反競争。

資本主義の競争社会に疲れている。社会主義は崖のその先にしかないユートピア(非現実的なユートピア)だが、だからといって資本主義がユートピアなわけでもない。

「プロテスタンティズムと資本主義の精神」はWikipediaから引用すると「プロテスタンティズムが生み出した勤勉の精神や合理主義は、近代的・合理的な資本主義の「精神」に適合し、近代資本主義を誕生させた」とある。つまり資本主義社会を生きていくには「勤勉」で「合理的」でなければならない。一方ですべての人間が勤勉で合理的なわけではない。パチンコや宝くじにお金を使う人、スマホに何時間も拘束される人たちを見れば自明なことだ。

ここからは勤勉で合理的であり続けなければならない資本主義の競争に疲れて自分を大切にしようとしているひとが世界中で増えていく中で起きている現象を見ていく。

①ゴブリンモード(goblin mode)


イギリスの名門辞書「オックスフォード英語辞典」が2022年に英語圏で流行った流行語大賞を発表した。

3位は「#IStandWith」
2位は「メタバース」
そして大賞は「ゴブリンモード」

ゴブリンモード(goblin mode)とは、「社会規範や世間体を無視し、気ままで、怠惰で、ずぼらで、浅ましい行為を悪びれることなく行う」ことを意味するスラング。「in goblin mode」や「to go goblin mode」といった表現で使われる。過剰な競争から距離をとるライフスタイルを指す。

背景
①コロナ規制緩和で今までの生活に戻ることへの反発
②SNSにおける「映え」などの美的競争に対する反発、非現実的な「完璧さ」などに抵抗する人々のムード

TikTokでは、#GoblinMode は、「一人でマリファナを吸って、あとで怖くなる」「薬を飲むのを怠ける」「不要なガラクタを買いあさる」といった動画にひもづけられている。ノーメイクで、上下が合っていないスウェット姿の女性の動画にひもづいていることもある。

②中国の寝そべり族 (中国語で「躺平(とうへい、タンピン)」)


中国において若者の一部が競争社会を忌避し、住宅購入などの高額消費、結婚・出産を諦めるライフスタイル。2021年4月にSNSで発表された「寝そべりは正義だ」という文章が転載されて呼称が広まった。

具体的には、"不買房、不買車、不談恋愛、不結婚、不生娃、低水平消費"(家を買わない、車を買わない、恋愛しない、結婚しない、子供を作らない、消費は低水準)、「最低限の生活を維持することで、資本家の金儲けマシーンとなって資本家に搾取される奴隷となることを拒否する」といったポリシーを持つ。(Wikipedia参照)

寝そべり族増加の背景には中国の若年層失業率が関係する。中国の若年層(16~24歳)失業率は2022年7月に19.9%になった。これは五人に一人が失業しているという状態。

背景には
①コロナによる急速な景気後退

②若年労働力の供給過多(2022年大卒者数は1076万人で初めて1000万人を突破)

③大卒の四分の一がIT企業を志望している一方で、IT業界は習近平の「共同富裕」に伴う規制緩和で人員削減

(共同富裕=格差是正。「高すぎる所得を合理的に調節し、高所得層と企業が社会にさらに多くを還元することを奨励する」と述べ、所得の高い人や大手企業に寄付などを促した。)

→あまりにも強大になったITの民間企業は、共産党や国有企業にとって脅威

→IT企業叩き

④若年層の就業環境が不安定で、解雇されやすいこと。中国では、解雇は勤続年数に応じた補償金の支払いが義務化されているため、そのしわ寄せが若年層に集中。

中国の若者は、激しい受験戦争を勝ち抜いた先に待ち受ける就職難に絶望して寝そべり始めている。

③FIRE (Financial Independence Retire Early)


経済的自立と早期退職を目標とするライフスタイル、またはそれを啓蒙するムーブメントを指す造語。米国から始まって欧州や日本などにも広がった。この生活モデルは、ブログ、ポッドキャスト、およびオンラインフォーラムなどで共有されている情報を通じて、2010年代から大きな注目を集め、特にミレニアル世代などに人気が高まった。(Wikipedia参照)

背景
①自由に生きたい(リベラル・個人の自由)
自由に生きるためのインフラ(経済的独立)を整え、仕事から早期に解放されて自分の時間を過ごしたい
②個人のファイナンス・投資への関心の高まり
③経済の衰退(日本)、コロナ
増え続ける社会保障費とそれを支える若者の負担増。
会社にも国にも頼れない。

④Z世代

ジェネレーション・レフト
経済格差や気候変動、ジェンダー問題、ポリコレ、ブラック・ライヴズ・マター、ヴィーガンなど左派的活動を行う者が目立つ。旧ソ連型の体制を知らないミレニアムやZの若い世代は社会主義に負のイメージがなく、資本主義体制に失望するほど左派に傾倒。(Wikipedia参照)

⑤世界に一つだけの花(SMAP) 2002年

「ナンバーワンにならなくてもいい、僕らはそれぞれオンリーワン」
失われた10年(30年)真っただ中の日本に刺さった。
令和生まれ以外の日本人でこの歌を知らない人はいないというくらい流行った。

⑥かわいくてごめん(honeyworks) 2022年

「あなたはあなたの事だけどうぞ 私に干渉しないでください」
「自分の見方は自分でありたい 一番大切にしてあげたい 理不尽な我慢はさせたくない それが私」
→人の権利や自由を尊重する立場「個人主義」
 あなたも自由に生きていいから私も自由に生きる「リベラル」


最近は本当にこういうリベラルで個人主義的なことを言うと人が寄ってくる。実際にこの歌も4000万再生間近。Twitterでたくさんいいねついてるツイートも結構この傾向がある。バズりたいならリベラルで個人主義的な耳触りのいい発言をするべき。リベラルなZ世代と、競争に疲れてFIREしようとしているミレニアル世代に刺さる。

一方で差別的で個人の権利を侵害するような発言や行動は絶対に許されない。このような社会で苦しみ始めているのが白人だ。アメリカでは白人であるだけでこれまでの人種差別の原罪のようなものを背負わされ、あらゆる発言に差別チェックが入る。

アメリカの歌手、女優、ファッションデザイナーであるグウェン・ステファニ(53歳)が日本文化が好きすぎて「My God, I'm Japanese and didn't know it(自分がこんなにも日本人だとは知らなかった)」と発言し、大きな議論となった。日本人にはあまり理解できないような話だが、この発言はアメリカでは「文化の盗用」とみなされる。ある種、厳しすぎる差別チェックの果ての白人いじめだが。


最後に。とにかくみんな、競争はやめて自分を一番大切にして自由に生きたいのだと思う。しかし旧ソ連の大粛清や中国の文化大革命を振り返っても社会主義も社会主義を目指す革命もより過激なディストピアにしかつながらない。黙って自分の中の僅かな勤勉さを引っ張り出して資本主義に適応していくしかない。



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