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サイコパスの夕食

家事、特にキッチン仕事をするときは、amazon musicのプレイリストをかける。スマホからポータブルスピーカーに飛ばして、結構大きな音で聴く。特にポップスやEDMなどのノリのいい曲をかけることが多い。曲のリズムにのって家事が進むように、だ。

ただたまに、何かまったく違うものが聴きたくなることがある。今日もそんな日で、ジャズとかクラッシックがいいかなあとプレイリストを眺めていたら、この「バイオリン・ソロ名曲集」がふと目に留まり、これを流しながらキッチンに立った。

包丁を持ってザクっザクっと肉や野菜を切っているとき、たまたま流れた曲の曲調もあるのだろうけれど、バイオリンの奏でる音色によって、過去に観たサイコパスが出てくるドラマや映画が思い出された。そしてなんだか自分まで、『ハンニバル』のマッツ・ミケルセンや『アメリカン・サイコ』のクリスチャン・ベールのような、殺人鬼になったような気分に、一瞬なった。


私は音楽には詳しくないけれど、ある種の音楽は、ある種の記憶と結びついていて、音楽がきっかけで記憶がよみがえるということが案外多いなあと思っている。

音楽であれば、オルゴールのBGMは、長男が生まれた直後のまったく余裕のないノイローゼ寸前の自分を思い出す。当時、寝てくれるようにとしょっちゅうかけていたからだ。

この曲を聴けばこの人、この曲を聴いたらこの場所、この曲を聴いたらこんな感情、そんな風に音楽に紐づいた記憶はたくさんある。そういう方は多いのではないか。


さらに、音楽以外でも、匂いとひもづいた記憶も多い。匂いの場合はもっと原始的に、その記憶のシーンに連れていかれるような強さがあると思っている。

特に、冬の匂いを嗅ぐたびに思い出すのが、大学生のときのことだ。当時、夜中のバイトに行くときに、あまりの寒さでいつも自動販売機で”あったか~い”缶コーヒーを買って、コートのポケットに入れてカイロ代わりにしていた。そして、バイト先についてから、冷めた缶コーヒーを飲んでいた。

なんでもないことなんだけれど、毎年冬の匂いを嗅ぐたびに、缶コーヒーの極甘の味が、口の中によみがえってくる。冬の匂いってどんな匂いかと問われるとちょっと困るのだけれど、私の嗅覚と味覚にはそうやって、ウン十年も前の冬の記憶が、なぜか一番強く残っている。


今日は家に誰もいなかった。作ったおかずをつまみに久しぶりにビールでも飲もうかと、冷蔵庫に1本だけ残っていた缶ビールを開けて飲んだ。砂肝をコリコリと噛んでいたら、また『ハンニバル』のドラマを思い出した。あんなにオシャレじゃないけれど。

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大前みどり
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