筋肉の起始停止を理解する重要性
こんにちは!AEGYM髙田です。
この note では主に「独学でパーソナルトレーナーになる」をテーマに、今回は筋肉の「起始停止 - きしていし」について考えていこうと思います。
教科書などでは直接的にあまり書かれていないニッチな部分を紹介しています。
別にパーソナルトレーナーは目指してないけど…
という方も、この筋肉の「起始」「停止」については、日々トレーニングをされている方であれば、多少なりとも気づきを得られる内容かと思います。
今回の内容は分類的に「解剖学」の内容になります。
筋肉の「起始」「停止」は解剖学を勉強し始めると、必ず出くわす単語であり、多くの事柄と関連する内容なので、取っ掛かりにくいイメージがあると思います。
これの最大の要因は「イメージが湧かないから」ではないでしょうか。
実際に本物の筋肉を切り開き、手術などを行っている執刀外科専門の先生方は、もちろん初めは机上的に覚えた事と思いますが、今となっては「覚える」とか「理解する」とか、そんな領域では無い気がします。
という事で、この筋肉の起始停止はなるべくビジュアル的に仕組みを考えると分りやすいのではないかと思います。
筋肉の起始停止が分かると…
実は「上腕二頭筋」って上腕に付いて無いじゃん!
とか…
盲点みたいな所に気がつく事ができます。
という感じで、今回は筋肉における「起始停止の重要性」について考えていこうと思います。
筋肉の起始停止とは
そもそも筋肉の「起始」「停止」とは何でしょうか?
単語の説明からすると筋肉が付着している箇所の事を言います。そのうち支点となる始まりの箇所を「起始」反対側の付着部を「停止」と言っています。
やっぱり分かり難いと思いますので、さっそくビジュアルで見ていこうと思います。
上記の「腕のような何か」において水色の点が「起始」と「停止」の役割をする部分です。
どちらが「起始」でどちらが「停止」かは後述します。
上記で言うピンク色の「筋肉のような何か」が伸び縮みする事で関節は動く事ができます。
ショベルカー・ユンボにおける下記の部分と機能的に同じ役目をしているのが筋肉です。
では「腕のような何か」ではなく具体例で話を掘り下げていこうと思います。
下記に示す「大胸筋 - だいきょうきん」という胸の筋肉があります。
教科書的には…
起始:鎖骨、胸骨肋軟骨、腹直筋鞘
停止:上腕骨大結節稜
と書いてあります。
さっそくめちゃくちゃ分かり難いですね(笑)
初めてこれを聞いた場合、個人的にツッコミたくなる点は…
起始3つもあるんすか?
腕側が始まりで起始じゃないんすか?
大結節稜???は!?
という感じでしょうか。
起始停止は、ある1箇所からもう1箇所へ引っ張るような構造だけではなく、複数箇所になる場合があります。
またどちらが(どれが)「起始」で、どちらが(どれが)「停止」なのか問題…これは身体の中心側にある方が「起始」もう一方側が「停止」です。
(後ほど更に詳しく解説します)
また、起始停止を正確に記述する事も大切ですが、理解する上で分かり難くしている要因の一つが付着部位名称の馴染みの無さだと思います。
上腕骨大結節稜ってどこだよ…!と。
丸めに丸めて表すなら…
大胸筋の起始は「鎖骨」「胸の骨」「腹筋の上側」であり、そこから「上腕の付け根」に付いてる。
それくらいの認識でも良いかと思います。
起始停止の仕組み
先程、構造をショベルカーに例えてお話しましたが、筋肉は「起始」側を基準に「停止」側を引っ張る事で関節を可動させています。
個人的にはこの「停止」というネーミングが誤解を生んでいると思っておりまして…
と言うのも、また「大胸筋」を例に考えると大胸筋の主な働きは下記の3つであり、またもや丸めに丸めて一言で表すなら「腕をぶん回す機能」な訳です。
おさらいですが、大胸筋は鎖骨、胸の骨、腹筋の上側から上腕の付け根に付いてる筋肉ですが、上記の「腕をぶん回す機能」において、原則、動いているのは上腕の付け根である停止部だけです。
「動く」のは「停止」
もう日本語として意味が分からないです(笑)
哲学的な何かさえ感じ取れる気がします(笑)
先程、身体の中心側にある方が「起始」もう一方側が「停止」とお伝えしましたが、起始停止の原則として、固定されている軸側が「起始」、稼働する側が「停止」です。
なんでこんな事になっているのかというと、原典の日本語化問題だと思われます。
現代の解剖学や医学は、元を辿ればギリシャ語やラテン語かと思いますが、分かりやすいように英語原典で考えてみます。
起始 - Origin
筋肉の起始は英語表記では「Origin - オリジン」です。
直訳では ”起源” とか "原点" などと言った意味でしょうか。
筋肉の始まりとなる箇所「起始 - きし」という意味では、しっくりくる日本語訳かと思います。
停止 - Insertion
筋肉の停止は英語表記では「Insertion - インサーション」です。
直訳では ”挿入” とか "差し込む" などと言った意味かと思います。
どうにもこちらがしっくりこないですね…。
停止?挿入?差し込み?
