花束のようなエッセイ集「モダンラブ」(本・自作品紹介)
✦本の紹介+自作エッセイを掲載しています✦
1.序章
「MODERN LOVE……」
そのタイトルに魅かれたのか
洒落たイラストの表紙に魅かれたのか
それは、一瞬の出会いでした。
「いくつもの恋 とっておきの恋
ニューヨーク・タイムズ掲載の本当にあった21の物語」
というサブタイトルが目に飛び込んできて、
本に吸い寄せられるように、ふと手に取り、そのままレジへ。
無意識のまま直観で選んだ本です。
その中身は、
NYタイムズ紙に掲載された新聞コラム(恋愛エッセイ)が
まとめられたエッセイ集。
Modern Love - Official Trailer | Prime Video - YouTube
実際、本を読んでみると、
「愛とは」というテーマ性が隠された作品も多く、
作家それぞれの人生観が感じられて面白い
恋愛ステレオタイプを超えた様々な愛の形に驚かされます。
2.エッセイ紹介<ネタバレあり>
人種の坩堝、アメリカの新聞社で編集された背景からか、
「それは現実のこと?」と言いたくなるような
日本では馴染みのない話もあります。
3つの章で構成
① どこかでだれかと ②恋は難しい ③あなたが大好き
3つの章には、各々7つのエッセイが纏められています。
(合計21の話)
最初の章は、「よくある恋愛+意外な展開」で親しみを感じ、
次の章は一転、「愛の苦悩」を抱える主人公に心動かされ、
最後は、「異次元の愛」へ誘うようなストーリーに驚かされ、
と、徐々に引き込まれるような構成です。
各章で特に印象に残った一つの作品をご紹介します!
①どこかでだれかと<ネタバレあり>
自分でも経験があるようなないような……。
よくある恋愛話+意外な展開に、親しみが持てるパート。
ドアマンは私の特別な人 著:ジュリー・マーガレット・ホグベン
頼れるの人(男性)は、身近にいる恋人ではなく、
自宅マンションのドアマンだった……。
軽薄な恋人とのすれ違いを鋭く見抜くドアマンの忠告をよそに、
妊娠してしまった主人公のマギー。
ドアマンの励ましやサポートを得ながら、
シングルマザーとして子育てをしていく決意をする。
まるでボディーガード?、友人?、父親代わりの存在?
付かず離れずの二人の関係は、マギーが転居した後も続く。
(感想)→日本ではどうだろう?
(そもそも、住居マンションでドアマンを見たことがない)
親切な管理人さんはいるけど、
毎日顔をあわせるとしても、ここまで親しくなれるだろうか……。
「愛は形じゃない」と、よく世間で言われることですが、
そのことを改めて感じさせられるストーリー。
ドアマンとマギーの関係に、真の温かさ(愛)を感じて、
じんわり心に沁みました。
② 恋は難しい<ネタバレあり>
一筋縄にいかない恋に翻弄される主人公たちの苦悩。
外から見れば分からないようなジレンマ。
それを乗り越えていく姿に勇気をもらえるパート。
ねえ、それは君のセリフじゃないよ 著:マテソン・ペリー
風変わりだけど魅力的な彼女
(主人公は、そんな刺激的な彼女を、僕の
マニック・ピクシー・ドリーム・ガール(映画のキャラクター)と称した)
同棲をし始めるも、親密でステディな関係を望む主人公と、
自由奔放な彼女との間にすれ違いが起こる。
それでも彼女との未来を信じて、英雄になろうと奮闘する主人公。
愛の手紙、花束で彼女を救おうとするも……
魅惑的な映画には続きがあることを悟る。
(感想)→こんなふうに苦悩を引きずる?
このエッセイを読んで、Official髭男dismの
「Pretender」(歌詞)が頭をよぎりました。
恋愛に軽薄な人も、一筋で真面目な人もいるけど、
実は、裏表が真逆だったり、はたまた、両方の顔を持っていたり……。
本当の姿や葛藤は、表面から見えないことも多い。
この作品は、そんな葛藤の裏側が、具体的に描かれていて面白い。
恋の経験(失敗)から学び、次に生かそうとする過程も
ユニークに語られています。
③ あなたが大好き<ネタバレあり>
異次元の愛の世界を見ているような感覚に。
だからこそ、すべての愛が肯定されたような包容力を感じるパート。
レースの終盤は甘やかに 著:イヴ・ぺル
主人公70歳、彼(サム)が80歳、あわせて150歳の
合同誕生パーティーで婚約発表。
離婚や死別を経験した後、年老いてから恋をして結婚を決めた二人。
他界した妻への忠誠心を持ち続けるサムに寄り添うように
ロマンティックなデートを重ね、幸せな日々を過ごす。
ある日、サムは天国へ
主人公は、二人で過ごした短い時間をふりかえる。
(感想)→真実の愛とは?
