あなたの幸せ暴力です
嫌がらせのように平等な太陽が照り付ける中
今日も仕事が見つからず公園のベンチで空を見上げていると
いかにも典型的な、若くて幸せそうで健康的な親子3人がやって来た
よせばいいのに気になり、笑い声をあげる家族をじっと見ていた
そのままこちらに気づく事もなくゆっくりと向かってきて、背の高い父親の方が横顔で声も出さずに語り掛けてきた
良い年をして何故無職なのですか?
なぜ努力をしてこなかったのですか
自分の市場価値が低い事を恥ずかしいと思わないのですか
同年代に置いて行かれて悔しくはないですか
友人はいますか
生活が苦しいのに必死でないのはなぜですか
投資や資産運用をする知能が無いのはなぜですか
今までの人生で他人に勝った事はありますか
幸せですか
誠実で勤勉そうなお父さんですね。立派に一家を支えている
俺の苦しみを全く理解していないクセに余計なお世話だ
お前が努力して幸せであったとして他人を苦しめる必要は無いはずだ
ああきっと正しいんだろう、失敗しなかったんだろう、時代の波をつかんでいるんだろう
心臓が心臓が痛い
たまらず隣の美人というか、きらびやかというか、輝かしい笑顔の母親の方へ顔をそむける
今度は真正面から、そして決してこちらと目を合わせないで伝えてくる
なぜ貴方は女性と縁がないのですか?
若い時にデートをした事は
婚活を頑張らなかったのはなぜ
その年で結婚をしていないのはどうして
子どもは欲しくないの
両親に申し訳ないと思った事はありますか
実家から出たことがないのを恥だと思った事は
気持ちが悪い
髪がサラサラしていて、服も落ち着いて安心感のある理想のお母さんですね
アンタが美しいのは認める。きっと優しいんだろう、きっと愛し合っているだろう。
だからって孤独な人間を苦しめないでくれ、成功した人間に選ばれないでくれ、理想の人生を見せつけないでくれ
頭が、頭が痛い
ふと今まで、そこに生きた物がいるという事を認識していなかった
であろう身長が母親の半分ぐらいしかない5歳児ほどと思わしき子が
つかんでいたボールを取りこぼしてこちらへ転がしてきた
無視するのも社会の害だと見なされそうなので、足元に来た球を拾って
立ち上がり返すそぶりをする
50メートルほど先から、この世の苦労を何もしらなそうな足取りで走って
5歳児が駆けてきた
近くまで来ると、今度は真っすぐに明確にこちらの顔面を見上げて、悪意の無い無邪気な表情で問いかけてきた
どうして人生に希望をもっていないの?
今まで楽しかった事はあった?
誰かに期待された事はあった?
どうしてその年で尊敬される地位にいないの?
10年早く結婚していたら僕の倍の子供がいたのにね
妹もいるけど二人目の予定はある?
病気みたいだけど若かった時に戻りたい?
僕はあと100年は生きられるけどオジちゃんはあと何年?
遺伝子を残せないまま孤独死しちゃうね
素晴らしいご両親で良かったね。健康に育ってなによりだ
いい加減にしてくれ
何も良い事が無かった俺の人生に比べてあまりにも未来がありすぎる
腹が、腹が痛い
嫉妬と反感と逆恨みを押し殺しながら
歯を食いしばって笑顔をつくる
そして心の中で、決して聞こえない訴えを叫ぶ
普通の人生やめましょう
貴方の幸せ暴力です
アナタの幸せ犯罪です