ChatGPTの実践的活用:広告代理店プロデューサーの日常事例
ChatGPT、面白いけどビジネスにはあんまり使えてないんだよね。
今回はそんな方向けの記事です。
とはいえ限定的な業界の限定的な業種の事例なので、参考になるやもしれず、ならないやもしれず。。。。です。
はじめに
ChatGPTをビジネスの現場でどう使えばよいのか?
どういったリスクに気を付けたら良いのか?
「プロンプト」がうまく書けない
今では膨大な数の記事、動画、ウェビナーが開かれていますよね。
あらかた一般論は出尽くしているかと思いますので、ここでは具体的な職種に限定してChatGPTを日々どう使っているのかをご紹介したいと思います。
その職種は「総合広告代理店のデジタルプロデューサー」です。
かなり限定的でしょ?
同業者の方や、これから入社・転職してみたいという方には参考になるかと思いますが、他業界の方は自分のお仕事に置き換えて読んでいただけたら幸いです。
そも広告代理店のお仕事とは?
まず初めに、そもそも「総合広告代理店のデジタルプロデューサー」がどんなお仕事をしているのかを簡単にご紹介します。
既にご存じの方は読み飛ばしてください。
まずもって「総合」と頭についている場合は、テレビ・新聞・雑誌・ラジオといういわゆる4マス広告と、インターネット広告、イベント、会議体などクライアント企業のあらゆるマーケティング活動を総合的に請け負う広告代理店の事を指します。
まあ、d社とかH社とかが有名ですよね。
対義語として「専業代理店」という言い方がありますが、こちらは多くの場合ネット専業代理店を指したりします。サイバーエージェントは初期はネット専業代理店でしたが、今ではご存じの通りテクノロジー総合企業みたいな感じで、もはや広告代理店と呼ぶのは相応しくないですね。
他にも専業代理店としては交通広告専門とか、ロードサイド看板専門とか、得意な媒体を専門とした広告代理店もあります。
では総合広告代理店の中でも「デジタルプロデューサー」は何をしているかと言うと、デジタル施策を中心としたマーケティングの企画・実施を統括しています。
総合広告代理店の仕事ですが、以前はTV広告が予算的にもコミニュケーション設計上も中心だったので、どうしても映像系出身のプロデューサーが全体統括をしていました。
その中の一部パート担当としてWebディレクターがスペシャルサイトの企画や、インターネット広告の企画を行っていました。
しかし、最近はマーケティングそのものがデジタル中心になってきたこともあり、「デジタルプロデューサー」がプロジェクトの統括をする場合も増えて来ています。
ちなみに広告代理店の中では、デザイナー/プランナー⇒ディレクター⇒プロデューサーという順番で偉くなっていきます。任される仕事も、お給料も上がっていきます。まあ資格試験があるわけでは無いので、フリーの場合は名乗ったもの勝ちみたいなところもありますが。
もう少し「デジタルプロデューサー」の役割を説明しましょう。
新商品のマーケティングプロジェクトが比較的イメージし易いかと思いますが、クライアント企業から新商品の概要とターゲット、ビジネスゴール、マーケティング予算などの情報を提供されるところから始まります。(これをオリエンテーション、オリエンと言います)
市場環境や競合情報などが提供される場合もありますが、それは鵜吞みにせずに自分達で調査して仮説を立てます。そうして検証した結果に基づいて、最も有効と思われる施策を提案します。(これをプレゼンテーション、プレゼンと言います)
提案内容は規模によっても多岐に渡りますが、ミニマムな例としてはデジタル広告のメディアプラン、クリエイティブ案、ランディングページ案あたりでしょうか。
見事クライアントからGOが出ると、次は実際の制作です。プロデューサー自ら広告を制作することは無く、部下や外部のディレクターを通して、デザイナーに制作指示を出します。メディアの手配も専門のプランナーに指示を出し、枠の買い付けや広告管理画面への設定を行います。
広告やランディングページのデザインが上がってきたら、それに解説を加えてクライアントにプレゼンします。(ここでのウンチクが結構大事)
広告を出稿してからは、広告のインプレッション数やクリック数、ランディングページでのコンバージョン数などをウォッチしながら、うまくいってないところは改良を加えたり、導線を変更したりしながら効果を高めていきます。
以上が一番シンプルなお仕事の流れと「デジタルプロデューサー」の役割ですが、最近では仕事の領域がどんどん広がっています。
