せめてライカと望遠を
M型ライカに 135mm を超える望遠レンズは存在しない 。
理由は簡単だ。
50m 先にある電柱の先端に付けられた小さなネジ頭の、十字に刻まれた溝がどっちの方角を向いているかなんて、肉眼で確認できる人など存在しないからである。M型ライカのファインダーは素通しのガラス。どんなレンズをつけようが見え方は変わらない。ましてやファインダー倍率は 0.72~0.73 倍である。1.4 倍の接眼レンズをセットすることで、ようやく肉眼と同じになる。そんな状況のなかで十字溝の方角が確認できる人がいるとしたら、フル・フロンタルの言葉を借りれば「それはもう、人ではなくなっているのではないかな」。
遠距離のモノにピントを合わせることができない。
だから、M型ライカに 135mm を超える望遠レンズは存在しない。
また、レンズ後方にあるカムとマウント内部にあるコロを接触させることによってレンズのピント位置とボディの距離計を連動させるその構造上、M型ライカにはズームレンズも存在しない。
ピントリングの回転角が焦点距離によって大きく変化する以上、ひとつのレンズの鏡筒内ですべての焦点距離に対するレンズ後方カムの繰りだし量を調整する仕組みを組み込むことなど、できようはずもないのである。
だからこそ、M型ライカには中望遠までの単焦点レンズしか存在しない。
ところが、2013年、M (Typ240) の登場によってこの状況が大きくとって変わることになる。
CMOS センサーを搭載することでライブビュー撮影を可能とした 2013 年以降のM型ライカは、事実上のフルサイズミラーレス機である。背面液晶もしくは電子ビューファインダーを使うことによって、距離計連動を気にすることなくさまざまなレンズを使いこなすことができる。それには当然、135mm を超える望遠レンズもズームレンズも含まれる。ならば、フルサイズミラーレス機にできてM型ライカにできない道理など、ないに等しいではないか。
いや、ここで「フルサイズミラーレス機でできるんなら、わざわざM型ライカでやることなんかないじゃん」などとは、けっしてけっして思わないでいただきたい。心の中で思っていても、せめて気づかないフリをしてくださいねお願いします。じゃないと、その瞬間にこのネタの存在意義そのものがふっ飛んでいってしまいます。そこのあなた、ダメだと言ってるじゃないですか。(´;ω;`)ウゥゥ
さてさて気を取り直して本題である。
現在、私の手元には Canon のズームレンズ EF70-300mm F4-5.6 IS II USM がある。これを Leica M (typ240) にくっつけて望遠撮影ができないものか、と話の都合上一応は考えてみる。考えるまでもなく、答は否である。絞りもフォーカスも完全電子制御であるこのレンズは、電気を流さなければただの壊れた単眼鏡になりさがる。ダメだ使えない。
そうして私は、うんとこさ安くてほどほどに程度がよいマニュアルフォーカスな中古の望遠レンズを、オークションサイトで探しはじめるのである。
数日後、私の手元に届いたのはタムロンの「SP 60-300mm F/3.8-5.4 Model 23A」というレンズ。3,000円ほどで購入した。
焦点距離 60mm~300mm の望遠ズームレンズである。
ズームは直進式で、開放 F値はワイド端で 3.8、テレ端で 5.4 。焦点距離によってF値が可変するタイプのレンズである。
最短撮影距離は 1.9m だが、面白いことにこのレンズは「MACRO」と刻まれた2つの指標を合わせてひょいとひっぱると 最大撮影倍率 0.64 倍(1:1.55)のなんちゃってマクロレンズに変貌する。
ハーフマクロが 0.5 倍だからそれよりも大きく写せる計算だ。
マウントは数種のマウントにごっそりと交換できるタムロンの「アダプトール2」。
私が入手した個体には Canon の FD マウントがついていたので、手持ちの FD-L/M アダプターをくっつけて M (typ240) と接続する。
繊細なピント合わせを要求されるので、電子ビューファインダーも必要だ。
これにて準備完了。
いざ尋常に勝負、である。(私は何と戦っているんだろう?)
撮影はもちろんテレ端でおこなう。
ホントに 300mm で撮れているかを確認するため、Canon の EOS R6 に EF70-300mm F4-5.6 IS II USM をくっつけて、同じ構図で撮影してみる。
以下はその結果である。
うん、当たり前だけど、ちゃんと 300mm で撮れている。
解像度も 1983 年に発売されたレンズとしては上々だろう。ピクセル等倍で比較しても、どっちがどっちだと言わなければ、画を見ただけではどっちがどっちだとわからないのではないだろうか。おそらくはたぶん。
ホントは同じF値で撮りたかったんだけど、ピントリングをこねくり回しているうちにどうやら絞りリングに手を触れたらしく、撮影後に絞りを見たら変わっていました、ごめんなさい。
この画もほぼ変わりがないのだけど、樹皮の解像度は Canon のレンズのほうがちょっとだけ上に見える。
うん、どちらもキレイに撮れている。M (typ240) での撮影でシャッタースピードをあげているのは、なにぶん手ぶれを恐れたせいである。手ぶれ補正なんて便利な機能、ついてないもーん。
そして最後の比較は、こちら。
レンズの性能差が如実に出ちゃいました。
EOS R6 で撮ったほうはクレーターの輪郭がハッキリと確認できるが、M (typ240) で撮ったほうはかなりぼやけている。
原因はわかっている。
TAMRON SP 60-300mm F/3.8-5.4 Model 23A は無限遠付近のフォーカスが極めて甘いのだ。5m~10m までの回転角より 10m~∞ までの回転角のほうが狭いんだもん、キッチリとカリカリにピントが合わせられるわけがない。
ともあれ、M型ライカ でも十分に望遠撮影ができることはよくわかった。
ちなみに、なんちゃってマクロレンズである TAMRON SP 60-300mm F/3.8-5.4 Model 23A では、こんな撮影も可能だ。
すべて 1/125 F3.8 ISO-400、最短撮影距離で撮っている。
といったわけで今回の記事はこれで終了である。
フルサイズミラーレス機でできることは、M型ライカでもできるというのが結論だ。もちろん、手間ひまをかけずにやるならフルサイズミラーレス機でやったほうがいいに決まっている。だけど、それを言ってしまうと、その言葉はM型ライカの存在自体にもグサりと突き刺さってしまうんである。
だから
M型ライカで撮るのが楽しいんだから、不便だろうが手間がかかろうがどうでもいいじゃん、というのがワタクシめの結びの言葉である。
せめてライカと望遠を。
どうか私とワルツを。
……さーて、お次はマクロ撮影かしらん。笑