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PK戦って、なんでこんなにドキドキするんだろう?

次男は小学校低学年の頃からサッカーをやっていた。

練習場所は小学校や市の競技場なので本人が勝手に行くが、遠征での試合のときは、親の送り迎えが必須だった。

だが、ラッキーなことに、サッカー教育に熱心なパパさんたちが送り迎えを一手に引き受けてくれていたので、私はそこに甘えて送迎をさぼらせてもらっただけでなく、試合自体を応援しに行くことがほとんどなかった。

あるとき、たまにはお迎え係を引き受けようと、家から車で1時間くらいのグランドに車で迎えにいった。

私がグランドについたとき、PK戦が始まろうとしているところだった。
ユニフォームを見ると次男のクラブだ。

急いで車を止めようとしたが、すでに駐車場はおおかた埋まっていて、グランドから少し離れたところに車を駐め、グランドを囲っている緑のネットまで走っていった。どうなった?どうなった?

緑のネットの網目からコートを見ると、今まさに、PKを蹴ろうとしているのが、どうやら次男のようだった。

ボールを置き、ゴールとキーパーを見据える。
後ろ向きに下がり、ボールとの距離をとる。
ちょこちょこちょこっとゆっくりした助走で、ボールに駆け寄る。
少しタイミングを外して、キックをする。

そのボールは、弾道を見極めたキーパーに、しっかりと弾かれてしまった。
次男は両手で顔を覆い、そのまま空に向けた。

そのキックで、試合の負けが決まってしまったようだ。

帰りの車の中でなんて声をかけたかもう覚えていないけれど、バックミラー越しに次男の表情をチラチラ見ながら、たまに来て、その瞬間だけを見たことに対して、親としてなんだか申し訳ない気がした。


次男は中学に入ってもサッカーを続けた。

最初はセレクションを受けて受かったクラブチームに入ったのだが、事情があってそこは途中でやめ、学校の部活に入り直した。

チームメイトには、小学校の頃からクラブで一緒にサッカーをしていた子たちが何人もいて、息もあっている。市内では一番強いチームになっていった。

次男のポジションはトップ下。試合を動かすパスを出す役割で、コーナーキックも蹴る。一度、コーナーから直接をゴール決めたと、興奮して話していたこともある。

だが、私は、中学校の試合も、ほとんど見に行ったことがなかった。ママさんたちのLINEグループで毎回試合の情報は回ってきたが、その頃は仕事があまりにも忙しくて、まったく余裕がなかったのだ。

そうして、次男は中学校3年生になった。

最後の大会だけは、全部の試合を観に行こうと思った。負ければ引退、もしかしたら最後の雄姿になるかもしれない。

次男の学校は、安定したチームワークと個人の光るプレーもあって、順調に市大会で優勝して、地区予選に進んだ。

地区予選でも、初戦で白星をあげ、あと1つ勝てば県体出場という試合を迎えた。試合は、8割がた攻め続けるも決めきれず、同点。延長戦を戦うも、どちらも追加点はないまま、PKとなった。

スタンドのお母さんたちはもう大興奮だ。勝って県体に行ってほしいという期待はもちろん、最後になるかもしれない試合で、もし負けたら本人たちがどれほど悔しいだろうという気持ちも乗っかって、ほんとうにじっとスタンドに座っていられないほど、ドキドキしていた。ここ数年でこんなにドキドキしたことはないくらいに。