例えば営業ツールの企画・開発、企業向けWebサービスの企画・開発。
このあたりになってくると開発会社との連携が欠かせなくなってくるので、Webディレクターよりも一歩踏み込んだ専門知識とスキルが必要になってきます。ビジネスコンサルやシステムエンジニアなど、多方面のプロとチームを組むことも増えてきますので、双方の知識レベルを揃えるのも重要です。
さらに最近では、新規事業の企画や実際のPoCなどもやります。
PoCというのは「実証実験」みたいなニュアンスで使われることも多いコトバですが、本来的には「コンセプトの検証」が目的です。この新事業のコンセプトは有効なのか?可能性は見込めるのか?といった事を、小さなレベルで市場投入して期待値を確かめたりします。
単にスマホアプリの企画をするだけではなく、そもそものビジネスモデルの提案から、マネタイズ設計、業務運用設計まで幅広くカバーする必要があります。
まあ、そもそも広告代理店自体が「なんでも屋」ではあったのですが、それがどんどん周辺業務に広がっていっており、中でもデジタルの領域は広がり過ぎて、今やどんなプロジェクトもデジタル要素無しではあり得ません。
ここ数年は「DXブーム」もあって、総合広告代理店も「デジタルを使った新規事業/業務改革」なんかのプロジェクトに積極的なので、ますます「デジタルプロデューサー」の出番は増えています。
1つ知っておいていただきたいのは、プロデューサーのお仕事は「世に出すことがお仕事」という事です。企画だけ、PoCだけではダメで、キッチリ事業やサービスを世に出して、さらには軌道に乗せるまでの責任があります。
日頃どんな事をやっているの?
さて、だいたいのお仕事を分かっていただけたと思うので、次は日々の業務タスクについてご紹介します。
ここでは以下のお仕事をざざーっと簡単にご説明します。
ChatGPT以前はどうだったかを説明した後に、ChatGPT以降はどう変わったのかをご紹介していきます。
これまではどうしてた?
まず先にChatGPT以前はどんな仕事の仕方をしていたのかご紹介します。
●アイディアフラッシュ/ブレインストーミング
・白紙の紙に思いついたキーワードをガンガン書いていく
・ホワイトボードに皆で書き出す、ポストイットを貼っていく
・マインドマップやマンダラートを使ってアイディアを発散させる
・とにかく散歩する、瞑想する、お香を焚く、その他etc.etc.
※心に余裕がないとアイディアって出てこないんですよねw
●サービス設計書/事業計画書
・アイディアを伝えて外部のデザイナーさんにワイヤーを書いてもらう
・上がってきたものにアレコレ文句をつけて数回やり直してもらう
・うまくいけば見栄えの良い資料はできる
(が、中身の機能が破綻している場合も多々ある汗)
・クライアントに提案してダメ出しされる
(1か月の苦労は何だったんだとやけ酒を飲む⇒振出しに戻る)
●プレゼン資料
・ストーリーをNotionやメモ帳でツラツラと書く
・上司に相談したり、チームに相談したりしてストーリーを作り直す
・ストーリーを元にパワーポイントでスライドを作る
・必要なデータや図表を集めてストーリーを補強する
・と、ここで頼んでおいたデザイン画が上がってくる
(が企画とデザインがズレててやり直し爆)
●調査/リサーチ/分析
・ネット検索で経産省やら調査会社やらのデータを探しまくる
・いい感じのデータが見つからない場合は調査会社に調査を発注する
・ユーザーインタビューやグループインタビューをして声を集める
・集めたデータを使ってSWOT分析やら3C分析やらアレコレ考える
(気が付けばデータに埋もれ初期の仮説を見失い路頭に迷う・・・)
●コーチング/アドバイス
・ベテラン社員に同行して知恵やノウハウを盗む
・ベテラン社員の提案資料を読み漁って真似る
・ベテラン社員に教えを乞う
(が、たいていベテラン社員は超忙しい)
・たまーに上司が良いアドバイスをくれる
(が、たいていは放置プレイで納期と予算のチェックだけ厳しい)
●ネガティブチェック
・プレゼン直前に社内有志を集めて資料のチェックをしてもらう
・会社の法務部や企業弁護士に見せてコンプラチェックをしてもらう
(たいていものすごーく時間がかかる)
・会社の情報システム部門に相談してチェックをしてもらう
(ちゃんとした会社ならガイドラインがあるはず)
他にも色々ありますが、主だったところはご紹介できたかと思います。
(途中ところどころ脱線してるのはご愛嬌ですw)
ChatGPTでどう変わった?
