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乳がん治療に向けて①:入院までのあたふたの日々 その1

乳がんと診断を受け、「もしかしたら乳がん」が「確実に乳がん」になってから入院までの3週間、自分はどうしていたのか?について、当時の日記をみながら振り返ります。

前回の投稿はこちら。

その前に、前回の投稿には書かなかった「セカンドオピニオン」について。

病理診断の結果次第では、他の病院でセカンドオピニオンを受けようと思っていました。なので、事前に候補となる病院を調べ、すぐに予約できるよう連絡先などもまとめておきました。

ですが結果的にセカンドオピニオンを受けることはありませんでした。理由は、先生の説明にある程度納得したこともありますが、そもそも乳がんというのは非常に症例が多く、標準治療がかなり確立されていて、しかも自分はそのなかでも数の多いタイプだったので、他の病院に行ってもまったく同じ治療を勧められるであろうことが目に見えていたからです。

なので、告知を受けてから、入院日を当面のマイルストーンとして、日々を過ごすことになりました。


11/26 入院まで3週間

夜中に何度も目が覚めてしまい、その度にやらなくてはいけないことが浮かんできた。夢のなかでもあれをやらなくちゃ、これをやらなくちゃとあせっている。

朝起きて、薬を飲むために朝食を食べる。糖分はよくないのに、昨日の夜家族で外食した帰りに買ったミスタードーナツを食べてしまった。そしてホルモン剤を飲む。

まずは、取り急ぎ連絡をしなくてはいけない人をリストアップして、順に連絡をしていく。そうしながらも、あれこれといろんな考えが湧いてきて、ときどき混乱する。気づくと息をつめているようで、とちゅうで「ふーっ」と何度も息を吐く。

連絡がひと通り済むと、次に心配だった「健康保険限度額適用認定申請書」についてけんぽ組合に電話をして、期限をいつまでとしたらいいのかを確認する。これが入院までに間に合わないと面倒なことになるので、すぐに書類を投函しにいく。認定証があれば天井知らずの出費にはならないと思うと、ちょっと安心する。

入院の持ち物に、「前開きのパジャマ5~6枚」と書かれていた。前開きのパジャマを1枚も持っていないので病院のパジャマをレンタルしようかと思ったが、なんとなくさらに病人っぽくなってしまうような気がして、せめて自分の選んだパジャマを着たいと思った。そこで、前開きのパジャマや下着を買いに行く。もやもや考えているよりは動いているほうが安心するし、物事も進んでいく。

ホルモン剤の副作用なのかわからないがめまいがしていた。貧血みたいに血が下がっていく感じがあったので、買い物から帰って横になった。

この3週間は、「寿命があと3週間だったら?」と考え、絶対にやっておかなくてはならないことに集中しようと思う。


11/27 婦人科に行って

入院前に子宮がん検診を終わらせておこうと、婦人科のクリニックに行くと、子宮頚部にポリープがあるといわれた。「ポリープが子宮の入り口をふさいでいるので子宮体がんの検診はできませんね。可能ならはやいところ取った方がいいと思いますよ。うちではできないので紹介状を書きますから」

乳がんの治療を受けている病院に電話をして確認したら、入院前に終わるようだったら処置して大丈夫、病院も自身の通いやすいところでどうぞとのこと。

クリニックの先生は大学病院を勧めてくれたが、コロナ禍の中、手術入院前のタイミングで大学病院に通うほどの気力や体力はない。そこで、地元では一番大きな病院宛に紹介状を書いてもらった。

ポリープってなんだ?それってがんの可能性もあるの?乳がんと子宮がん、両方のがんになることってあるの?と思いながら、じゃっかんパニクる。乳がんの治療を一通り受ければひとまず終わるのだと思っていた。子宮にもがんがあるとしたら、そんなに抱えきれないぞと一気にブルーになった。

とにかく、紹介状を持って次の病院に行って検査をしないことには何もはっきりしない。翌週の月曜まではできることはないのだから、目の前のことをやろうと気持ちを切り替え美容院に向かう。

乳がんと告知されてすぐ予約しておいた。入院前に髪を短くしておくためだ。ずっと担当してもらっている店長には、最初に抗がん剤の治療を受けることを話した。「うちはサバイバーの方の縮毛矯正もやっていますから。他の美容室に指導している立場ですから、安心してください」という言葉が心強く、不安がひとつ減るだけで、持っている荷物の重さが減るような気がした。


11/28 ウィッグが届く

試しに安いのを注文してみたが、思っていた以上に問題ないというか自然だ。ウィッグが不自然になるのはかぶり方もあるのだろう。あと2つくらい買おうと思う。

乳房のチリチリとした痛みが気になる。脇の下や鎖骨のリンパが腫れて痛い気がする。本当に痛いのか、気にして過敏になっているのか。気にしているから気になるだけなのだろうと思うが、気にすることでより進行してしまったらどうしようという不安がやってくる。


