【FLSG】ニュースレター「Weekly Report 9/16号
TV討論会はハリス氏優勢が衆目の一致するところ
注目の民主党候補ハリス副大統領と共和党候補トランプ前大統領の討論会が10日夜(日本時間11日午前11時)行われ、トランプ氏は女性の人工妊娠中絶の権利のほか、自身の支持者が2021年1月6日に連邦議会議事堂を襲撃した事件、外交政策などで何度も守勢に立たされた。
討論会の評価はどうやらハリス氏優勢となったようだ。ハリス氏は元地方検事としての経歴を想起させる形でトランプ氏を鋭く攻撃。同氏のいら立ちを誘うことを狙ったものと見受けられる。一方、トランプ氏はハリス氏について、過去のリベラルな姿勢と結び付けようと努めた。
ABCニュースが主催して激戦州の一つペンシルベニア州フィラデルフィアで行われた今回の討論会は、トランプ氏とバイデン大統領による6月のものとは鮮明な違いを呈する展開となった。討論会でのさえないパフォーマンスを受けてバイデン氏への懸念が広がり、バイデン氏の選挙戦撤退につながった経緯がある。
討論会が始まってから1時間経過した時点で、世界の金融市場の反応は比較的落ち着いたものだった。リスク資産が売られて、香港市場の株価は早い段階で下落。ドルも下げる一方で、資金の安全な逃避先と見なされる円やスイス・フランは上昇した。
11日の金融市場では、トランプ氏のホワイトハウス返り咲きに賭ける「トランプトレード」の巻き戻しが一段と進んだ。米国時間10日夜に行われた米大統領選候補者テレビ討論会を受け、トレーダーは民主党候補ハリス副大統領の選挙戦勝利の見込みが高まったとみているようだ。ソーシャルメディア運営会社、トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループの株価は一時約18%下落。 暗号資産(仮想通貨)ビットコインも下落。トランプ氏がデジタル資産産業への支持を公言していることから、ビットコインも「トランプトレード」の一つとなっていた。米株価先物とドルの指数が軟化し、米国債相場はほぼ変わらずとなった。
トランプ氏の盟友は討論会の司会者を批判。賭け市場はハリス氏優位の方にシフトしており、10日の討論会が同氏の追い風になると多くの人々が予想していることが示唆された。ハリス氏の選挙陣営は討論会終了直後、2回目の開催を呼び掛けた。
欧州のグリーンエネルギー関連株の指数は上昇。米民主党政権なら再生可能エネルギーへの移行により多くの資金を充てるとの思惑が背景にある。
しかし、現時点では、政治分析から市場が得た主な教訓は、まだ8週間も先の選挙でどちらが勝つか確信するのは賢明ではないだろう。どちらの候補者がどの政策を迅速に実行に移せるかが明確ではないことを踏まえると、拙速な判断は避けるべきだと思う
今週のFOMCで0.5%の利下げはあるのだろうか
討論会に対する市場の解釈を難しくしている要因の一つは、ニューヨーク時間11日朝に発表された8月の米消費者物価指数(CPI)だ。同統計では、食品とエネルギーを除いたコアCPIの伸びが市場予想に反して加速した。コアCPIは前月比0.3%上昇-市場予想0.2%上昇、7月は0.2%上昇。コアCPIの結果を契機に17~18日開催の米FOMC (連邦公開市場委員会)で大幅な利下げが実施される可能性が低下した。
JPモルガン・アセットマネジメンのデービッド・ケリー氏は、11日の米CPI発表後にブルームバーグ・テレビジョンに対し、「インフレの大きな問題はないが、インフレが熱気を冷ました」と指摘。今回の統計は「米当局に思い切った行動を求める内容ではない。今回は0.25ポイントでいいだろう」と語った。
金利スワップ市場の動向に従うと、18日にFOMCが0.25ポイントの利下げを発表することをトレーダーらは完全に織り込み、0.5ポイントの利下げがある確率はわずかとしかみられていない。来年1月29日の政策発表までで見込まれる利下げ幅は合計約1.45ポイントで、緊急会合がある場合を除く今後4回のFOMCで0.25ポイントの利下げが2回、0.5ポイントの利下げが2回それぞれあるとの予想が示唆される。
