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ゆっくり夢日記 「櫛」「秘密の燐寸」2013年 #1

朗読動画

記録

2013.02.05
櫛を噛み砕く。何百本も噛み砕く。歯が多いものは食感がいい。

詩「櫛」

2013.02.05
櫛を噛み砕く。ひとつ、ふたつ、口いっぱいに頬張る。
みっつ、よっつ、歯が多いものは食感がいい。何百本も櫛噛み砕く。
いくら食べても食べたりない。

記録

2013.06.13
私達は一冊の本を探している。図書館の最も古い本の裏には燐寸がある。燐寸をくすねると少年が塔の上に行こうと誘われる。(塔の上は嫌だ。なぜだか解らないけど…)少年は「先生に怒られるからね。」「先生の罰は厳しいから。」と気にしている。少年は今日は一日一緒にサボろうと誘ってくる。「一緒にいよう?」と言われて断りきれず誘いに乗る。しぶしぶ塔へ向かう。塔には薔薇葬のスケッチと狼に犯される少女のスケッチを見ながら一心不乱に歯を作る老婆がいる。老婆を無視して私達は煙草を吸う。

詩「秘密の燐寸」

2013.06.13
「早く早く!」と彼は言う。私たちは授業を抜け出して渡り廊下を走っている。校庭には影一つなく砂がただひたすら直射日光にあぶられていた。ハーフパンツから覗くすらりとした白い足が軽やかに正午の静寂を打ち破る。一陣の風が彼の髪を撫で上げ漆黒の髪が日差しに煌めいた。彼と私は一冊の本を探している。彼は振り返りながら「図書館の最も古い本の裏には燐寸があるんだ。」と言った。荒い息と共に薔薇色の舌がちらりと見え、心拍数が上がった。
図書館にも私たち以外の人間はいなかった。古い本の匂いが充満している。二人きりだという事が私の胸を騒然とさせ息の根が苦しくなった。
彼は迷いなく一冊の本を手に取り、背表紙を千切ると一本の燐寸を取り出し「ほらね。」と言い、睨むように目を細めながら口尻をほころばせた。
蠱惑的な表情だった。彼は自分が顔どんな風に動かせばどんな表情になるかを知り尽くしているのだ。私ににじり寄り、顔をぐっと近付け
「さて、じゃあ、塔に行こうか。」
と、彼は声を落とし囁いた。
(塔の上は嫌だ。なぜだか解らないけど…)
絶対に悪いことになると言う予感をしていた。彼の目が獣が獲物を狩る寸前の獰猛さを湛えていた。私は何故か彼の肉の味を想像していた。狩られる側と解りながらも、美味そうな肉だと思っていた。私は唾を飲み込みゆっくり頷いた。
歩きながら彼は嬉しそうに「先生に怒られるからね。」「先生の罰は厳しいから。」と言っていた。
私は淡いめまいの中にいるようだった。来るべきじゃなかったと何度も思ったし何度も逃げ出そうと思ったが、彼の楽しそうな声を聞いているとそうは出来なかった。

気づくと私たちは細く高く天に伸びる塔の根元にいた。
彼は今日は一日一緒にサボろうと誘ってくる。その顔が先ほどの蠱惑的な少年の顔ではなく年相応の事態にやや怯えたような顔をしていて面食らった。
もう一度「一緒にいよう?」と言った声は微かに震えていた。
長い長い階段を上る。
石造りの螺旋階段は冷え切っていた。永遠と思えるような時間、
私たちは一言も言葉を発さずに頂上を目指した。
もう楽しそうな彼はどこもおらず、
罪人のように首を垂れ、一歩一歩階段を上っていた。
屋上に着くと、空が少し灰色がかっていた。
中央にヘリオガバルスの薔薇と狼に犯される少女のスケッチを見ながら
一心不乱に歯を作る老婆がいる。老婆は私たちに目もくれなかった。

老婆を無視して足を投げ出し縁に座る。
背後から、カリッ…カリッ…という歯を削る音がする。
彼は少し落ち着きがない。私は対照的に今までにないくらい落ち着いていた。
私が煙草を咥えると彼がさっきの燐寸を擦る。
肺一杯に煙を吸い込んで吐き出す、
彼に一本差し出すと消えかけの火を吸い込み、空に煙を吐き出した。

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