11/29 カウンセリングを受けたほうがいいか

病院でもらった血液検査の結果の数値を、1つずつ確認していった。腫瘍マーカーの値も含め、コレステロール値以外は正常範囲内であるということに安心をする。ある人からメッセージをもらったことがきっかけで、今は自分では大丈夫だと思っているけれども、はやめにカウンセリングを受けたほうがいいかもしれないなと思い始める。

知らない人に今の自分の気持ちを話すことを想像したら、ふと涙が浮かんできた。ああ、私はすごく不安でこわかったんだ、とそこで初めて思う。周りの人には大丈夫だと思われたくて、大丈夫だと自分でも思っていた。ゆらぐのは自分が弱いからだ、こわいのは自分が無知だからだと考えて、生の感情を押し殺していたのかもしれない。

早速、知り合いの方に「がんのカウンセリングをしている方を知りませんか?」と聞いてみる。すぐにどうこうしなくても、困ったときに頼るところはいくつもあったほうがいい。

11/30 心配事がひとつ片付いて

紹介状を持って地元で一番大きい病院に向かう。8時から受付開始なので7:50にいき、番号札を渡されてロビーの椅子に座る。診療申し込みをして診察券を作ってもらい待つ。時間になると番号順に機械で診療受付、その後カウンターで紹介状を渡し、外来受付のファイルをもらう。

この病院はとにかく気持ちよくシステマティックに進む。いろんな科があるので混んでいるし、高齢者の方もかなり多い。見ていると説明がすぐに理解できないおじいちゃんおばあちゃんも多く、看護士さんや事務の人がたくさんいないと、とてもじゃないがこりゃあまわらないだろうなあと思う。

待っている間、乳がん検診や針生検をここで受ければよかったという考えが繰り返し出てくる。家から歩いて10分で通いやすい。今からでも転院することは可能と言えば可能だが、そこまで無理に流れを変えない方がいい気もするし、通院のために定期的に都内に出るのも悪くないと思い直す。

診察の順番がまわってくると、ちょっと見てみましょうといわれすぐ診察台の上に乗る。見るだけだと思っていたら、なぜか痛い。ご気分大丈夫ですか?と看護士さんにきかれる。

え、麻酔してるの?もう取ってるの?かしゃかしゃがしゃがしゃと器具の音が聞こえる。そして、ものすごく痛い。生理痛の大親分のような痛みと格闘する。時間にして10分から15分くらいか。ふーっふーっと息を吐きながら耐えしのぐ。今日で終わるなら、それでよいじゃないか。

全部終わって診察デスクに戻ると、「はい、これとりました」と先生がホルマリンにつけたポリープを見せてくれた。卓球の球より大きいくらいで、白いたまこんにゃくみたいな、目玉おやじみたいな感じに見えた。

「一応検査にまわすので2週間後に来てください。腫瘍だけどおそらく良性だろうから、そんなに心配しなくて大丈夫ですよ」

ほっとしたのもつかの間、会計でまたお金が出ていく。違う意味でこわいし痛い。薬局で抗生物質や痛み止めをもらうのを待つ間、「今日のも一応手術だから、保険がおりるんじゃないか?」と思って帰宅後保険会社に電話をして聞いてみる。

ついでに12月の入院手術についても、書類を送ってもらう依頼をした。担当の方の「どうぞくれぐれもお大事になさってください」という言葉がじんわりしみる。入院前に絶対やることのひとつが終わって、今日はちょっとほっとしている。


12/3 あたたかさにふれる

Mさんとオンラインで話す。人の前だと強がってしまう傾向がある。わかっていると思われたいのか。これまでががんになる考え方、生き方をしてきたわけだから、これからどうやって自分という場を整えるかは、これからの人生でもっとも大事なことだし、そこからさまざまな知恵を得ていくのだろうと思う。がんを憎んでもしょうがない。がんは闘うのではなく共に生きる存在だ。

Cさんから、本が届いた。本の他に、靴下、タオル、小物入れ、アロマオイルをいただいて、その心づかいに感銘を受ける。やさしいな。あたたかいな。入院中、そのやさしさにふれられるのはとても支えになるだろう。船戸先生の本を読んで、食事、運動、睡眠、あたためる、そして笑いを中心に生活しようと思った。


12/4 再発と死の恐怖

保険の請求のための書類が、各保険会社から届く。
そもそも乳がんの治療にトータルでどれくらいのお金がかかるのか。そもそもどんな種類の抗がん剤治療を受けるのかを調べる。

自分のサブタイプは「ルミナールB」で、核グレード3。再発や転移のリスクが高いということに再度直面してショックを受ける。

今回一連の治療をしても、数年でまた再発して、そのときにはもう末期で、今から5年以内には死ぬんだろうか。

前にも考えたことのはずなのに、他のことに気がいっていたのでうっすらとしか考えていなかった。今日初めて、再発や死を受け止めた気がする。

とにかく今は入院までにやることに集中しよう。体を冷やさないことが大事。シルクの靴下を注文する。




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大前みどり
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