では、ようやくここからはChatGPTを使って先ほどの仕事がどう変わったのかをご紹介します。
(前半パートから読んでいただいた方、お待たせしました!)
●アイディアフラッシュ/ブレインストーミング
・ChatGPT相手に壁打ちをする
・「あなたは優秀なビジネスコンサルです」という役割を与えて、
・「○○というテーマでアイディアを10個出して」
・「3番のアイディアをさらに膨らませて」
・「各アイディアの独自性と実現性を説明して」
・「期待効果を5段階で評価して」
などなどアイディアの発散と収束を行います。これが一番便利。
●サービス設計書/事業計画書
・ChatGPTにガイド役をさせながら内容を詰める
・「サービス設計書に必要な要素は?」と聞いて目次を作る
・目次に沿って対話しながら各章の内容を深堀りしていく
・「○○にはどんな情報が必要?」と聞いて肉付けしていく
これは常に伴走してくれるコーチがいるような感じです。
●プレゼン資料
・ChatGPTに「優秀な広告代理店プロデューサー」という役割を与える
・「○○という商品を提供しているAという企業に対する提案書を作成」 ・「プレゼンテーション用の骨子を書いてください」
・「各スライドには魅力的なタイトルと分かりやすいリード文を」
・最後に「マークダウン形式」で出力させてパワーポイントにコピペ
勝手にスライドを作ってくれる「Gamma」というサービスもあります
飾りつけはどうとでもなるので、大切なのはロジックとストーリーです。
●調査/リサーチ/分析
・これはChatGPTよりもBingやGoogle Search labを使います
・「○○という企業(または商品)について概要を教えて」
・「企業(商品)分析のためのフレームワークを教えて」
・「3C分析して」「7P分析して」「SWOT分析して」
・「分析結果を表にまとめて」
調査にはネットサーチができて参照元を確認できる事が重要です
分析においては、分析のフレームワークを指定することが有効です
●コーチング/アドバイス
・「あなたは優秀なビジネスコーチです」という役割を与える
・「今から私の悩みに対して励ましつつアドバイスをしてください」
これはプチカウンセリングにも使えますね。
ポイントは明確な役割を与え、優秀なモデルケースを伝える事です
●ネガティブチェック
・こちらもChatGPTに役割を与え、作成した資料をチェックさせます
・「あなたは優秀な法務担当者です」
・「あなたは個人情報保護法に詳しい弁護士です」
・「以下の文章で炎上するリスクがある箇所があれば指摘して」
・「以下の文章で誤字脱字があればチェックして修正して」
即レスだし、何度でも嫌がらずに相手をしくれるのが良いですね
こんな感じで、ChatGPTを使うようになってからは、仕事の仕方がガラリと変わりました。元々コロナの影響でリモートワークが進んでいたことも関係あると思いますが、かなりの部分まで自分一人で完結します。
どれだけ無茶振りをしてもキレないで回答を出してくれるChatGPTを使い倒して、一人で何役もこなしながら爆速でアウトプットまで持っていく事ができるようになりました。
もちろん、ChatGPTの出力したテキストをそのまま使う事はありません。そこは自分と提案する相手との関係値を考慮しながら書き直しています。
ただ、そこに至るまでの過程が劇的に変わりましたね。以前の仕事の仕方にはもう戻れません。
結果、気持ちに余裕ができました
こうして10か月あまり、ChatGPTを毎日仕事で使ってきましたが、今現在の感想として一番お伝えしたいのは「気持ちに余裕ができた」という点です。
以前であれば、何か新しいタスクが与えられたり、新しいプロジェクトにアサインされたりすると、「ヤバい、自分にできるかしら?期限までに間に合うかしら?」と内心アセアセしながら仕事を引き受けていたのですが、今は「とりあえずChatGPTに相談すれば何とかなるだろ」と思って安心して仕事を引き受けるようになりました。