誰が蹴るか、順番も大事だ。
次男はいつもコーナーを蹴っていたから、どこかで登場するだろう。だが、

「出ないでくれたほうがいい」

と私は思ってしまった。

親としてどうかと思うが、こんな重要な試合で、外してしまうのじゃないか、と以前の場面がよみがえってきたのだ。

だが、すぐに身勝手な思いを引っ込めて「ただただ応援しよう」と思い直した。胸の前で手を組んで祈る姿勢になりながらも、落ち着いていられず、ずっと体をゆすっていた。

蹴る順番は先行になった。
1人目。フォワードのH君が出てきた。
チームで一番の実力者だ。間違いなく決めてくれるだろう。

そんな期待を抱きながらも、ドキドキがとまらない。

H君の蹴ったボールは、ゴールの枠の外側を、きれいな弾道で飛んでいった。

スタンドでは、その子のお母さんが他のママさんたちに謝っていた。
「大丈夫、大丈夫、まだあるから~」と他のママさんからすぐさま声が返ってくる。同じ立場だから、責める人なんて誰もいない。

相手チームの1人目は、反対に、落ち着いて決めていた。

次男のチームの2人目。
メンバーから信頼のあるサイドバックのAくんが出てきた。
大丈夫、彼なら決めてくれると、メンバーも、お母さんたちもみんなが思ったはずだ。

Aくんが蹴る。
まるでデジャブを見ているかのように、ゴール枠の外に、ボールはきれいに飛んで行った。

お母さんたちの空気が変わる。「あ~、もう、見てられない」「すごい緊張する」黙っていられず、誰もかれもが何かを声に出している。

そんななか、相手チームの2人目は、皮肉にも感じるほど冷静に、ゴールを決めた。

そして、次男のチームの3人目。
サイドハーフのK君が出てきた。この場面で出てくるのは相当のプレッシャーだろう。だが、ここで落ち着いて流れを戻してほしい。

選手たちの様子は、もう肩が落ちているように見えた。「気持ちで負けちゃダメ!」スタンドからは、声が張り裂けるほどの声援があがっていた。

見てられない、けど見たい。両手で目を覆いながら、指の間から見た。これが次男だったらと思うと、胸が張り裂けそうだった。

結局、次男のチームは、1人目から3人目の全員が、みごとにホームランを蹴り、ゴールの枠外に飛んで行った。

そして、相手チームの3人目が決めた時点で、試合が終わった。

次男が蹴る順番は、回ってこなかった。
それが引退試合となった。


あとで次男にそのときのことを聞いた。

「あの順番って、どうやって決めたの? 俺に蹴らせろとか、思わなかった?」

「おれ、監督から、蹴るの5番目って言われててさ、マジでまわってこないでくれと思ったよ」

と言っていた(笑)。


「なんかさ、小学生のときにさ、ママがめずらしく迎えに行った試合で、PK外したことあるでしょ。あのこと思い出してさ、すごいドキドキして見てられなかったよ」

「悪いけど、おれ、PK外したのあのときだけだからね。あとは外したことないからね」

「そ、それは失礼しました。だったら蹴るの見たかったな~」

そんな会話を交わしながら、もっと試合を観に行きたかったなあと、間に合わない後悔をした。


それにしても、サッカーのPK戦は、ほんとうに見ていられないほどドキドキする。自分の子どもじゃなくても、日本代表の試合でも、高校サッカーでも、じっと見ていられない。なんでこんなにドキドキするんだろうか?

改めて考えてみると、これは結果を期待しすぎるがゆえのドキドキなんだと思う。そこにはすでに、「勝つこと・PKで点を入れること」が「よいこと」で、「外すこと・負けること」は「悪いこと」という判断基準がある。

そりゃ勝った方がいいに決まっているけれど、そして長い目で見たら、負けることも必要な経験となるのかもしれないけれど、勝ちあがるために一生懸命やっていればこそ、結果がほしいわけで。だけど、結果を手に入れるためには、目の前の今ここに集中することが必要なわけで。

だとしたら、応援する立場としてできることは、「勝て!」とか「決めろ!」とかではなく、

「今この瞬間、目の前のことに、のびやかに力を出し切れますように」

と選手のために祈ることではないか。

今度からはドキドキする気持ちを感じたら、闘う選手たち一人ひとりにそうやって祈ることにしようと思う。




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大前みどり
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