花鳥風月の心咲く金沢へ(友禅工芸品~アート・街歩き)Part2.
1.序文
「伝統工芸と現代アート」
旧き時代の面影の中に
「今~未来」の風を感じる金沢。
街を歩きながら、そんなユニークな風景が
気になってくる。
金沢の六大工芸品
(加賀友禅、九谷焼、金沢箔、金沢漆器、加賀仏壇)
藩政とともに、伝統工芸が支えられてきた歴史。
一方で、後継者不足など近代化の煽りを受け、
街は、時代の波にあわせるように、古くからある伝統と、
新しい時代を感じるテクノロジーとが融合している。
また、街のあちこちで、
その対極のイメージをつなげるような「花鳥風月」に出会う。
この記事では、前回の加賀友禅染の着物鑑賞につづき、
様々な工芸品に触れながら、金沢の街をリポート!
最後に、その体験で得たインスピレーションから、
加賀友禅染色体験の完成作品とともに、
フラワーアート(自作)の写真を掲載します。
前回 Part1では、加賀友禅染(着物)鑑賞・染色体験をご紹介!
よろしければ、こちらもご参考に。
2. 金沢工芸品ゆかりの場所を巡る
1.主計町茶屋街(暗がり坂・あかり坂)
明治初期にできた金沢三大茶屋街の一つ。
国内で唯一戦禍(爆撃)を免れた金沢の街では、
タイムスリップしたような当時のままの情景に出会える。
~快晴の空、まだ朝早い時間~
木造の建物が並ぶ狭い路地裏へ。
2.ひがし茶屋街(懐華僂)
主計町茶屋街から歩いて数分の場所にある
金沢を代表する茶屋街「ひがし茶屋街」。
藩政時代の封建的制度の下、文人、上流町人などが集まる
娯楽、社交場として、わずかに認可された地区。
さっそく、格式あるお茶屋見学へ。
国指定重要文化財「志摩」(屋内撮影不可)
一階は調理場、二階は遊芸を披露するための客間があり、
当時は、琴、三弦、笛に舞、謡曲、茶の湯、俳諧などがもてなされた
当時の姿そのままに、お茶屋文化で扱う道具など、
金沢の文化、工芸品の歴史を肌で感じられる。
通りを行き交う人々の中には、和の風情に溶け込むように、
加賀友禅の着物を着た女性を時折見かけた。
「懐華僂」(金沢市指定保存建造物1820年建築)
今も伝統的お座敷遊びが行われている
金沢で一番大きな茶屋建築。(屋内撮影可)
輪島塗の階段、客間の茶室、室内装飾と調度品などがあり、
金沢の洗練された工芸品を目にすることができる。
表玄関からのお客様との遭遇を避けるなど、
プライバシー配慮にこだわった裏導線も見逃せない。
「懐華僂」の近くには、
幻の和菓子「吉はし」の上生菓子を頂ける喫茶を備えた
加賀友禅(小物)のお店「久連波」、
金箔のソフトクリームを販売する「箔一」など、
様々な工芸・雑貨店、飲食店などが並んでいる。
そして、
ところなしと流れる琴の音に紛れ、
「チリーン!」と、涼感ある音色が……。
「KOIZUMIYA」
「快音」にこだわったアイテムを取り揃えたお店。
(小泉製作所のオリジナルブランド:本社所在地は富山県)
お洒落な仏具。
夏の季節になると、日本ならではの「風鈴」が欲しくなる。
音だけで、爽やかな気持ちに🎐
3.加賀藩御用菓子司 森八
加賀百万石の城下町らしさは、
兼六園や金沢城だけでなく、工芸品やそこから生まれた
食文化の中にも見ることができる。
「和菓子」もその代表。
日本全国、数ある名菓は、
今となっては、殆どがネット購入できる。
お土産にしても、駅でも買えるからと、
店舗を訪れるきっかけを逃してしまう。
でも、店舗でしか味わえない希少な体験もある。
「森八」本店
1階(店舗)のショーケースには、名菓が並ぶ。
日本三大名菓と言われる「長生殿」は、
木型を使った工芸品を象徴するような菓子で、
紅白二色の落雁。
ピンク色は、天然本紅で染め上げていて、味わいも上品。
元は、前田利家公が豊臣秀吉献上する内菓子を原型に創設。
三百数十年の歴史がある。
生菓子「千歳」は、
独特な風味で、もちっとしながらも
口の中で溶けていくような触感。
上品な生菓子。
