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紫砦と石の竜 【竜の仔の物語−序夜異譚−】

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世代を繫ぐ戦いと希望の話。【完結済】
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紫砦と石の竜【縦書き版】

紫砦と石の竜【縦書き版】

こんにちはギーの代筆者ナマケモノです。

かねてよりベラゴアルドクロニクルの「縦書き版」を制作していまして、その第五弾となります。現在の公開バージョンに加筆、修正、ルビ表現を加えての【完全版】となっております。

とはいえ縦書きをnoteさんで公開するのは不可能なので、ファイルのアップロードという形になります。

因みに第一弾、「小鬼と駆ける者」はこちら↓

第二弾、「妖精王の憂鬱」はこちらでダウ

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紫砦と石の竜 −その1

紫砦と石の竜 −その1

ベラゴアルド年代記竜の仔の物語 −序夜異譚−

 ドライアド諸島から北東、モレンド大陸に位置するその砦は、レムグレイド王国において重要な防衛の要である。

 そこは通称、「紫砦」と呼ばれている。礎から擁壁まですべての石積みに砕いた紫水晶が塗り込められていることから、そう呼ばれているのだ。詳しい理由を知るものはいないが、それは神話の時代において、大魔法使いガールーラにより魔物除けとして考案され、砦に

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紫砦と石の竜 −その2

紫砦と石の竜 −その2

 「いやはや、驚いたぞ」

 手弓を操る子どもの隣で、ギジムが深いため息を吐く。

 「こんなこともできるよ」

 ストライダ見習いのミルマはそう言うと、弓弦を引き、立て続けに矢を三射ほど放つ。矢は的のど真ん中に命中し、次の二射が最初の矢の矢羽根をこそげ落とすほどすれすれの所に突き刺さる。

 「やー!」ドワーフは大喜びでミルマの肩を抱く。

 「たいしたもんだ!おれの兄貴も弩弓の名手だが、お前に

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紫砦と石の竜 −その3

紫砦と石の竜 −その3

 「どうやらマリクリアは役に立っているようだな」メチアが巨大な矢を持つソレルに向かって言う。

 「ドラゴンに効くかはわかりませんがね」

 「ああ、どこぞの闇落ち魔法使いが使うよりもずっと有用な使い方だわい」ギジムがそう言うと、メチアと二人のストライダが同時に睨む。「おおっと…しまった、」メチアの背後にミルマも来ていることに気がつくと、彼は目線だけで皆に謝る。

 昨夜メチアから聞いた話。マリギ

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紫砦と石の竜 −その4

紫砦と石の竜 −その4

 朝陽に輝く紫色の砦から兵士たちが顔を出す。響きわたる角笛とともに皆が海を見つめる。

 ソレルが西の物見台を見ると、メチアが水平線を指差している。その指先から光の線が真っ直ぐに伸び、海原の一箇所を照らす。

 朝陽に照らされた薄紫色の海に黒い影が見える。物見台のメチアが鷹となり飛び出す。

 「矢を装填しろ!」シンバーが叫ぶ。

 ソレルがバイゼルの隣に飛び移る。下を覗き込むとレザッドもこちらを

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紫砦と石の竜 −その5

紫砦と石の竜 −その5

 紫砦から最後の矢の準備が未だ整わないことを確認すると、ソレルはひと呼吸置いて走り出す。その両手にはマリクリア鋼の塗り込められた、太く重い矢が握られている。

 「まさか矢を槍の代わりに使うことになるとはな」そう独りごち石の竜へと走る。

 レゾッドの攻撃がどれほど効いているのかは分からぬが、この期を逃すわけには行くまい。策はまるで無いが彼は敵に向かい、とにかく矢を竜の首元深くに突き刺すことだけを

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紫砦と石の竜  −終話

紫砦と石の竜 −終話

 石の竜が沈黙し動きださないことが分かると、壁の上で兵士たちが歓喜の声を上げる。ソレルとバイゼルは用心深く近寄り、その後ろからミルマが弓を構えてにじり寄る。

 竜はまだ辛うじて息をしている。腹からどろどろの赤黒い血がとめどなく溢れ、砂地を汚している。瞳も瑠璃色に戻ってはいるが、以前よりもかなり濁った色合いをしている。

 ソレルがミルマの放ったとどめの矢を抜き取り、鏃を確認する。

 「やはりマ

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