別の言い方をすると「なにもアウトプットを出せない恐怖が無くなった」という感じでしょうか。プロデューサーと言うのは、常に何らかのアウトプットを求められます。さらに、「世の中に出ている情報は全部知ってる前提」で、「世界にまだ存在していない新しいアイディア」の提案を求められます。これ結構シンドイんですよね。
がんばって用意してクライアントに提案したら、「その情報古いよ」と指摘されたり、これは斬新だぞと思って提案したら、「他社が既にやってる」と言われたり。そういう冷や汗タラタラな経験を過去何度もしてきました。
もちろん十分に調査しなかった自分の責任なのですが、時間が無かったり、お金が無かったりでエイヤと提案をまとめてしまう事がありました。
しかし今は、ChatGPTやBingやGoogle Search labを使えば、少なくとも世の中の人が知ってる事(≒ネット上に転がってる情報)はできるし、「○○のプロ」相当の知見を使った分析やチェックができます。これは個人の能力を強力にサポートしてくれるパワードスーツみたいなものです。
「世界にまだ存在しない新しいアイディア」だけはAIからは出て来ませんが、少なくとも「それ他にあるよ」という事は確認ができます。そういった既知のアイディアが確認できるなら、そこから逆のアイディアを発想していくことができます。これだけでも、かなり強力なサポートになります。
ただし、1つ注意が必要なのは、「そういう情報があるはず」「そういうプロがいるはず」という事が想像できるだけの予備知識が必要です。例えば今回ご紹介したように、総合広告代理店という業態があって、デジタルプロデューサーという仕事があって、こんなタスクやこんな資料があって、という事を知らないとプロンプトが書けませんよね。
また「3C分析」や「SWOT分析」といった考える際のフレームワークを知らないと、これまたプロンプトが曖昧になってクリアな出力が得られません。なので、勉強しなくて良いという事ではない、という事を添えておきます。
まとめ
今回は「総合広告代理店のデジタルプロデューサーの仕事」でChatGPTをどう使っているかというお話しでしたが、こうして書いてみると、その他多くのホワイトカラーのお仕事にも応用できそうかもな、と思いました。
未知のテーマに取り組むとき、「ChatGPTがいつでもどれだけでも相談相手になってくれる」という安心感があると、今までよりチャレンジングに取り組めますし、実際想像以上にアイディアや解決策が出てくるものです。
そうなると嬉しくなって、もっと新しい事にチャレンジしたくなる、次のお題が楽しみになる、そんな好循環が生まれてくると思います。
今回の記事が、あなたの普段のお仕事に少しでも応用できたら嬉しいです。
「生産性」なんて冷たいコトバでは無くて、「気持ちに余裕ができるツール」だと思って、もう一度ChatGPTに向き合ってみてはいかがでしょうか?
おまけ
これはおまけの感想なのですが、ChatGPTの回答は教科書的な模範解答に成りがちです。もちろん客観的な分析や評価にはその方が良いのですが、新しいアイディアや斬新な切り口を見つけようと思うと、プロンプトに工夫が必要な気がします。
今でも十分に創造的ではあるのですが、膝を打つような、「エウレカ!」と叫んで風呂から飛び出すような新しいアイディアは今のところChatGPTからは出てきていません。(私の場合は、ですけど)
そんなときは、ChatGPTを使って空いた時間でのんびり散歩でもしながら、アイディアの天使が舞い降りるのを気長に待つという、古来からの奥義を試してみましょう。
「ごらん、世界はこんなにも美しい」なんて気分で。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。 またお時間ある時にでも立ち寄っていただけたら幸いです。