年老いても、愛を求める気持ちは変わらない。
それは、甘いのか、辛いのか、それとも……どんなものなのだろう?
年配の方のリアルな恋愛話など聞けないし、聞いたこともない。
それだけに、エッセイの中の老夫婦の関係に、驚きと感動がありました。
若い人と変わらないデート、もしかしたら、もっとロマンスに溢れている。
フォーチュンクッキーで愛を占うとか、
ワインとチョコレートと花を用意してとか…。
でも、その関係は、浮ついたところがなく、
お互いを尊敬している成熟した愛の形。
様々な人生経験を経て行きつく先の恋愛には、
ほろ苦い経験を積み重ね、昇華されたような幸せがある?
成熟したワインを嗜んだときに感じる
至福の恵のようなものなのかもしれない(妄想)
3.まとめ
愛が少し眩しく感じてしまうときでも共感できる
等身大で温かな作品の数々。
ロマンスある恋愛ストーリーというよりは、
(脚色の度合いは分からないものの)
新聞掲載エッセイとして、リアリティやテーマ性を感じる作品が多いです。
そして、なんと言っても、
米国発「年齢、性別、職業、価値観を超えた人生、愛の多様性」に、
触れることができます。
エッセイを読んで(書いて)感じたことは、
「どんな愛も、いつしか自分らしい花が咲いている」ということ。
その時はどん底だったり、不満に思っていた愛も、
形を変えて育っている。
振り返れば案外、
学びを得ていたり、ほのぼのした懐かしさに変わっていたり、
新しい出会いにつながっていたり……。
「モダンラブ」は、
愛に悩む・憧れるすべての人に光を照らしてくれる
さまざまな愛を花束にしたような彩り豊かなエッセイ集でした。
4.自作エッセイ(モダンラブ)
「モダンラブ」を読み進めるうちに……。
NYタイムズのコラムを想定して書いてみたい!と触発される。
そしてここに、
実体験に基づくショートエッセイを書くことにしました!
恋愛エッセイを書くのは、
初めてで、恥ずかしくもあります。
それほど経験が豊富でもない私が、なぜ書くのか?
その理由は、新卒入社間もない初々しかった頃の
忘れられないデートを印象的に記録しておきたい!
と密かに考えていたからです。
このエッセイは、
素の自分語りとか、刺激的な恋愛物語ではなく、
新聞コラムの「モダンラブ」風に書いたつもりです。
(注)
このエッセイは、時効と言ってもいいデートを蘇らせたものです。
(当時の精神年齢+平成眩しき頃の価値観で書いています)
今は、地に足がついた恋愛作品も多いですが、
時に、ふわっとしたエモさも新鮮!
ということで、清々しい恋愛観をお楽しみください。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
「初ドライブデートでお洒落して」
秋深まる土曜の朝。
柔らかい光射しこむ鏡の前で、
新しいワンピースに袖を通す。
華奢なシルバーのネックレスと指輪を身につけ、
いつもよりキレイめコーディネートを。
もちろん、特別なデートのために。
彼は、共通の友人を介して飲み会で知りあった、違う部署の同期。
話題に困ることはなかったけど、
職場では、多くをさらけ出せない緊張感もあった。
それにしても、20代前半の社内恋愛とは浮かれたものだ。
その頃の私は、恋愛を宝石のようなキラキラしたものだと思っていた。
雑誌で紹介された目新しいデートスポットを見つけては、
次のデートの場所をリクエストしていた。
でも、その日は違った。
付き合って1カ月半ほど経っただろうか。
初めて車を出してくれると言うから、
そのデートプランに身を委ねることにした。
「ピーンポーン!」
門の前に、晴れやかな表情の彼が立っている。
彼の元へと歩いていくと、視界に入ってくる目新しい物体。
「えっ?」
年季の入った薄ら白いコンパクトなスポーツカーが、
横たわっていた。
最近、全くもって見かけないタイプ(年代物)の……
「〇△■トレノ?」
「うん、兄貴のお下がり」
「お兄さんの……」
気の利いた言葉が見つからない。
「3時間かけて掃除したんだぞ~!」
と、どこか自慢気。
「すご~い!」
笑顔いっぱいの賛辞を贈るのは気後れしたけど
その功績を称えることにした。
そして、ワンピースの裾を手で押さえながら、助手席に乗り込む。
拭いきれなかったのだろう誇りっぽい燻香が漂ってきて、
とっさに、出掛けに擦り込んだ手首のアロマを鼻先に近づけた。
ローズマリーの香りで、いくらか匂いが中和される。
救われたのは、
すっきり片付けられた車内と、助手席の足元。
「兄貴汚くしててさー。廃車する寸前に、復活したよ。ハハッ」
そう笑った時の白い歯と、
使い古された車とのギャップが、不思議に感じられた。
お洒落してきた身だしなみへのコメントはもらえぬまま、
初めて目にするその車内の景色に……
「な・ん・で?」
次々湧いてくる疑問。
それを振り払うように、自分自身を納得させようとした。
① レンタカーじゃ駄目なの?
