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【FLSG】ニュースレター「Weekly Report 8/21

中国不動産開発大手、中国恒大集団の看板=2021年9月、中国・上海(AFP時事)

米長期金利上昇、中国恒大破産法申請
日本時間の18日朝方から中国恒大集団が米連邦破産法15条の適用申請をNY連邦破産裁判所に申請したと伝えられた。15条申請は米国籍以外の企業が行い、米国内資産が保護され、再建計画を練る。同社株は昨年3月21日から売買停止中。

前日は中国資産運用大手・中植企業集団の危機が報じられた。シャドーバンキング帝国を築いていると言われ、傘下に資産運用会社5社、理財商品会社4社。先に危機が報じられた中融国際信託も傘下企業で7000億元(約957億ドル)以上の資産運用と報じられた。中植集団は1兆元(1367億ドル)以上とされ、全ての投資商品で支払いを停止している模様。監査会社にKPMGを起用した。

シティグループは「信託商品のデフォルトは予想されるが、”リーマン・モーメント”(リーマンショック同様の衝撃)に発展する可能性は低い」とコメントした。ある程度、米国管理の下で事態が進むと見られ、米国発の情勢報道に関心が集まろう。

米長期金利上昇が続いている。17日の10年債利回りは一時4.328%、昨年10月に付けた4.338%に迫っている。30年債も押し上げられ、一時4.426%。2年債は前日の4.98%から4.93%台に低下しており、一般的な「利上げ懸念」とは異なる。ようやく、中国が人民元を支えるために米国債売却懸念が伝えられるようになったが、世界の国債利回りが15年ぶり高水準に上昇、日本が17日に行った20年物国債入札が極めて低調だったことが拍車を掛けたと報じられた。

蛇足だが、17日オランダAEX指数が2.54%急落した。決済サービス会社アディエン株が決算を嫌気して39.0%下落したと伝えられている。金融株が不安定になることは要注意になろう。

資金はMMF(マネー・マーケット・ファンド)に逃げ込んでいる様だ。米投資信託協会の発表で16日終了週に約400億ドル流入し、総資産が5兆5700億ドルの過去最高に達した。潜在的に短期の流動性は高いと見られる。

敢えて、好材料を探すと、半導体製造装置大手アプライド・マテリアルズが第3四半期(5-7月)予想上回る決算、第4四半期見通しも市場予想を上回った。小売大手ウォールマートが通期売上高見通しを上方修正、宇宙企業スペースXが第1四半期に黒字転換、脱中国進めるアップルが次世代スマホiPhone15の生産をインドで始めた、など。中国情勢の落ち着きを見極めつつ再評価に向かう可能性がある。

中国経済悪化懸念、リスク回避
15日、前述の中国信託大手・中融国際信託が先月から数十の投資商品の支払いを履行していないことが伝わった。不動産苦境がシャドーバンキング(影の銀行、融資平台)に波及していることが明らかとなった。先週来、碧桂園(中国恒大、大連・万達集団に次ぐ3位。債務額は30兆円規模とされる)が利払い不能となり、14日にはオンショア私募債の売買停止、償還(9月2日)延期要請を行ったことで、事情がさらに悪化していることが伝わった。
  
14日、JPモルガンは運用資産2兆8000億元(約3857億ドル)相当と見られる中国REITのリスク上昇を警告した。中国の不動産価格は「公定価格」なので、価格調整は効かず、多少の利下げなどでは”悪循環”を脱せないと見られている。地方財政破綻に拍車が掛かる恐れがある。

15日発表の中国の7月経済統計は総じて予想を下回り、景気減速を一段と示す内容となった。象徴的なのは、若者失業率の公表を止めたことで、不信感を増す行為を繰り返している。株式市場で売りに回っているのはヘッジファンドの様だが(米GS)、中国当局は投資基金に「売り越さないよう」要求、口先介入との攻防になっていると見られる。

焦点は債券市場の動向。16日に中国人民銀行が発表した人民元建て債券の外国人保有額は7月末時点で3兆2400億元(約4440億ドル)、前月比400億元減少した。グローバル・インデックスに採用されているため、世界の機関投資家が保有しているが、何処かで売り圧力が一気に高まる恐れがある。米中の10年債利回り格差は07年2月以降で最大の164Bp(ベーシスポイント、1.64%のこと)に拡大、16日、人民銀行は予想外に1年物中期貸出金利を引き下げた(過去3ヵ月で2度目)が、中長期金利を含めさらなる利下げ観測が広がっている。

中国は既に米国債を売っている。15日、米財務省が発表した6月対米証券投資統計によると中国の保有額は8350億ドル、前月比120億ドル減。日本が1兆1060億ドルで、かつては日本を上回る保有額だったので、人民元防衛に既に使い始めており、米中長期債金利上昇の一因かも知れない。

イエレン財務長官は、米経済は良好としながらも中国経済減速に警戒感を示し、アジア近隣諸国への影響が最も大きいだろうと述べた。日本の4-6月GDP6%成長でも、「外需頼みでリクを孕む」と解説され、脱中国効果は関心を集めていない。中国の壊れ方ペース次第だが、リスク回避との攻防と思われる。

