Leica M、背番号のないライカ
Messsucher。
距離計を意味するドイツ語の、最初の1文字がつけられたライカ それがM型ライカです。
1954 年に発売された最初のM型ライカは、レンズにあわせた3つのフレームがファインダーに出ることから「M3」と名づけられました。後に登場した M2、M1 につけられた数字はフレーム数とは無関係で、単に1ランクダウンを意味するものでした。M3 から1を引いて M2、M2 からさらに1を減じて M1 といったように。
数字が「後継機」の意味をもったのは 1967 年に発売された M4 からで、以来、M5、M6、M7、M8と続いていきます。
しかしながら M9 のあと、2013 年に発売されたM型ライカはナンバーをもっていません。
「今後、M型ライカの名称は『Leica M』に統一し、タイプナンバーをもって製品名とする」
ライカ社はそう公言しました。
M型ライカの新時代 CMOS センサーを搭載した新しいM型ライカ。その記念すべき初号機である Leica M (typ240) はこうして誕生しました。今からちょうど10年前のことです。ナンバーをもたないM型ライカの登場は、その後もずっと続いていくと、誰もがそう思っていました。
ところが、です。
2017 年、ライカ社は舌の根も乾かないうちに「M10」を発売します。
「……あれれ? ナンバリングやめるって言ったじゃん」
「うん、言ったよ。だけどやめるのやめたんだ 」
ライカ社は嘯きます。
「 だってさ、『M』と呼んでほしくて『Leica M』って名前にしたのに、みんな『M240』って呼ぶんだもん。ナンバーつけてるのと同じじゃん」
「じゃ、じゃあ M と M10 との関係性は?」
「ふたりは並列の兄弟ってところだね。だってそうだろう? M9 も M10 も動画を撮影する機能なんて持っちゃいないんだぜ 」
かくしてナンバリングは復活し、2022 年には「M11」が登場するに至ります。
ボディ正面に「M」と大きく刻印され、ナンバーを与えられなかったM型ライカ。
M9 のあとに登場したにもかかわらず、正統な後継者の座を M10 に奪われてしまったM型ライカ。動画撮影機能を持っているがゆえに異端児扱いされてしまった悲しいM型ライカ。
『Mの悲劇』と呼ばずして、これをどう表現すればよいのでしょうか(夏樹静子さん、ごめんなさい。貴著のタイトルお借りしました)。
私の持っている Leica M (typ240) は、そういう悲運のライカなのです。
Leica M (typ240) を購入した経緯については下の記事をお読みいただくとして(なにとぞお読みくださいまし)、
ここでは、その外観を見ていくことにしましょう。
LED による内光式のブライトフレームが採用されたため、それまでM型ライカの正面にあった採光窓は廃止されました。背面には十字キーと6つのボタンがならびます。他社のデジタルカメラと違っていたってシンプルです。それもそのはず、機能も声高に叫びたいほど十分シンプルですから、当然といえばそのとおりです。(後に発売された M10 では、ISOダイヤルが搭載されたことから ISO ボタンも省略されました。)
CMOS センサーの搭載によってライブビュー撮影が可能となったことから、6つのボタンのいちばん上にはファインダー撮影とライブビュー撮影を切り替えるためのボタンが新設されています。もっとも、私はあまりライブビュー撮影をしないので、設定メニューでライブビューをちゃっかり無効にしています。
だって、ライブビュー撮影だとどうしてもシャッター幕がいつも開いてる状態になるじゃないですか。これだと幕が二往復するのでシャッター音は汚いわセンサーは無駄に汚れるわで、良いことはほとんどありません。ライブビューを無効にしていても電子ビューファインダーをくっつけての撮影はできるので、LV ボタンをいじることはほぼほぼ皆無です。
92万ドットの背面液晶は、ファインダー撮影でシャッターを切った後の画像確認のためだけに使っています。他のデジタルカメラでも背面液晶はほとんど使いませんから、それが動こうと動くまいとチルトだろうがバリアングルだろうが、背面液晶の性能は私にとってはわりと「どうでもいい」ことだったりします。
M型ライカにして唯一動画撮影が可能な Leica M (typ240) の REC ボタンは、軍艦部の右端に申し訳なさそうに坐っています。
そうです、ごく控えめに小さく「M」と横に刻印されたそのコです。
Leica M2 をお持ちの方ならおわかりだと思いますが、このボタン、M2 のフィルムカウンター脇にあるボタンと位置も大きさも似ています。ロマンです。ニヤリとしたくなります。素朴な意匠の継承は大歓迎です。もっとも、自慢ではありませんが、ワタクシ、このカメラでいちども動画撮影したことはございません。はい内緒です。
28mmから135mmまでのブライトフレームを搭載したファインダーの倍率は0.68倍。M型ライカの標準となっている 0.72~0.73 倍より、少し小さい数値になっています。
寄る年波に勝てない私は、ですから通常、1.25 倍の接眼レンズをくっつけて使っています。これで 0.85 倍になります。見やすいです。寄る年波に勝てない私でも気軽にファインダーを覗くことが……って、ちょいとそこのアナタ、いったい誰が年寄りですって? ヽ(`Д´#)ノ
M11 では廃止されてしまった底部のフタをあけると、なにやら怪しげな端子が装備されています。
実はこれ、別売された「マルチファンクションハンドグリップM (14495)」を接続するときに使う端子です。このグリップをつけることによって、Leica M (typ240) には外部電源端子、フラッシュ端子、USB接続端子などが追加されます。新品のお値段はなんと11万円です。カメラ買えます。とてもじゃないけど、そんなお金は出せません。
なので、私が使っているのはいたって普通の、なんの機能も追加されないタイプのハンドグリップM (14496) です。これでも新品だと35,000円くらいします。日本のオークションサイトではいいものが見つからなくて、eBay で中古で買いました。送料込みで 12,000円くらいだったと思います。
M型ライカ本体の形によせた充電器の形も、私のお気に入りです。
端子もちゃんと4本あります。
これはどのデジタルカメラでも言えることですが、安く売られているサードパーティー製の充電器の多くは端子が2本しかくっついていません。「+端子」と「-端子」ですね。こういう充電器は使わないほうがいいです。というか、怖くて使えません。「温度異常」と「セル異常」に対応できないんですから、何かあったときに燃えます。外出中だとおウチまで燃えます。怖いです。ご注意ください。
シャッターボタンの中心にはネジ溝が切られていますから、昔ながらのケーブルレリーズも使えます。
だけどライカですから……あまり使う方もいらっしゃらないかと思います。いやいや、使っちゃダメなんてことはないんですよ、使えるんですから。
だけど、ライカですから。
さて、私がこのカメラで使うレンズはといえば、通常ですと
35mm なら
Leica Summaron 35mm F3.5 (L39)
Voigtländer NOKTON Classic 35mm F1.4 II SC
50mm では
Leica Summicron-M 50mm F2.0
90mm だと
Voigtländer APO-SKOPAR 90mm F2.8
Leitz M-ROKKOR 90mm F4
あたりになります。
ライブビュー撮影にすれば距離計連動とは無関係になりますから、マクロレンズからズーム、望遠レンズにいたるまで何だって使えます。
それらのレンズをくっつけて撮った写真を何枚かご覧いただいて、この記事を終わりにしたいと思います。
ライカ社による一時の気の迷いによってナンバリングがなされなかったM型ライカ Leica M (typ240)。
けれども背番号のないライカは、背番号のないエースでもあるのです。
だよね、タッちゃん。(誰よ?)