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[音楽ネタ]フラウト・トラヴェルソという名称について

今回のテーマはタイトルの通りです。

現代では、バロック時代の「フルート」を指すときに、主に「フラウト・トラヴェルソ」と呼びます。
バロック・フルートと呼ばれることもありますが、私の印象では「フラウト・トラヴェルソ」と呼ぶ方の方が多い気がします。
なぜか?私の個人的な見解ですが、混乱を避けるためではないかと思います。
この話をするためにまず「フラウト・トラヴェルソ」という名前の意味を探っていきましょう!

まず「フラウト・トラヴェルソ」のスペルについて
正しいスペルは
“flauto traverso“
です。これはイタリア語。
直訳すると「横笛」。

“flauto“ = 笛、フルート 
“traverso" = 横の

だから横笛!ということ!

ではなぜ、ただの「フルート」または ”flauto“ ではないのか?
なぜ「横」”traverso“ がつくのでしょうか?

これは聞いた話ですが、当時、flauto といえばリコーダーだったのだそう!
気になったので当時の辞典などを調べてみました。

例えば Sébastien de Brossard (1655-1730)の Dictionnaire de Musique (1703)には Flauto の項目があり以下の様に書かれています。 

FLAUTO. veut dire, FLUTE-à-bec. Flauto picciolo. Dessus de Flûte, ou Flageollet.

最初に書かれている FLUTE-à-bec. これはリコーダーのことです。
“bec“ には「鳥のくちばし」という意味があります。
鳥のくちばしのフルート、これはリコーダーの吹く部分がくちばしのようだから、というように教わった記憶があります。
Brossard は Flauto は FLUTE-à-becを意味する、と説明していますね。
その後の単語について、picciolo はイタリア語で小さいという意味があるようです。小さいフルート、つまり小さいリコーダーという意味でしょうかね?
Dessus はフランス語で上、上部、高音部などの意味があります。高い音が出るリコーダー?
最後の Flageollet については、同じ辞典の英語版(1740)に FLAGEOLET の項目あり、小さいフルートの一種と書いてありました。つまりこれも小さいリコーダーということでしょうか?

また Freillon Poncein が書いた “LA VERITABLE MANIERE D’APPRENDRE A JOUER EN PERFECTION DU HAUT-BOI, DE LA FLUTE ET DU FLAGEOLET, …“ (1700) にはタイトルに flute と書いてありますが、内容を読むとこれは横笛ではなく縦笛を表しているようです。

これらの資料からも、「どうやら当時はフルートといえば縦笛だったらしい…」ということが読み取れますね。
まあ確かにリコーダーもフルートもどちらも笛という認識なら、縦笛、横笛と呼び分ける必要はありますよね。
ここまでくると、リコーダーについてもよく調べる必要がありそうですが、ひとまず今は横笛に話を戻したいと思います!

以降、この記事では flauto traverso つまり横笛のことを呼ぶときはトラヴェルソ、flauto または flute à bec つまり縦笛を指すときはリコーダーと表記したいと思います。

さて flauto traverso はイタリア語だと書きましたが、他の言語ではどの様に書くのでしょうか?

まずフランス語では
“flûte traversière”
“flûte d’allemagne“
などの呼び名があります。
“flûte d’allemagne“ は「ドイツのフルート」という意味のようですね。

例えば、どのような文献にこの名称が出てくるか。
J. Hotteterre le Romain (1673-1763) は《フルートの原理》 (1707)といういわゆる教則本のようなものを書いています。
正式なタイトルは
“PRINCIPES DE LA FLUTE TRAVERSIERE. OU FLUTE D’ALLEMAGNE. DE LA FLUTE A BEC, OU FLUTE DOUCE, ET DU HAUT-BOIS, Divisez en differentes Traitez“
です。
出てきましたね!FLUTE A BEC も!

またフリードリヒ大王の宮廷で活躍したフルート奏者の J. J. Quantz(1697-1773)が書いた 《フルート奏法試論》(1752)の原文には
 “Flöte traversiere” 
と書いてありました。
ドイツ語とフランス語が混ざっているように見えますが、この表記はどういった理由からくるのか、、もっと調べないとわからないです。すみません。

ちなみに現代の独和辞典で flöte と引くとまず「フルート」「横笛」とあり、カッコで18世紀半ばまでは縦笛のこと、と書いてある!詳しい…
“Querflöte“  の項目には、フルート、横笛
と書かれています。!、、
quer=横切って、横へ、横向きの

話が変わりますがリコーダーのドイツ語表記に “Block flöte“ があります。
Block には塊、丸太、などの意味があるようです。
発音を日本語で簡単に書くと「ブロック・フレーテ」
なんだか「バロック・フルート」と似ていませんか?

そして先ほどから書いているように、フルートというと当時は一般的にリコーダーのことを指していたので、現代でもややこしいことにならないよう、バロック時代の横笛を指すときはフラウト・トラヴェルソと呼ばれる機会が多いのではないかと考えました。

と、ここまで書きましたが、私自身まだまだ知らないことだらけで個人的な考えもあるので、多少矛盾しているところもあるかもしれません。何かご存知の方がいらっしゃったら教えていただけるとありがたいです。

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どうぞよろしくお願いいたします!

最後まで読んでいただきありがとうございました!

《参考文献》
●Brossard, Sébastien de, Dictionnaire de musique, 3rd ed.Amsterdam: P. Mortier, ca. 1708. 
●Brossard, Sébastien de, Dictionnaire de musique. Translated by James Grassineau. London: J. Wilcox, 1740.
●Freillon-Poncein, Jean-Pierre, La veritable maniere d'apprendre a jouer en perfection du haut-bois, de la flute et du flageolet, avec les principes de la musique pour la voix et pour toutes sortes d'instrumens, Paris: Jacques Collombat, 1700.
●Hotteterre le Romain, Jacques Martin, Principes de la flûte traversiére; ou flute d'Allemagne; de la flûte a bec, ou flute douce; et du haut-bois; divisez en differentes Traitez, Paris: Christophe Ballard, 1707.


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