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長男の家出

長男が小学校3、4年の頃だったと思う。
理由は忘れたが、長男をものすごく怒ったことがあった。叱るのではなく、怒鳴ったことが。そして「もう出ていきなさいっ」と私は言った。

長男は何も持たずに家を出ていった。休日の、夕方になる前くらいの時間帯だった。

私はすぐに帰ってくると思って、家のことをしていた。だが、外が薄暗くなっても長男は帰ってこない。近くの公園で遊んでいると思って、探しに行ったが、どこの公園にもいない。次男を家で留守番させて、だんなさんと手分けをしてあちこち探したが、見つからない。

もう夜になる。Tシャツと短パン姿だったから、どこか外にいるんだったら寒いだろうに。図書館や公民館などはもう閉まっているだろうから、室内で時間をつぶしていたとしても、家に帰ってくるはずだ。それに、誰かの家に遊びに行ったとしても、親御さんが電話をくれるはずだ。

事故にあったか、誰かに連れ去られたか……。
頭の中を不吉な想像ばかりが駆け巡る。

結局、交番に駆け込んだ。
その時点では、迷子や事故の届け出は出ていないようだった。
どんな服を着ていたかなど、お巡りさんに訊かれたことに答えたけれど、私はもうパニック寸前だった。

「あんなに怒らなければよかった……。もし何かあったらどうしよう……」

お巡りさんに家で待機していてくださいと言われたので、不安を抱えたまま交番から家に帰った。何も手につかず、そわそわしながら何度も家の電話や携帯を見たり、長男が行きそうな可能性のあるところをだんなさんと話しあっていた。

すると、玄関の鍵を開ける音が聞こえた。

「えっ?」

ダダダダっと玄関に走っていくと、長男だった。

「どこ行ってたのっ!!!!!」

だんなさんと私がすごい剣幕で質問を浴びせかけた。

不機嫌そうな顔をした長男は、

「屋上にいたんだけど寝ちゃって、起きたら夜だった」

という。

不機嫌な顔ではなく、寝起きの顔だったのだ。
聞けば、怒られて頭に来て家を出て、そのままマンションの屋上にのぼったという。

そのとき住んでいたマンションは4階建てで、屋上に出られるようにはなっておらず、柵を乗り越えて、ハシゴのようなものでなんとか上がれるようになっていた。なので、そんなところにいるなんて、1mmも思いつかなかった。

「なんでそんな危ないことをして!」

と、重ねて怒ってしまいそうになったが、いったん飲み込んだ。

急いで交番に電話をして、無事に戻ってきたことを伝え、お騒がせしたことをお詫びした。

長男がいなかった数時間の親のテンパり具合とはうらはらに、長男が屋上で昼寝する神経の持ち主で、ちょっと安心した。

大学生となった今となっては、何かで私が怒っても、長男は何倍にも理屈っぽく言い返してくるので家出なんてことにはならないが、それにしても本当に肝を冷やした数時間の出来事だった。


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大前みどり
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