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この痛みをしっくりくる言葉で表現するとしたら?

抗がん剤投与後1週間の診察に行った。主治医の先生は月曜午後の担当として地元の病院へやってくるので、話すだけのときは地元でみてもらっている。

先生は私が今一番、話したい人だ。大変さを聞いてほしいというんではない。自分が観察した副作用を純粋に報告したいのだ。ちゃんと短い時間で伝えられるように、毎日の副作用をメモしておいた。

長時間待たないで済むようにいつも早めに行っている。午後の診察は14:00からなので、今日も13:40くらいに病院に着いた。受付で診察券と保険証を出し、待合席でKindleの漫画を読みながら待つ。だが、14:00を過ぎて診察は始まっているはずなのに、いつまで経っても呼ばれない。

おかしいなと思い、診察室近くの廊下に行ってみると、そこは同じように待っている人でいっぱいだった。その人たちよりも私の方が先に来ているはずだから、すぐに呼ばれると思っていたのだが、おかしいな、忘れられているのかな?と疑いの心がむくむくしてくる。

診察室のすぐそばの空いていた席に腰かけて待つと、診察室の声が漏れ聞こえてきた。それで事情がわかった。内容は書けないが、一人目の患者さんがとても高齢の方で、その説明が堂々巡りをしていたのだ。その患者さんは親族の方と介護の方と一緒に見えていたが(その人たちが助け舟を出しているかまではわからないが)、話が全然進まないようだった。

医師は診断や手術だけをしていればいいわけではなく、すべての患者にその治療の説明をしなくてはならないのは当たり前のことだけれど、それは容易なことではなく、とても大変なことなのだということが、先生の説明の様子を聞いていてわかった。

30分たってやっと、その患者さんが出てきて、間もなく私の名前が呼ばれた。

「すいませんね、お待たせして」

「いえいえ、大丈夫です」

3割増しくらいで愛想よく答える。大変なのは先生の方だ。

「抗がん剤を投与してから調子はどうですか」

と、早速本題に入る。

「はい、副作用が大きく3つありまして・・・」

私はまるで仕事のように答える。

タイミングと副作用を説明して、お守り代わりに追加の吐き気止め、便秘のためのお薬を処方してもらうことになった。

今回出される吐き気止めは、統合失調症の治療でも使われるものなので、薬局で説明書を見てびっくりしないよう、薬辞典を開きながらその旨も説明してくれた。

薬をもらうまでを含めて2時間くらいかかったが、今日は体調もいいし、副作用もほとんどないし、困ったときの吐き気止めも便秘薬もゲットしたし、これであと2週間は元気に過ごせる!と、意気揚々と買い物をして家に帰った。


買ったものを冷蔵庫にしまっていると、なんだか腰が痛い。座って待っている時間が長すぎた?いや、それほどでもない。腰が痛くなることはしていないはずだけど。

とりあえず紅茶を作って、ソファにごろんと横になり、ドラマを見る。休んでいれば大丈夫だろう。

18:00、夕食を作ろうと起き上がると、腰にギュイーーンという体験したことのない痛みが走った。

突然家の中で道路工事が始まり、爆音と振動が起ったかのような衝撃だった。さらにそこに鋭い痛みが加わっている。

「な、なにごと?」

脈拍のドクンドクンというリズムにあわせて、痛みがズギュンズギュンと起こっている。といっても、それがずっと続くわけじゃなく、陣痛のように数分おきにやってくる。


あれの、副作用か……。

抗がん剤を投与すると、がん細胞だけでなく白血球も減って免疫力が落ちてしまう。そこでこの時期は特にいろいろ危険だからと、退院する前に打ってもらっているのが、白血球を増やしてくれる「ジーラスタ」という注射だ。

患者さんの中ではその高額さで有名だ(1本10万以上、3割負担でも3万。抗がん剤より高い)。

そのジーラスタの副作用として、骨や関節の痛みがあるという説明を受けていた。いや、でも、1週間たってるし、遅くない?違くない?と、検索をしてみると、、、

「腰が爆発するような痛み」

と表現している人がいて、「それそれ!」と思った。

抗がん剤で減ってしまった白血球(好中球)を、骨髄で懸命に作っていることで起こる痛みだという。

「そうか、私の身体は今そうやってせっせと働いてくれているのか」

と思ったところで、痛みは治まらない。陣痛レベルで、うぉーという痛みがやってくる。それでもなんとか、今日の夕飯の鉄火丼を作って、いたいいたいと言いながらそれを食べ、いたいいたいと言いながら食器を洗い、歯を磨いて、パジャマに着替えて、横になった。さらに調べてみると、だいたい3日くらいでおさまるという。いや、3日もかよ、と心のなかで突っ込む。腰痛はまったく心の準備をしていなかった。

今いろんな薬を飲んでいるので、ロキソニンを飲んでいいかわからないが、どうしても我慢できなくなったらロキソニンを飲むことにしようと、すぐ手の届くところに置いた。


とまあ、そんな新たな痛みをオンゴーイングで体験しつつ、これを書いている。「この痛みをしっくりくる言葉で表現するとしたら?」というのが今日のテーマだ。

「腰で花火が打ち上がっているような」
「腰をドリルで削られているような」
「腰骨の中に太鼓叩きの達人が何十人も並んで腰骨を内側から叩いているような」
「腰に通っている神経を使って、体操の選手が鉄棒のようにぐるんぐるん回っているような」
「腰の中でドSの女王様がムチを振りまくっているような」
「腰骨のなかでノートルダムの鐘が鳴っているような」
「腰骨のなかでヲタ芸ダンスが行われているような」

しばらく痛みを感じながら、しっくりする表現を探そうと思う。
そのくらい、心と頭は元気で前向き(?)です。


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大前みどり
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