見出し画像

自分が「はっきりわかっていること」だから、相手に「はっきり伝える」ことができる。──編集家 松永光弘氏 勉強会レポート

文章・発信のプロを招いて勉強会を開催


こんにちは。BIZAN PROJECTパートナーの富士通Japanクロスインダストリービジネス本部、片岡小百合です。

テキストによるコミュニケーションが当たり前になったいまの社会では、ビジネスシーンでも、プライベートでも、「文章」が果たす役割がますます重要になってきています。そこでの伝えかたひとつで、周囲との関係性が変わったり、自分が取り組んでいる活動に広がりや新たな展開が生まれたりもする。文章を書くことは、私たちにとって無視できない営みのひとつ、です。

そんな「文章を書いて伝える」をテーマに、去る9月25日、富士通Japan徳島支社にて『伝わるように、伝えよう。〜 書く前に考えておきたい3つのこと 〜』という勉強会を開催いたしました。今回はそのレポートをお送りします。

講師は、BIZAN PROJECTの立ち上げだけでなく、公式noteの設立も半年にわたって支援してくださってきた編集家の松永光弘さん。松永さんは本の編集だけでなく、多数の企業のアドバイザーとして広報発信、ブランディングなどにもかかわっておられるほか、ご自身でも著者として本を出版されたり、記事を書かれたりもしています。

いわばプロフェッショナルとして、いろんな文章や発信の「監督・実践」の両方を手がけている希有な人。勉強会ではその立場から、伝えるために大切なポイントや考えかたについて、わかりやすくご説明いただきました。

当日の資料より

この記事では、そのなかから松永さんが「文章で伝えるときのネックになりやすいポイント」として挙げられた「3つの誤解」のうちのひとつをご紹介します。

「うまい文章を書けば伝わる」わけじゃない


松永:
「文章を見てほしい」といって原稿をもってこられたときに、それを書いた人とあれこれ話をしていると、いくつかの誤解が「伝える」の邪魔をしていることに気づきます。そのひとつが「うまい文章を書けば伝わる」です。要するに「自分の文章は下手だから伝わらない」と思っている人が多いんですね。

もちろん、「書きかたのうまさ」が重要でないとはいいません。ただ、文章を書くうえでは「書きかたのうまさ」は最重要課題ではないんです。すごくロジカルに書いてあったとしても、文法的に非の打ちどころがなく正しかったとしても、文豪が舌を巻くような美文であったとしても、それだけで読む人に伝わるものになるわけじゃない。逆に、多少論理がしっかりしていなくても、文法的にあやしくても、稚拙な文章であったとしても、読む人に納得してもらったり、共感してもらったりすることはできます。

たとえば(これは文章についての話ではありませんが)、カフェでコーヒーを飲んでいたら、となりの席にいるサラリーマン風の中年の男性が部下らしき若い女性に、こんな話をしているのが聞こえてきたとします。

「やっぱりさびしそうだよね、最近の田中さん」

「でも、奥さんはいままでよくこらえていたと思う。しかたないよ」

「ギャンブルに2000万円はやりすぎたよね」

これだけでなんの話か、わかりますよね。すごくロジカルに話しているわけでもないし、話も断片的で、情報量として十分とはいえない。もっといえば、肝心なことはなにも言葉にしていません。それでもこの会話から「田中さんはギャンブルにハマって奥さんに愛想をつかされ、逃げられた」ということがわかります。

「はっきりわかっている」から伝わる


松永:くり返しますが、いまの会話は、けっして「うまく」話しているわけではないんです。でもちゃんと「伝わる」。なぜ「伝わる」のか。それは話者のアタマのなかで「伝えるべきこと」がはっきりイメージされているからです。

話者が「伝えるべきこと」を明確に意識できていると、必要な情報を見きわめることができますから、話しかたが多少雑でも全体として理解されやすい話になります。でも、話者のなかで「伝えるべきこと」が曖昧なままだと、必要な情報も見きわめられないし、適切な論理も組み立てられません。結果、伝わらないということになってしまう。

同じことは、もちろん「書く」場合にもあてはまります。書き手が「なんとなく」としかわかっていないことは、言葉をつくしても「なんとなく」としか伝わらない。「はっきりわかっていること」だから「はっきりと伝える」ことができるんです。伝わるかどうかは、文章のうまさ以前の問題なんですね。

ですから、文章を書くときはかならず、いきなり書き出すのではなく、まずはメモ用紙などを前にして、自分の考えをよく整理して「伝えるべきこと」をはっきりさせるところからはじめる。意外と書きながら考えようとする人が多いのですが、「伝えるべきこと」をはっきり把握しないまま書くと、先ほどもお話ししたように情報の見きわめができませんから、どうしても迷走しがちになります。

「伝えるべきこと」は、ひとことでいうとなんなのか。仮に長い文章を書かずに、1文だけ書いたとしてもある程度納得してもらえるレベルにまでそれを煮詰めて、整理しておく。書くときには、そういう準備が必要なんです。

(了)

松永光弘(まつながみつひろ)/編集家
1971年、大阪生まれ。「編集を世の中に生かす」をテーマに、出版だけでなく、企業のブランディングやコミュニケーション、サービス開発、教育事業、地域創生などで「人、モノ、コトの編集」に取り組む。企業の顧問編集者の先駆者としても知られる。クリエイティブ書籍編集の第一人者で、手がけた書籍は『「売る」から、「売れる」へ。水野学のブランディングデザイン講義』(水野学)、『広告コピーってこう書くんだ!読本』(谷山雅計)、『しかけ人たちの企画術』(小山薫堂ほか)、『新しい買い物』(無印良品ほか)、『新訳「ドラえもん」』(藤子F不二雄)など多数。自著に『「アタマのやわらかさ」の原理。クリエイティブな人たちは実は編集している』、『ささるアイディア。なぜ彼らは「新しい答え」を思いつけるのか』がある。富士通Japan「地域の新しい伝えかた学校」編集アドバイザー。BIZAN PROJECTではコンセプト策定や公式noteの立ち上げなどにたずさわっている。 Twitter: @mitsuzosan note:  note.com/mitsuzo/