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夜明けのすべて 瀬尾 まいこ

好きな作家さんは?と聞かれた時の答えはいつも、ずっと、瀬尾まいこさんです。

激しい展開はないのに、最初から最後までおもしろい、いつまでも物語が続いてほしい、と思う本を書いてくださいます。


あらすじ

藤沢 美紗 28歳  PMS(月経前症候群)
山添くんが発作を起こす姿を見るまで、彼がパニック障害だったことにまったく気づかなかった。どうして私は簡単に、彼のことをやる気のない人間だと、決めてかかっていたのだろう。山添 孝俊 25歳 パニック障害
PMSよりパニック障害の方がつらいに決まっている。いや、はたして、本当にそうだろうか。僕はPMSどころか、生理のことすら知らない。実際は想像以上にしんどいのかもしれない。





わたしも病気で悩んでいた時期があったので、共感してもらえるような気持ちになって、自分の中で、宙に浮いていた虚しさが溶けていくような安堵感がありました。

何をしたって、どうしようもない。何も助けにはなってくれない。だけど、どうにかしたい。しないといけないのに。

小さな部屋の中で、パワーが虚しく回り続けるだけで、どこにも辿り着けない感じ。
ひとりだけ、取り残されている。
みんなと同じ様には出来ない、不思議さにも近い、悔しさ。

主人公は物語の中でコロッと完治することなんてないまま、解決には至らないまま、物語は進んでいきます。

でも。それでも腐ることなく、毎日を過ごしていきます。


本作の中で、主人公の2人が病気を抱えたままに、それでも毎日を積み重ねるその様子は、何を諦めて、何を諦めないかを決めていく作業にも見えました。そしてそれは、深刻な様子でもなんでもなく、人との関わりを通して、とても軽やかに進む、明るい作業です。


諦めたくないことは何ですか?
今、自分にとって、大切ではないことは何ですか?

大げさなことでなく、
毎日を送る中で、気づいていけたら、決めていけたら。

思うようにはいかない何かがあっても、迷わずにまっすぐに歩いていけるのかもしれない。

お守りの様に、胸にきゅっと抱きたくなる本でした。

本文より
「すごいですね。体って。」
「本当に。中耳炎になったって、穴開けて手術したって三日くらいで復活するもんね。」
「全てではないだろうけど、回復させる力が僕らにはあるんですね。」
「うん。そうだね。」
藤沢さんはにこりと笑った。

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