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【FLSG】ニュースレター「Weekly Report 11/11号
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米FOMC 2会合連続で0.25%金利引き下げ
米FOMC(連邦公開市場委員会)は11月6-7両日に開催した定例会合で、政策金利を0.25ポイント引き下げることを決定した。これで2会合連続で引き下げたことになる。
決定は全会一致。会合後に発表された声明文では「委員会は雇用とインフレの目標達成に対するリスクはほぼ均衡している」とし、「経済見通しは不確かで、委員会は2つの責務の両サイドに対するリスクに注意を払っている」と続けた。今回の声明では、インフレが持続的に2%に向かいつつあることに関して「自信を深めている」との文言が削除され、インフレは当局の目標に向けて「進展した」と記した。
また労働市場に関する文言もやや修正された。声明では「今年に入って以降、労働市場の状況はおおむね緩和してきた。失業率は上昇したが、依然として低い水準だ」と記した。
パウエルFRB議長は会合後の記者会見で、トランプ次期大統領に辞任を求められれば辞任するかとの質問に対し、議長は「ノー」と応じた。任期満了前の解任は「法律で認められていない」とも述べた。CNNはトランプ氏の顧問の情報として、トランプ氏は就任後、パウエル議長が2025年5月の任期満了まで同職にとどまることを認める公算が大きいと報じていた。トランプ氏は1期目の大統領在任中にパウエル氏をFRB議長に指名したものの、その後関係は悪化し、「失望した」とも述べていた。
パウエル議長はまた、トランプ氏が勝利した米大統領選について、「短期的には選挙戦の結果はFRBの政策決定に影響を及ぼさない」と述べた。トランプ氏の政策が財政赤字を拡大しインフレ圧力を高める可能性があるものの、パウエル議長は将来の政府がどのような政策を選択するかについて、「推測も憶測も、想定もしない」と述べた。
大統領選の翌日6日の米10年債利回りはトランプ氏優勢のニュースが伝わると前日の4.27%から4.43%に跳ね上がったが、7日のFOMCの結果を見て4.34%まで下がった。
この日のドル指数は0.67%安の104.40。前日は、米大統領選で勝利したトランプ氏が実施すると予想される政策を織り込み、105.44と、4カ月ぶりの高値を付けていた。
ただ7日は、いわゆる「トランプ・トレード」のポジションの解消が出たことがドルの重しとなった。大統領選に先立つ3週間に多くのドル買いが見られ、ドルのロングポジションが積み上がっていたようで、7日はこうした取引の一部が解消されたようだ。
インフレがなお高止まりし、雇用とインフレのリスクバランスがほぼ均衡しているのであれば、利下げを続ける意味があるのかという見方も出始めている。経済が好調と考えるなら、FRBが利下げを行うたびにインフレリスクは増大することになるからだ。
7日の2年債と10年債の利回り格差は13.5bpに縮小した。前日6日は一時、19.5bp(10年債利回りが2年債より高い)と9月下旬以来の大きさまで拡大していた。この債券市場の動きからも米経済はそれほど後退しているとみていないようだ。今回のFRBの利下げ決定を受け、FF(フェデラルファンド)金利先物市場は、12月に25bpの追加利下げが行われる確率を72%と織り込んだ。2025年にさらに67bpの利下げが実施されることも示唆している。
中国への60%関税
2018年に当時のトランプ大統領が中国との貿易戦争を始めると、中国は後手に回り、対応がふらついた。トランプ氏の就任直後からスタートすると思われる今回の関税引き上げに対し中国の習近平主席は当然準備を整えていると思われる。
トランプ氏は中国製品に最大60%の関税を課すと示唆。この水準の関税は米中貿易を壊滅させると容易に想像がつく。前回、21年にトランプ氏が大統領を退くと、バイデン政権は先端テクノロジーに関する一連の対中輸出規制を強化したが、今回はそれにトランプ氏の新たな関税が加わることになる。
中国は第1次トランプ政権以降、米国の政策に反撃できる戦略的措置を講じてきたはずだ。具体的には農産物への関税や主要な米企業を標的にする「エンティティーリスト」、重要な原材料の輸出規制などが含まれる。おそらく中国は再びトランプ氏と向き合う準備が以前と比べずっと整っているはずだ。
習氏はトランプ氏の大統領選勝利を祝福し、「健全で持続可能」な米中関係を呼びかけた。第1次政権での関税よりはるかに壊滅的な結果をもたらす恐れのある今回の関税合戦を回避したいと考えているとみられる。
中国はデフレ圧力や不動産不況に苦しむ国内経済を浮揚させるため、電気自動車(EV)やバッテリーなどの輸出に頼っている。すなわち中国は60%の関税に対し報復することはほとんどできないという見方が有力だ。そうなると、中国にできるのは、一段と大規模な刺激策を発表することしかないのかもしれない。早速、8日の全人代で地方の負債対策として10兆元(約210兆円)」を投じることを発表した。地方の隠れ債務を28年までに現在の14.3兆円から2.3兆円に圧縮する計画だ。
