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足音が聞こえる。 私は振り返らなかった。振り返りたくなかった。ただぼんやりと窓際に立って、目の前の光景を眺めていた。手を伸ばすことはしなかった。虚しいだけだ。 「残念だったね」 声が聞こえた。私はようやく振り返る。仄暗い部屋の向こうであんたが私を見ていた。その視線が動いて、私の隣にあるものを捉える。違う、ないものを、捉える。 「逃げたのか」 「さあ」 私は短く答えて視線を戻した。真鍮の鳥籠が窓から差し込む光を反射して鈍く光る。昇ったばかりの朝日は、空の遠くで昨