レンタカーなら掃除の手間がないし、最初からキレイだよ。
No No!→きっと、物を最後まで大切にする人なんだ!
それに、車をよく知らない私が口出しすることじゃない。
もしかしたら、値打ちあるヴィンテージ車かもしれないし。
② 自慢するポイントって掃除?
デートでは少しでも相手によく思われたいもの。
お洒落したり、カッコイイ車で登場して、相手の喜ぶ顔を想像する。
それを掃除に当てはめてみるも……理解し難い。
いやいや→きっと、掃除や修理が得意な人なんだ!
私ができないことができるのは、頼もしいこと。
DIYだって得意かもしれない。
③ ケチ or 節約家?
お金も大切だけど、TPOというものがある。
どこを節約し、どこにお金を掛けるかがその人のマネーセンスだ。
デートでそれを削るタイプなのか?
ブルブルッ→きっと、堅実な人なんだ!
それに、何か特別な計画があるのかもしれない。
本当の答えは何?
と、直球で投げかけたい衝動をゴクンと飲み込んだ。
なぜなら、彼もまた、リニューアルしたマイカーに
心躍らせているように見えたら。
「じゃあ、海ほたる行こか?」
この時ばかりは、思わず手を振り上げた。
そして、こんな光景を妄想した。
海ほたるのパーキングエリアを散策。
水面に向かって「幸せの鐘」を鳴らした後、
煌めくさざ波を見つめながら談笑。
ワンピースの裾をふわつかせながら写真撮影。
あの雑誌の中の恋人たちのように……。
20分ほど過ぎた頃、車は国道に入った。
ほぼ直線道路で、スムーズな走行。
助手席の窓を開けると、
柔らかな秋の風が頬をなでていく。
そうそう、ドライブはこうやって、
流れに身をまかせて、
外の景色を眺めるのもいいよね、と。
「ガッタン!」
突然、体が浮きあがった。
居眠り防止の障害物?
そのグワンと宙に浮く感じが心地よかった。
まるで、遊園地のアトラクションで助走し始める滑車が
最初の関門を乗り越えた瞬間のよう。
それは、アドベンチャーへの出発の鐘!
これから体験する夢のデートへの追い風のように感じた。
鼓動が高鳴っていく。
「ガッタン、ガッタン」
こんどは2回。
「お~っ、また来たか」
興奮していたのは私だけではなかった。
「ガッタン、ガタガタ、ガタガタ」
その響きは、微妙に変則的になった。
そして、徐々にその間隔が狭まっていく。
「ガタン、ガッタン、ガッタン……ガタガタ、ガタガタ……」
「あれ?おかしいね」
彼が何かを察した。
「うん、普通じゃないね」
ふいに背を正すと、
「ガッタガッタ ガタガタ ガッタガッタ」
それは緊急警報のように、不快な音をたてはじめた。
「これ、パンクだな。ちょっとヤバイ!」
と、覚悟を決めたようにハンドルを握り直す。
と、言っても、ここは国道の中央寄り車線。
どうする?