(言葉では表すのが難しい)
2階は、喫茶、菓子作り体験ができるスペースがあり、
美術館が併設されている。(一部エリア撮影可)
美味なのは、和菓子だけではない。
金沢を訪れると、地元の人から口々に言われるのは、
「料理はどこもおいしいですよ」という言葉。
人気のお店は早めに予約する必要がある。
4.成巽閣(兼六園)~(長町武家屋敷)
町方のお茶屋~
こちらは雅な大名奥方の御殿へ。
「成巽閣」
(屋内撮影不可)
江戸時代末期、加賀前田家13代斉泰が、
母堂にあたる12代斉泰奥方、眞龍院のために造営。
二階建ての柿葺き、寄棟造りの和風建築。
「成巽閣」の屋内は、
当時の文化財、上質な建築や美術工芸品を鑑賞することができる
希少な場所でもある。
「雛人形 雛道具 特別展」が開催。
前田家に代々受け継がれた雛道具、雛壇などが展示。
顏、身体つき、衣装など、
制作者や時代を反映して微妙に異なる様々な雛人形を鑑賞。
階下は公式の対面所「謁見の間」を中心設計。
蒲公英たんぽぽ、蕨、菫の絵があり、障子腰板など
至るところに、花鳥デザインが施されている。
階上は、鮮やかな群青色を用いた「群青の間」を中心に、
天井、壁、床の間の色彩や材質に意匠が凝らされ、
庭園には、辰巳用水の遺水が流れている。
長町武家屋敷まで足を延ばせば・・・
海外からの観光客が多く訪れる
旧い街並みが残っている。
藩政を支えた武士や名家の邸宅もあり、
生活に根付いた工芸品に触れることができる。
近くには、ショッピング街や飲食店、
お洒落なお店が並ぶ、香林坊エリアも。
一方で、「成巽閣」がある兼六園周辺には、
「美術展」開催中の「石川県立美術館」や、
れんが造りの「石川県立歴史博物館」等、洋館が建ち並ぶ。
5.鈴木大拙館
金沢が生んだ世界的仏教哲学者、
鈴木大拙の書、写真、著作などが展示。
3つの空間と3つの庭を巡ることで、
来館者が知り、学び、考えることを目的とした施設。
「自然を憶う企画展」
自然愛について語る大拙の思想、展示品を鑑賞。
薄暗い内部回廊~展示棟を抜けた学習空間には、
真っ赤な花が飾られていた。
花が好きだった大拙は、特に牡丹の花が大好きだったのだそう。
そこから外部回廊へ、
まぶしい外光が射しこんできて、
「天の恵み」のように温かく感じられる。
旧い時代~新しい時代、
その時空をも超えるような・・・境地へと誘われる。
洗練された建物と、花鳥風月を眺めながら、
自然と心が和らいで、ホッと一息。
6. 工房 冬 「竹籠展」(金沢クラフト広坂:特設ギャラリー)
工芸の街と言われるように、金沢の街には、
工芸品を販売するお店が四方に点在している。
どのルートで回ったらいいか、悩ましく思うことも・・・
そんな時に便利な「金沢クラフトインデックスマップ」
83軒もの店舗、ミュージアム施設等が、
地図、写真付きでお店の紹介文とともに掲載。
「金沢クラフト広坂」
1階は、金沢の工芸品が販売。
お土産にも喜ばれそうな洒落た商品がディスプレイされ、
見ているだけでワクワクする。
特設ギャラリーのある2階へ。
工房 冬 「竹籠展」
(写真撮影可)
竹籠職人の榎本千冬・喜美子ご夫妻が主催。
漆の技術と木工の技術習得(輪島)して、
竹工芸~漆工芸に近い作品まで様々な竹製品を制作。
作家の喜美子氏によると、
竹篭には、質の良い真竹を使用(繊維の柔軟性や色艶が優れている)、
一般家庭で日常的に使うなら、約100年程度は長持ちするのだそう。
機能性と美しさだけでなく、
温もりと味わいある竹工芸。
その色あいは、時が経つとともに、
「青色」~黄色味を帯びながら「飴色」へ
そして、深く渋みをもった「焦げ茶」へ。
大切に使い続けるほど、その気持ちに応えてくれるかのように、
様々な表情を楽しめる竹の魅力を堪能。
7. 加賀友禅専門店「ゑり華」
広坂~商店街が並ぶ竪町エリアへ。
明治33年に創業
加賀友禅専門店「ゑり華」
1階は、着物お誂え~小物まで、様々な加賀友禅の商品を販売。