中国経済のデフレ化を日経平均は注視
週明け14日の日経平均は小幅高で始まったが、引けにかけズルズルと下げ413円安となった。事態がよくわからないまま下げたので翌日の日経新聞を見ると、証券欄のコラムで「海外勢変調、円安でも株安、TOPIX型先物に売り、日本優位吟味始まる」とあった。本当にそうなのか、ちょっと疑問に感じた。なぜなら、この日のNT倍率(日経平均÷TOPIX)は前日の14.09から14.05に下がっているからだ。つまり日経平均のほうがTOPIXより売られていると解釈できる。

それでは何を日経平均は警戒したのか。いろいろチェックしてみると、日経平均は413円安、1.27%の下落だが、香港ハンセン指数は1.58%下げていたのだ。当レポート先週号で、中国有数の不動産開発業者である碧桂園(カントリー・ガーデン・ホールディングス)は7日の利払いを履行できず、デフォルト(債務不履行)回避のための猶予期間を延長したと報じている。そして14日の香港株式市場では、投資判断の引き下げを受け、同社の株価が一時19.4%急落し、他の不動産開発銘柄も値下がりした。碧桂園は13日の香港証券取引所への届け出で、同社と関連会社が発行したオンショア社債11本の取引を14日から停止すると公表した。

巨額の債務を抱え、実質的デフォルトに陥った同業の中国恒大集団の4倍というプロジェクト数を考えると、さらに深刻な影響が懸念される。
同じく、これも当レポート先週号で報じているが、7月の中国CPI(消費者物価指数)は前年同月比-0.3%、PPI(生産者物価指数)は同-4.4%。両方ともマイナスは20年11月以来。「中国は確実にデフレ状態にある」(モルガン・スタンレー)ようだ。

この状態にはいろんな要素が絡み合っているが、大きく2つの原因がある。1つは輸出不振、もう1つは資産デフレだ。とくに資産デフレの影響は大きく、不動産価格の下落が国内消費を冷え込ませている。不動産の値上がりが続いているうちは買い替えで利益を出し、高級車の購入や海外旅行へ行く「原資」を生み出すことができた。しかし、今はその流れが逆回転している。

住宅販売を促すため初回購入者のローン金利や頭金比率を引き下げるなどの政策を打とうとする動きもあるようだが、この対策では含み損を抱える人たちは救えない。バブル崩壊と資産デフレに財政資金をばらまいたものの、効果を生まなかった日本の「失われた30年」の始まりを見るようだ。日経平均の下げは中国のデフレ化を見ていると考えている。

中国経済の低迷とデフレが長期化すれば、対中輸出の不振を起点に中国経済の下降トレンドが日本に波及してくることも考えておかなければならない。22年の日本の輸出先の第1位は19.3%を占める中国で、2位の米国の18.5%を引き離している。

中国市場に占める売上高の比率が20%を超える日本の大企業は、電機、化学、精密機器などに多い。こうした企業が打撃を受けることが明白になると、24年の春闘における大幅な賃上げには尻込みするところが多くなる可能性がある。

中国への輸出比率が高い東南アジアやドイツなど一部の欧州諸国にも影響は出始めており、こうした国や地域への輸出が多い日本企業も時間差で売上高減少の圧力を受けるだろう。先週は週を通して中国のデフレ化を世界の株式市場を席捲したようだ。
不動産開発業者の債務不履行や大手運用会社の危機などが市場の悪材料になっていくのを見ると、日本の「失われた30年」を思い出し、中国はまさに、日本の「失われた30年」の始まりに位置しているようだ。

4-6月のGDP 実質の伸び率 年率換算で+6.0% 3期連続プラスに(NHK NEWS WEB)

4~6月の名目GDPは過去最高
15日、日本の4~6月のGDPが発表された。年率換算で実質GDPは+6.0%(1~3月期は+3.7%)、名目GDPは+12.0%(同9.5%)だった。この日の株価にはほとんど影響がなかったようだ。その理由は輸出復調が押し上げたのであって、個人消費がマイナスだったせいだろう。また、個人消費を支える雇用者報酬が名目で前年同期比2.6%増えたが、実質で0.9%と7四半期連続マイナスだったことも響いた。雇用者報酬には、現金給与や現物給与のほか、健康保険や厚生年金など雇用する側が負担する社会保険料なども含まれる。雇用者報酬は基本的には賃金と同じ意味である。

厚生労働省の「毎月勤労統計」では、現金給与総額の前年比が、23年4月に0.8%、5月に2.9%、6月に2.3%と高まっている。ただ、6月の伸び率を詳しくみると、夏季賞与の効果が大きく、春闘によって2%以上の賃上げが実現しているわけではなさそうだ。

おそらく、夏くらいから、大手企業の春闘に遅れて、中堅・中小企業の賃上げが進んでくる。そこで十分な賃上げが実現できているか現時点では不確実性があるが、賃金を物価とリンクさせる考え方は、間違ってはいない。

マンスリー8月号でも述べているが、長期的な株価にとって重要なファクターは名目GDPだ。今回の名目GDP 年率換算で+12.0%は、現行基準で統計を取り始めた94年以降、過去最高(イレギュラーで20年7から9月期の+22.9%がある)となり、デフレ、低成長時代とうって変わって「日本経済がインフレを伴いながら成長している」ことを物語っている。四半期年率換算の名目GDPは過去最高の590.7兆円(前期574.2兆円)。内閣府は24年度601.3兆円を予想している。600兆円規模が見えてきた。名目ベースの成長は賃金と企業収益を高め、税収増や資産価格の押し上げに寄与することは間違いない。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。

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