「ガタガタ ガタガタ ガタガタ……」
どんどん落ちていく車輪の速度。
だんだん増していく車体の音。
小刻みに揺れるゆがんだ視界に、為す術もない。
「もう、ここで止まるしか……」
弱気な彼の言葉に、
気安く首を縦に振れない事情もあった。
そのとき、赤い出光の看板が150mほど先に見えた。
一つ手前の信号は青。
とっさに、その看板に人差し指を向ける。
「あのガソリンスタンド入って!ハヤク!!!」
「ガタガタ ガタガタ ガタガタ……」
アクセル全開、ぐらつくハンドルを操作する彼に
タブーな言葉を口走る。
「炎上しない?この車」
「エッ?まさか、ソレはないでしょ。」
~ブ、ブブーーーッ!~
後ろからクラクションを鳴らされて
慌てて助手席の窓から手を上げた。
「今しかない!ハヤク左!ヒダリッ!」
車体は重々しく左に旋回。
「ガタガタ ガタガタ ダダダダ」
音はしだいに遅く、鈍く。
「ダダダダダッ ダッダッダッダッダッ」
「ダダダダダッ ダッダッダッダッダッ」
あと5m……
「突っ込めーーー!!!」
「ダッダッダッ!ガッタン!」
間一髪。
出光のゲートの端に、タイヤを乗り上げた。
「オーライ、ライ、ライ、ライ……」
ガソリンスタンドのお兄さんの手招きと掛け声が、
恐怖のアトラクションのフィナーレを告げていた。
その横顔は、こらえきれない可笑しさを
嚙みころしているようにも見えた。
でも、当事者の二人はそれ以上に可笑しい。
「あ~助かった~!ハハハハッ」と、安堵する彼に
私も吹き出し、車内に響く笑い声……。
「大丈夫ですか~!」
二人の世界に冷や水を浴びせるように、窓の外から声がして、
とりあえず、車から降りることにした。
お兄さんは、よじれたワンピースを見て、
「足元、気をつけてくださいね」と気遣ってくれた。
そして、その視線は
デート中に失態をおかした彼へと鋭く向けられる。
「そろそろ廃車にした方がいいですね」
彼の笑顔が萎んでいく。
結局、タイヤのパンクだけでは済まなかったようだ。
その日は、タイヤ交換の応急処置をして、
デートコースを、近くの公園に変更した。
「それにしても、あの時の絶叫、凄かったなー」
「え?」
「いつものイメージと違うからさー。ハハハッ」
そんなの当たり前だ!
こっちは、乗りたいとも思っていなかった
絶叫マシーン(廃車寸前の滑車)に乗せられたのだ。
未知の恐怖に挑むうちに、
おしとやかな猫のお面も、一瞬で吹き飛んだのだろう。
それだけではない。
憧れのキラキラデートもまた、一瞬のうちに紙くずになった。
それなのに、どうだろう?
全て洗い流された心に、受け入れ難い感情が芽生えていた。
「こんな風変わりなデートも面白い……」と。
まさか、それを計算しつくした
彼の演出だったのか……。
天才?
いや。
あのアトラクションの展開が予定されていたら、
このワンピースを見て、同情を覚えたはずだ。
これは、きっと偶然の産物。
状況が少しでも変わっていたら、私は恐らく機嫌を損ねていただろう。
① もし過去に同じようなアトラクションを経験していたら?
→もうそれほど心高鳴ることもなかっただろう。
むしろ、うんざりしていたかもしれない。
② 怪我をしていたら?
→怪我の度合いにもよるけれど、
ほろ苦い・苦い経験になっていただろう。
➂そもそも、あのハプニングがなかったら?
→それほどドキドキ、ワクワクすることもなかっただろう。
むしろ、年季の入った車ばかりが気になっていたかもしれない。
とにかく、「結果オーライ」ということにしよう!
海ほたるの眩いデートはできなかった。
ワンピースの出番はなかった。
それでも、記念すべき、初ドライブデートは
記憶に深く刻まれることになった。
友人達が幸せそうに語るお洒落なドライブデート。
雑誌や映画のようなロマンティックなドライブデート。
憧れはあったけど、そればかりじゃなかった。
無論、あの疑問の正体まで露わになった。
心を満たす宝石は、紙幣だけで買えるものではない。
そこにあるものは「希少価値」。
他にない風変わりなデートこそ面白い!
そんな新境地を切り開いた気分だった。
帰りがけの車の中。
サイドミラーに顔を映し、瞼をうつらうつらさせ、
私はまだ映画のヒロインを演じていた。
頭で思い描く理想と、心で感じる現実の狭間で足を止める。
「Coolな車って、どんな乗り心地……」
オレンジ色に染まるフロントガラスへと
目を向けようとした、その瞬間!
窓から勢いよく吹きつける向かい風が、瞼をさすった。
ふわりと舞うワンピースの裾を
慌ててショルダーバックで押さえると、
「ヒュルッ、ヒュルッ、ヒュルルル~」
秋の光に照らされた花柄の布先が、
音を立てながらはためいた。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
~Fin~