2階では「加賀御国染ミュージアム」を開催。(写真撮影可)
毎月、新しい独自の企画を
国内外の顧客に向けに発信しているとのこと。
(店内掲示物によると、来館者はヨーロッパ、
圧倒的にフランスの方が多いのだとか)
今回、店主の花岡さんより、
年代物の貴重な展示品について、一点一点解説いただき、
加賀友禅の意外な一面や興味深い話をお伺いできた。
「時代半衿展」
他にも、
新商品~地元のお食事処、お店のスタッフ紹介などが記載された
手作りのチラシ 月刊「華だより」が置いてあり、
気楽にコミュニケーションができる親しみやすい雰囲気があった。
海外展開にも力を入れているとのことで、
独自の企画や、このお店でしか味わえない
加賀友禅の魅力に触れることができる。
3. 現代アートと建造物を巡る
1. 金沢21世紀美術館
金沢の街は、伝統工芸だけではなく、
旧い街並みの中に、近未来的な建造物も自然と溶け込んでいる。
その象徴とも言える場所「金沢21世紀美術館」
ちょうど、「石川県立美術館」と二拠点で「美術展」が開催中だった。
地元の美術工芸品など、地域に根差した展示も多い。
今回は、企画展の現代アートを鑑賞。
展示作品だけでなく、斬新な建物も目を引く。
総ガラス張りの円形、地上2階、地下2階という構造で、
設計を手掛けたのは、
SANAA(妹島和世と西沢立衛による日本の建築家ユニット)。
そして、ここにもさりげなく、花鳥風月を感じさせる演出が。
コンセプトは「まちに開かれた公園のような美術館」
その庭には、著名なアーティストの作品が点在している。
館内からも、斬新なアートを体感できる。
2. 金沢駅
工芸品・芸術アートは、観光名所に限らず、
街の様々な場所で目にする。
世界で最も美しい駅14に選ばれた「金沢駅」のゲート
金沢の伝統と現代的なアートが融合したデザイン
そして、鼓門の前には「花装飾」の展示。
振り返れば、
噴水のライトアップとともに、デジタルボードのあいさつ!
伝統的なモチーフ、鼓門の木の温もりとアート・花装飾、
新しさや驚きのあるデジタル技術がつながる駅のゲート。
しかもデジタルなのに、どこか機械的でない手作り感がある。
(東京駅で見るプロジェクションマッピングのような
洗練された表現とは違って見える)
主役の鼓門の存在感と威厳を壊さない、
控えめな「おもてなし」の演出が温かい。
4. まとめ
金沢の街を歩いていると、
ふとした場所に「花が咲いている」
ふとした瞬間に「花鳥風月を感じる」
それは、自然のモチーフが、金沢の建造物や工芸品の中で
永く熟成されながら、人々に親しまれてきた背景があるからかもしれない。
一見関係のない、おもてなしのアイデアにも、
自然との調和がさりげなく表現されている。
使う人が心地よく感じられるようにという「受容の美」
工芸職人の心根とつながっているかのように。
(「受容の美」詳細は、前回Part1.の記事に掲載)
職人は、お金には代えられない永続的な価値を大切にする。
一方で、時代の波は、その想いとは関係なく動くことがあり、
そこに、商業的な問題もでてくる。
その弱点を補うかのように、街には人々の目を引く
目新しい建物やアートが自然に融けあって、共存し、
その価値を尊重しあい、寄り添いながら、
それぞれの個性を活かしているように思えた。
だから、金沢の街には、
本物の価値を求め続ける居場所がある。
その証拠に、それは今も、
街の至るところで息づいている。
<自作品紹介>伝統工芸品×フラワーアート
金沢巡りで得たインスピレーションから、
フラワーアートをお届けします!
■加賀名菓×フラワーアート■
■加賀友禅染風呂敷×フラワーアート■
(風呂敷:長町友禅館にて購入)
「結ぶ」よりも
「包む」「飾る」で上品に。
■加賀友禅「染額」×フラワーアート■
(長町友禅館 染色体験完成作品)
花鳥風月模様の加賀友禅染風呂敷を
フラワーアートとともに飾る。