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アパレルとCG ~「VUCA」の時代とは?~

現代はVUCAの時代と言われます。
「Volatility(変動性)」、「Uncertainty(不確実性)」、「Complexity(複雑性)」、「Ambiguity(曖昧性)」
という単語の頭文字をとってVUCA。
一言でいうと「先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態」、「これまでの常識を覆すような社会変化が次々と起こる時代」ということです。

実際、ここ数年の出来事を振り返っても、その変化の大きさには驚くばかりです。
ファッション・アパレル業界を取り巻く環境でも、メディアでの拡散によって消費者の前に浮き彫りとなった、非エシカルな生産背景とオーバーサプライ、環境負荷、さらにコロナ禍によるマーケットの縮小、生産・流通の停滞、そうした複数の要因から起こった購買チャネルの変化や、消費者の価値観の変化など。
はたしてどれだけの人が、この数年間の変化を予測していたでしょうか。
そしてその変化の速度は、加速しているように感じます。

アパレル業界を振り返ってみると、ここ数年で変化に対応している企業、ブランドと、いまだに過去の成功体験から抜け出せないでいるところとの差が顕著に出ているように思います。
このような変化の波にいち早く対応したのは、社会的に環境意識の高まりが早かったヨーロッパでした。とあるブランドでは、2020年の段階でサプライヤーに対して素材のデジタル化、3Dモデリングの使用を宣言し、2022年の第2四半期には素材の99%をデジタル化する、といった目標を掲げています。国内でも、大手テキスタイル商社は昨年から自社取扱テキスタイルのデジタルデータ化を進め、3Dモデリングソフトで使用可能なテキスタイルデータをダウンロードできる仕組みを構築しています。

そしてユーザー側に目を移すと、今後の世界を引き継いでいくZ世代以降の若者たちの価値観の変化、意識の変化は、過去の成功体験から意識変革をしきれないでいるオールドタイプにとって理解しがたい変化なのではないかと思います。彼らにとってファッションアイテムはフィジカルであるかバーチャルであるかは関係なく、その購入や消費に「意味」という価値があるならば、デジタルアイテム、バーチャルファッションでも「買わない」という選択肢は存在しない、むしろ「当然買うべきもの」であるそうです。
それくらい、バーチャルとフィジカル、オンラインとオフラインは融合し、そこにはもはや境界はありません。

始まりは環境意識や新型コロナウイルスなどの行動制限などからであったファッション・アパレルでの3DCGの活用も、意識変革が起こってしまえばそれは当然のことであり、そうでない未来は想像できなくなることでしょう。コンピュータのパーソナル化、インターネット、SNS、スマートフォンの普及など、これまでもテクノロジーの進化は人の生活様式と意識を変革してきました。きっと数年後には当たり前のように誰もがいくつもの「マイアバター」を持ち、「メタバース」のさまざまなレイヤーに社会活動の拠点を移し、多様性に富んだ「バーチャルファッション」に身を包み、透明性の高い「NFT」で商取引を行っているかもしれません。もしそうなったら、リアルな世界は余暇を過ごすためのクリーンな「アナザーバース」として新しい価値を持つかもしれません。

新しい価値観、新しい社会の中で、次のファッションはどのような意味を持つのでしょう。その中で、アパレル産業はどのような変化をしていくのでしょう。少し考えただけでもワクワクします。まだ見たことのない世界を想像し、新しい価値を創造していくのは、いつでも人間です。そしてファッションは、その人間を包み、時に守り、時に主張する外装として、私たちの心を躍らせてきました。きっと時代がどのように変化したとしても、その本質だけは変わらないのだと思います。

文責:木内 潤一(東京ファッションテクノロジーラボ)

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