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「北欧の神秘」展は白夜の国の気配@SOMPO美術館

  ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画展という、ちょっと変わった展覧会。ムンク以外は名前が浮かばず、雪、白夜、神話、フィヨルド、トナカイ・・・といったイメージだけでしたが、元々神話の類いは好きなので、新たな出会いを期待して観に行ってみました。

本邦初、北欧の絵画にフォーカスした本格的な展覧会
ヨーロッパの北部をおおまかに表す北欧という区分は、一般的にノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、アイスランドの5 か国を含みます。このうち最初に挙げた3 か国はヨーロッパ大陸と地続きにありながらも、北方の気候風土のもとで独特の文化を育みました。
本展覧会は、この3 か国に焦点を定め、ノルウェー国立美術館、スウェーデン国立美術館、フィンランド国立アテネウム美術館という3つの国立美術館のご協力を得て、各館の貴重なコレクションから選び抜かれた約70点の作品を展覧するものです。
19 世紀から20世紀初頭の国民的な画家たち、ノルウェーの画家エドヴァルド・ムンクやフィンランドの画家アクセリ・ガッレン=カッレラらによる絵画などを通して、本展で北欧の知られざる魅力に触れていただければ幸いです。

展覧会サイトより引用

  面白かったです。幻想的なものが多く、特に物語の場面を描いたものは、センダックの絵本のような怖いもの見たさのような、不気味な可愛さがある。風景画もスカンディナビア半島の豊かで厳しい自然が描かれていて、ちょっと他の欧州の風景画とは雰囲気が違う感じ。絶対見逃せない、とまでは言いませんが、気楽に楽しみたい時に良いかな。室内楽コンサート的な展覧会です。

入口のバナーはロベルト・ヴィルヘルム・エークマンの《イルマタル》。フィンランドの民族叙事詩「カレワラ」の天地創造の一場面。なんとフィンランドでは大気の女神イルマタルが上空から海へと降りると、その膝に金目の鴨が巣を作り、卵を産み落とし、その卵から大地、空、太陽、月、星が誕生したそうな。なぜ鴨?気になる。

  会期早めの平日だったというのもあるかもしれませんが、マイナーなテーマなのに詳しそうな鑑賞者が意外と多かった。丹念に1枚ずつ見て、メモして、細かいところを小声で話し合ったりしている・・・美術系の人達だったのかな。珍しい美術館から持ってきているから、興味ある人には貴重な機会かも?見どころ教えてもらいたいなーと思いながら見てました。

  撮影は一部のみOK。今回気に入った北欧の伝説を描いたものがいくつか撮影できて嬉しい。「トロル」や「スレイプニル」といった今でもファンタジーの舞台に登場する生き物が跋扈しています。

「名誉を得し者オースムン」
アイルランドの王の命により、トロルの巣に囚われた姫を助け出すため、オースムンは兄弟二人とともに船で向かう。ひとりで山の城へ乗り込み、トロルを倒して姫を救出したオースムンだが、船に残った兄弟の姿はすでになかった。取り残されたオースムンは、城内で馬を見つけると、城内の財宝を手にして、姫と共に馬に乗って、海を越え帰還した。

展覧会場の鑑賞ガイドより引用
ガーラル・ムンテの名誉を得し者オースムンの連作。左上からストーリーが流れている。
ガーラル・ムンテ《山の門の前に立つオースムン》:トロルはやられたのか、居眠りしているのか
ガーラル・ムンテ《五の間》:トロルは食事中に襲われたのか・・・?
ガーラル・ムンテ《帰還するオースムンと姫》:左上の赤い山が不気味で気になる・・・そして剣も服もお姫様の手も血まみれという、ハッピーエンドだったのか?気になる最後の1枚。

  どうしていつもお兄さんが小悪党なんでしょうね・・・末っ子が活躍するのも神話・民話で万国共通。ちょっとカナシイ。

「リティ・シャシュティ(少女シャシュティ)」
『リティ・シャシュティ』は中世から伝わるノルウェーのバラッド。シャシュティは山に住む妖怪の王に誘惑され、彼との間に子供を授かる。王は人里離れた山で暮らそうと、その子を連れて行ってしまう。シャシュティもさらい、人間界での生活を忘れさせるために、彼女に魔法の飲み物を与える。
※バラッド:音楽にのせて歌い継がれた物語詩

展覧会場の作品解説より引用
ガーラル・ムンテ《山の中の神隠し》:古事記でもギリシャ神話でも、黄泉の国や他の国に行って飲み食いすると帰れなくなるという・・・こういう普遍性が面白い。

  これ以外にも、神話の一場面を描いた作品がいくつもありました。

ガーラル・ムンテ《スレイプニルにまたがるオーディンのタピストリー》:スレイプニルは北欧神話に登場する神獣で、主神オーディンが騎乗する8本脚の軍馬。
スレイプニルの8本足はこんな表現。よく見ると、前足がちゃんと4本あります。
ヨセフ・アラネン《レンミンカイネンと牛飼い》:フィンランドの民族叙事詩「カレワラ」の一場面。あらすじ解説あったのですが、読んでもよくわからず。叙事詩みたいなものって、あらすじだけ聞いても辻褄が合わないというか、細かいところ気にしたら負けというか。

  そしてもう一人、テオドール・キッテルセンの絵は、北欧の神秘的な雰囲気が出ていて、絵本を探そうかな、と思うくらいに良かった。

「ソリア・モリア城」
黄金に輝くソリア・モリア城を探す度に出たアスケラッドは、野山を越え、森に深く分け入り、オオカミなどの動物たちに次々と出会う。門番のドラゴンを警戒し、黄金の鳥に目を奪われながらも、ついに城へたどり着く。城内でトロルを倒し、姫を救出したアスケラッドは、国の領土の半分と、ソリア・モリア城の宝を全て与えられ、姫との盛大な婚礼をとりおこなった。

展覧会場の鑑賞ガイドより引用
テオドール・キッテルセン《アスケラッドとオオカミ》:暗い森の中で青白く光る目のオオカミ!実物はもっと夜の森の怖さがぐっと来ます。
テオドール・キッテルセン《アスケラッドと黄金の鳥》
テオドール・キッテルセン《トロルのシラミ取りをする姫》:シラミ取り、というのも出てくる。人にあらざる者を表現する表現なんでしょうかね。

  自然の中に神や神秘を見るところは、日本も似ていますが、もっと神秘の力が重いというか、厳しさが違うというか。そして、全般的に太陽の存在感が薄いのは、緯度の高い国で育まれた文化だからなのかな、と興味深かったです。まだ北欧は行ったことがないので、いつか行ってみて、この自然や神秘的なものとの距離感の違いを実感してみたい!

<余談>ガーラル・ムンテの絵のトロルたちがとぼけた良い味を出しているためか、展覧会の場内注意書きにひっそりと使われていてちょっとお気に入り。センス良いです。

このトロルも階段の指示板に使われていた・・・はず
思わず撮ってしまった・・・このデザインのハガキを作って欲しかった・・・

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