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2020年2月の記事一覧

【小説】黒い鳥

 踊らせてくれませんか。  雨にずぶ濡れお稽古場の戸を叩いた女は、まずそんなことを言った。 「一曲でいいんです、一曲だけ、お稽古場を貸してほしいんです」  言いながら女がぶるりと体を震わせる。先生は慌てて女の腕をつかんで教室の中へ引っ張りこんだ。外はあんまり寒かった。  私たちは先生の後ろから女を観察する。まったく知らない顔だった。20代くらいの小柄な大人。黒いコートに黒いワンピース。黒いタイツに黒い髪。その髪からぽたぽた落ちる水滴が、彼女の足元に小さな水たまりを作り