっと様子をうかがう子。本当にいろんな子がいた。
その中で、私が担当することになった小学6年生の女の子は、特に強烈だった。
担当初日から彼女は私に言った。
「ねえ、なんで来たの?」「うざいんだけど」「早く帰れば?」
後から職員に聞くと、これが彼女のウェルカムメッセージらしい。
心が折れる音が聞こえた気がしたけど、ひとまず耐えた。
隣では同期がさっそく担当の子と楽しそうに好きなアイドルの話で盛り上がってる。
私だってすぐに打ち解けることができるはず。
だって子どもから好かれることには自信がある。
だけど、回を重ねるごとに言葉はエスカレート。
「死ねよ」「マジで無理」「近寄んな」
2時間かけて作った、彼女が好きであろうキャラクターのイラストも入れた手書きの学習プリントはビリビリに破られて床に落ちた。
そして一度部屋に閉じこもってしまうともう出てこない。返事のない扉の前で3時間あてもなく話しかける日々。
ボランティアの予定が近づくたびに、「今日はちょっと熱があることにして休む?」という自問自答が繰り返され、ある日とうとう施設のトイレに逃げ込んで泣いた。
声を出して泣いたのは小学生以来な気がする。
施設に行く足もどんどん重くなり、ボランティアのことを考えるだけで胃がキリキリキリと悲鳴をあげる。
でも1年は続ける約束をしているし…と悩んだ末に先輩や施設の職員、大学の教授に相談して、彼女との向き合い方を考え直すことにした。
“試し行動”という名の洗礼
そこで知ったのが「試し行動」という言葉。
聞いた瞬間「なにそれ新手の戦術?」と思ったが、話を聞くうちに納得。
試し行動とは、子どもたちが大人を信用していいかを試す行為らしい。
拒絶的な言葉や態度で「この人は本当に自分の味方なのか」を見極めようとしている、という説明を聞き「ああ、なるほど。つまり彼女の“死ね”もテストだったわけか」と妙に納得した。
試し行動を理解してから、彼女の言葉に対する受け止め方が少し変わった。
「死ね」と言われても、「お、今日もテスト頑張ってるね★」と思える余裕が少しだけ生まれた。
(もちろん心の中だけど。)(そして言われるのはやっぱりしんどいけど。人間だもの。)
そこからは、感情的にならないよう気をつけながら、どう接するべきかを一つずつ試していった。
試し行動攻略のための4つのポイント
1.相手の感情に巻き込まれない
まずはこれ。
試し行動に対して怒ったり離れたりすると、「ほら見たことか、どうせこの大人もダメだ」と思われる。
なので、彼女が「死ね」と言ったときは、「私はあなたのことが好きだから、死ねと言われるのは悲しい」「私はあなたに会うためにここに来た」と冷静に返すようにした。
冷静さこそ最大の武器だ。
2.一貫性を保つ
子どもたちは、大人の言動の一貫性に敏感だ。「来週も来るよ」と言ったら、何があっても行く。バイトのシフトも断固ブロック。
「来週は算数をしようね」と言ったら、たとえ紙をビリビリにされることが分かっていても、問題用紙を作っていく。破られたらまたその場で作り直す。
一貫性を保つことで、少しずつ信頼の土台ができる。
3.必殺ポジティブ返し
「嫌い」「うざい」と言われても、「でも、私はあなたが大好き!めっちゃ好き!!」と満面の笑顔で返す。
正直、内心はズタボロだったが、何度もポジティブな言葉を返すうちに、彼女も「はぁ?きも。」と言いながらもニヤっとした笑顔を見せてくれるようになった。
4.周りを頼りまくって共感してもらう
一人で抱え込むと絶対に潰れる。
私は施設の職員に相談して、「どう接したらいいのか」を具体的に聞いたり、大学の教授や先輩たちにアドバイスを求めたりした。プロの意見は心強い。
そして「それはしんどいよね」「がんばってるね」と共感してもらうことで心が少し軽くなる。
軽くなったら「もう少しだけ続けてみるか」とエネルギーが生まれるスペースもできる。
これらを日々組み合わせて、試行錯誤しながら彼女と接し続けた。
ツンデレ彼女の転機の瞬間
冬が過ぎてまた桜の時期が来た。
相変わらず顔を見ると挨拶のように「死ね」とそっけない彼女だったが、ある日、他の子どもたちと私が笑いながらしゃべっていると彼女が近くを通って
「そいつは私の担当だからな!!」
と吐き捨てて去っていった。
あの時の目頭の熱さは忘れられない。
以上が私が小6の女の子から受けた超スパルタ式 信頼関係構築実践レッスンでした。
今日もどこかで「試し行動」に苦労している人がいるのかなぁと思いながら。大変ですよね。毎日お疲れさまです。
今となってはサラリと受け流して対応できるけど、如何せん経験値ゼロの18歳ひよっこ時代。わけも分からず孤軍奮闘してました。
でもこれがきっかけで相手との関係構築方法に興味を持つようになった気がします。
思っていた2倍ぐらいの文章量なっちゃったけど、これが1人目の出会い。
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最後まで読んでくださってありがとうございます。スキやフォロー、そしてコメントであなたの想いや考えを聞かせてくださったらとってもうれしいです!
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