ところが、市場は過去数日間、0.5ポイント利下げの可能性を事実上、完全に無視していたが、0.5%の可能性が今は再び上昇している。きっかけとなったのはウォールストリート・ジャーナル(WSJ)の12日の報道だった。WSJによれば、政策当局者らは利下げ幅を巡り、通常の0.25ポイントか、もしくは0.5ポイントかで決めかねていると報じている。
再び0.5%利下げが有力になってきたが、もし0.25%だったら揺り戻しは考えられる。円も0.5%利下げ想定で140円台にへばりついているが、揺り戻しがあったら142円くらいまでの円安はあるかもしれない。
利下げを前に9月の株価の崩れ
9月17~18日の米FOMC(連邦公開市場委員会)で利下げ開始が予想されるのに、8月、9月の月初めに株価が崩れた理由を考えてみた。筆者は以前から米国市場は、利下げに関して前のめりだと感じてきた。前のめりというのは、具体的に年内3回、05%かけ2回と0.25%、都合1.25%と市場は見ていたようだ。しかし、筆者は0.25%かけ3回の0.75%くらいではと考えている。市場は大幅利下げによる金融緩和が株価押し上げに寄与すると期待していたはずだ。なぜ利下げを前に株価が崩れるのか、市場の利下げに対する前のめりがあるからだと考える。
9月になって第1週発表のISM(全米供給管理協会)の景況感指数など統計が出る前に、多くの投資家が利益確定売りをしておきたいと考えたのではないだろうか。NYダウなどは8月の下落前よりも月末には株価が上がっていたため、一旦、利益確定売りをしたくなる潜在的願望も高まったのだ。
米株価は、8月初めの下落から立ち直って、9月のレイバーデーのころ再び割高感が生じていた。この割高感は、米景気が後退すれば持続不可能なものだ。利下げで株価がより割高になってもおかしくないと感じるよりも、利下げがあっても米景気後退になればしばらく株価の持ち直しに時間がかかるとみたのだろう。株価上昇の期待よりも、「高所恐怖症」のマイナス心理が勝ったと思う。つまり当初の景気ソフトランディング想定よりハードランディングへ市場心理はシフトしたのであろう。
日経平均は、米ナスダック指数との連動性が高く、8月初めも9月初めも連動して急落した。日本株の方がもっとボラティリティが高いようにみえた。その変動率の高さは、一部の半導体関連銘柄に主導されている。そこで、米国の半導体指数(SOX指数)に注目すると、ナスダック以上に日経平均株価とよく似た動きをしていた。両者のピークは7月上旬頃である。2024年1月から株価の水準が切り上がってきたところも似ている。
半導体指数のピークアウトは、足元の需給データのもっと先の半導体需要の変化を捉えている可能性は否定できない。足元の半導体需要よりその先を見ているのだろう。
8、9月初めの急落は、こうした先々の需要を想定して米半導体関連株の値上がりが進んでいた分が調整したと理解すべきだろう。
日本投資のヘッジファンド立ち上げ活発化 投資家が市場有望視
アジア全体でヘッジファンドの活動が縮小傾向となる中で、日本向けヘッジファンドの新規立ち上げが活発化しつつあると、9月9日のロイターの記事は伝えている。 アジア全体でヘッジファンドの活動が縮小傾向となる中で、日本向けヘッジファンドの新規立ち上げが活発化しつつある。
中国株の低迷を背景に、アジアでは昨年以降ヘッジファンドの閉鎖数が設立数を上回り続けている。日本投資専門のヘッジファンドはこの間に10本の純増となった。関係者の話では、第3・四半期から年末にかけてさらに5本のこうしたファンドが既に設立されたか、設立が準備されている。投資家の反応も良好で、長らく重視されてこなかった日本市場を有望視する見方が広がっていることがうかがえる。
日本株のロング/ショート型ファンドを立ち上げている、あるヘッジファンドの創設者は「日本がついに物価上昇と賃金の伸びを伴って前向きの方向に変化してきている」と指摘した。ヘッジファンド調査会社も「日本専門の運用者へのより大きな関心を目にしている」と述べている。このところの大幅株価下落で日本株の変化を忘れていたが、円が落ち着けば再び日本株の変化が目につくだろう。
■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。
一般社団法人FLSG
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