ブームを呼んだ”スイカゲーム”の予期的UXのはなし
みなさんは”スイカゲーム”を遊んだでしょうか?私も9月の中頃に購入してハマり、今でもたまに遊んでいます。(最高スコアは3200弱…2連スイカは難しい)
2023年10月現在、すでにブームは収束に向かっているような雰囲気も感じますが、それでもSwitchのダウンロードソフトランキングでは堂々の一位を獲得していました。
今回は「なぜ多くの人がスイカゲームを買って遊んだのか?」ということをUXの観点で考えてみます。UX、特に予期的UXってなに?という人は、以下の記事も読んでみてください。
そもそも”スイカゲーム”とは?
このゲームを作ったのは「プロジェクター付き照明」で有名なAladdin X社。
元々はこの同社のプロジェクターに搭載されていた、いわば「おまけ」のようなゲームだったようです。それが2021年12月にSwitchのダウンロードソフトとして移植されてリリース、そこから2年の時を経て2023年9月にブームになりました。
ジャンルで言えば同じフルーツを繋げて進化させる「落ちものパズル」。先日このブームを受けて、任天堂の公式ホームページでスイカゲームについての記事を公開されていたので、どんなゲームか知らない方は以下の記事を参照ください。
流行したキッカケについてですが、ゲーム配信者の布団ちゃんが前述のAladdinのプロジェクターを所有されていて、そこでスイカゲームを遊ぶ様子を配信したのが始まりだったようです。
そこからしばらく期間が空き、同じく布団ちゃんが2023年9月の初旬にSwitch版を配信。そこから関係のあるストリーマーに広まっていって、加藤純一さんが遊んだことでブームに火が付いた、という感じ。
(自分も加藤さんの配信をたまたま見ていて、配信中に自分もSwitch版を購入、ダウンロードしてしまいました)
スイカゲームの予期的UX
遊んでみれば分かりますが、スイカゲームは落ちものパズルとして普通におもしろいです。
物理演算によりどう動くか予想が難しいフルーツの挙動
何度もリトライしてしまうワンプレイの手軽さ
ウデマエを分かりやすくフィードバックしてくれるスコアとランキング
プレイの邪魔にならずクセになるBGM
シンプルなゲームですが上記の要素もあって、ついついもう一回…と繰り返し遊んでしまう。つまりは単純にゲームの出来がよくて、遊んでいるプレイヤーに良いUX(一時的UX)を与えてくれるゲームだと思います。
とはいえ…「遊んだらおもしろさが伝わる」だけでは売れません。これは「使えば便利さが分かる家電」とか「食べればおいしさが分かる食べ物」とかも同じです。爆発的なブームが起こるにせよ、ジワジワ売れていくにせよ、消費者が自分でお金を払って製品・サービスを買う決断をするには、そこに至る体験=予期的UX(anticipated UX)があるはずです。
ではブームに至ったスイカゲームは、どんな予期的UXを提供できていたのか?
前述のとおり、スイカゲームのブームのきっかけにはストリーマーによる「ゲーム実況配信」が関係しています。ですが人気者が遊べばなんでもブームになるかというと、そうでもない。
ブームとなって広まっていくためには、別の要素があるように思います。
「俺にやらせろ!」と思わせるゲーム配信との相性の良さ
自分がスイカゲームのブームに一役買っていると感じたのは、ゲーム配信などで実際に他人のプレイを見ることで「ええい、俺にプレイさせろ!」というようなもどかしさ、じれったさを感じさせられる、という体験です。
スイカゲームは自分で遊ぶと意外と難しいのですが、シンプルなルールゆえに動画で見ている分にはとてもシンプルで簡単そうに見えます。
「なんでこんなに簡単そうなのにこの人は上手にプレイできないんだろう…自分ならもっと上手く遊べるのに!」という感情には、とても販売促進効果があると思います。
近年ネットでよく見かける広告、特に海外製のスマホゲームの広告に、わざとすごくヘタなプレイの様子を見せるという手法の広告を見たことはないでしょうか?(冒険者がお宝をゲットできるようピンを抜くゲームとか、
頭の上に攻撃力っぽい数字が浮かんでいてゾンビに立ち向かうゲームとか)
あの手の広告も、この「ええい、俺にプレイさせろ!」という感情を逆手にとって使っていると思います。
この手法、いろいろなところで結構使われていると思いますが、何かいい呼び名があったりしないのかな。(チーププレイショーメソッド、みたいな)
知っている方おられたら教えてください。
誤解を生まないように補足すると、上で名前を挙げたような有名な実況者の方は、だいたいが決してゲームが下手なわけではなく、むしろ平均的なゲームプレイヤーよりよっぽど上手な方がほとんどだと思います。
「シンプルで簡単なゲームのように見える(けど結構難しい)」というのがミソ。
とは言え…本当にめちゃくちゃゲームが上手な人が配信で遊んで高得点をたたき出してしまうと「すごいなぁ(ぼくにはとてもできない)」という感想で終わってしまって「ええい、俺にプレイさせろ!」に繋がりません。
このあたりは単純にゲームが上手な人だけでなく、ゲームが苦手な人であっても配信という形で製品PRにつなげられるというゲーム配信業界の面白いところだと思います。
運動神経ない芸人の野球の試合を見ても「ええい、俺に野球をさせろ!」とは、なかなかならないですからね。
つまらなかったとしても納得できる、価格受容性の高さ
もう一つ、消費者をスイカゲームの購入に踏み切らせた要因を挙げると、240円というお求めやすい価格設定があると思います。
簡単に言えば「つまらなくても別にいいや」と思える安い金額だった、ということ。
UXデザインやマーケティングの分野で使われる「価格受容性」という言葉があります。価格受容性とは、ユーザー目線で「製品・サービスの内容に対して、対価として支払うお金の金額(価格)が、受け入れられるかの度合い」です。
スイカゲームは、配信やSNSなどを見て想像する「製品・サービスの内容」に対して、240円という価格がかなりお買い得に見えた。言い換えると価格受容性がかなり高かったことも効いていたと思います。
とは言え、高くし過ぎると売れないし、安くし過ぎると儲けが出ないだけでなく逆に不審に思われることもあります(安かろう悪かろう、ということわざの通り)
製品・サービスを提供する側としては「値付け」は難しい工程です。これはまた機会があれば別の記事で…。
ということで、今回はスイカゲームの予期的UXの話でした。
もし「スイカゲームを遊んだことが無い」にもかかわらずこの記事を読んでくださった方がいたとしたら、それはあなたのスイカゲームの予期的UXのひとつになります。
ぜひぜひSwitchを持っていたら遊んでみてください。240円なのでね。
今回は以上です。ありがとうございました!
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