ブルームバーグによると、米戦略国際問題研究所(CSIS)のスコット・ケネディ上級顧問は、トランプ氏がちらつかせている新たな関税の脅威に対し過剰に反応するつもりのない中国当局だが、弱腰と見られることには警戒していると指摘している。頻繁に中国を訪れているスコット氏によれば、習指導部の選択肢として考えられるのは、中国に大きな利害関係を持つ米企業を標的にすることや米国債の売却、人民元の切り下げ、そして欧州や中南米への働きかけの強化などだ。「中国は厄介者のように扱われるのにうんざりしており、反撃したいと思っている」と同氏は述べ、「必要であれば、トランプ氏に対抗し、同じ手段で反撃する用意ができている」と説明した。
中国にとってのカードの一つは、上海にEV工場を置く米テスラのCEO(最高経営責任者)であるイーロン・マスク氏が選挙戦でトランプ氏の強力な支援者として台頭したことだ。
中国で大きな事業権益を持つマスク氏が、より穏やかなアプローチをトランプ氏に促す可能性もあると述べている。
米中間で貿易戦争が再び勃発した場合、米国の農産物輸出がまた最初の標的となる可能性もある。中国への大豆供給トップとしての地位を固めたのはブラジルだ。現在ではトウモロコシの対中輸出でも最大手だ。20年の貿易協定の一環として、米国の対中輸出が大幅に減少した分をブラジルが補っている。16年時点で中国の大豆輸入は米国産が40%余りを賄っていたが、今年1-9月には18%を下回っている。
米国と世界はもう一度トランプ氏に向き合うしかない
筆者が米選挙の有権者だったら、ドナルド・トランプ氏を選んでいない。ではハリス氏に投票するかどうかだが、消極的にハリス氏に投票しただろう。
今回の選挙で共和党には良い結果となった。上院を制し、下院でも僅差ながら過半数を維持しそうな形勢だ。そして前述したような今回のトランプ氏の提案は、ほぼすべての問題について状況を悪化させる可能性が高いと思っている。来年1月からの4年間、議会は大統領に彼の提案を回避させ、より良い代替案を提示することを目指してほしいものだ。
例えば米国の有権者の大半が最も懸念しているインフレについて考えてみる。トランプ氏が計画する関税や、逆進的な減税、ドルの切り下げは、どれも、物価を押し上げるためにわざわざ考えられた政策のように見える。インフレはようやくFRBが制御可能な状態に戻したばかりだ。これらの政策はそのどれをとっても、実行に移すのは無責任ともいえる。さらに、悪化を続ける財政問題をさらに困難にし、ブルームバーグによると、10年間で15兆ドル(約2300兆円)の債務増加につながる可能性さえあるそうだ。
格付け会社S&Pグローバルが7日付のメモで、この水準で関税が課される公算は小さいものの、トランプ氏がこの公約を履行すれば、一律10%の関税が米国のインフレ率を1.8%ポイント押し上げる可能性があると報告書は指摘している。また、最初の1年間でインフレが再燃し、生産を1%ポイントほど押し下げるとした。中国への関税を60%に引き上げるとインフレ率は最大1.2%ポイント上昇し、生産は0.5%ポイント程度低下する可能性があるとも指摘している。
さらにS&Pは、政治情勢により米国の制度の健全性が損なわれ、世界の主要準備通貨であるドルの地位が揺らいだり、すでに高い米国財政赤字がさらに拡大したりした場合、現在の米国の信用格付けである「AA+」を向こう2─3年で引き下げる可能性があるとの見通しを示した。
共和党は、このトランプ政策の道筋を回避することを真剣に考えるべきだ。例えば大統領が主張する一律関税引き上げを、議会としての正当な権利で拒否し、国家の安全保障や金融市場の動向からもう少しターゲットを絞った関税案を大統領に提示することが望まれる。
移民問題についてもトランプ氏の提案は甚だ見当違いだ。確かにバイデン政権の国境対応は失策続きだ。しかしトランプ氏が提唱する大量強制送還は残酷なだけでなく、法外な費用がかかる上、経済成長を阻害し、根本的な問題の解決につながらないだろう。議員たちはこれに代わる改革への取り組みを超党派で再開するべきだ。
トランプ氏の提案に対し議会は良識的な法案を可決するべきだ。また共和党のマコネル上院院内総務がかつてそうしたように、必要な時にはトランプ氏に反対することだ。トランプ氏が米国民主主義の規範を破壊することを共和党は許してはならない。
そして民主党は、なぜトランプ氏になぜ負けたのか、自問する必要があるだろう。しかし米国はこの先4年間、トランプ氏と向き合うしかない。もう一度、最悪の暴走を食い止める努力を始めなくてはならない。無謀な大統領と向き合うのは大変な仕事だが。
■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。
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