これの説明にはまたショベルカー先生に登場して頂くと分かりやすいかと思います。
ショベルカーのアームを動かしている部分が筋肉と同じです、とお伝えしましたが、結局のところ筋肉はシリンダーなのです。
ショベルカーを動かす油圧シリンダーの場合は、シリンダー内部の油圧が引き抜かれて減圧される事で、ピストン側が中に挿入・差し込まれて可動しています。
しかし実は筋肉の場合であっても、筋フィラメントという細かい内部組織にまで目を向ければ、ほとんど油圧シリンダーと同じ動きをしています。
筋肉はアクチンフィラメントと、ミオシンフィラメントの挿入・差し込みによって筋収縮を行っています。
よって、結局のところ筋肉はシリンダーなのです。
ここから、差し込む側(動いてくる側)を「Insertion - インサーション」側として考えている事が分かります。
これがなぜ Insertion = 停止 となってしまったかは不明です(笑)
命名の経緯をご存じの方がいたら教えて欲しいです。
起始停止から何が読み取れるか
仕組みが少し分かってきたところで、じゃあ起始停止を理解すると、そこから何が読み取れるのか。
本題である「起始停止の重要性」について考えてみようと思います。
➊関節の動きが理解できる
まず1つ目は「関節の動きが理解できる」という点かと思います。
またもや大胸筋を例に考えていこうと思います。
大胸筋を先程のシリンダーに置き換えると、下記のようなイメージになるかと思います。
大胸筋は肩関節を動かす働きがある筋肉であり「腕をぶん回す機能」を持っているとお話しましたが、下記のぶん回し機能…
内転&水平内転 ➡ 主に胸骨シリンダー稼働
屈曲 ➡ 主に鎖骨シリンダー稼働
内旋 ➡ 主に腹筋シリンダー稼働
である事が何となくイメージしやすいかと思います。
各シリンダーは最終的に上腕の付け根1点に集中しているので、単独で動こうとすればシリンダーが外れて壊れてしまいます。
ですので基本的にどこかのシリンダーが可動すれば、他のシリンダーも動かざるを得ない訳ですが、メインでどのシリンダーが稼働するかで、関節の動きが予測できます。
起始箇所と停止箇所の位置関係を考えれば関節が動く方向も理解しやすいハズです。
➋効率的なトレーニングを考えられる
もう1つの重要性が「効率的なトレーニング」です。
前段の関節が動く方向ともリンクする話ですが、動かない方向に動かそうとしてはトレーニングとして効果が期待できませんし、何なら怪我の危険性が増してしまいます。
大胸筋は先程のシリンダーの例の通り、よく「上部・中部・下部」などと表現され、鍛え別けが解説されております。
下記はケーブルフライ種目における、この鍛え別け手法ですが、どのシリンダーが稼働すれば、どのような動きになるか理解しやすいのではないでしょうか。
動画左端が一般的なケーブルフライであり胸骨シリンダーが主動の肩関節水平内転的な動きです。
動画中央はハイケーブルフライとでも言うのでしょうか、腹筋シリンダー主導の動きです。
動画右端はローケーブルフライ、鎖骨シリンダー主導の動きです。
このように、どこをどう動かせば、どの関節がどのように動くのか、を明確にイメージしやすくなる事が、筋肉の起始停止を理解するメリットであり重要性かと思います。
あまり知られていない起始停止3選
何となく筋肉の起始停止の仕組みと重要性が伝わったかな、と言うところで、よく見ると面白い、あまり知られていない起始停止2選をご紹介しようと思います。
大腿四頭筋
まずは「大腿四頭筋」です。名前の通り4つの筋肉の総称で…
外側広筋 - がいそくこうきん
中間広筋 - ちゅうかんこうきん
内側広筋 - ないそくこうきん
大腿直筋 - だいたいちょっきん
これら4つを合わせて「大腿四頭筋」です。
停止部は4つとも膝蓋骨に付着する腱および脛骨の粗面です。
簡単に言うと、ヒザおよびスネの上側に付着しています。
起始は4つとも違う箇所に付いており、外側・中間・内側広筋の3つは大腿骨から付着していますが、面白い事に大腿直筋のみ骨盤から付着しています。
レッグエクステンションマシンに代表されるように、膝関節を動かせば鍛えられるイメージがある大腿四頭筋ですが、大腿直筋のみは股関節から動かさないと主動としては稼動しない事になります。
やはりスクワットしかないのか…。
上腕二頭筋
次は「上腕二頭筋」です。
知名度だけで言ったら「腹筋」に次ぐ有名筋肉ではないでしょうか。
上腕二頭筋も名前の通り2つの筋肉に分かれていまして…
上腕二頭筋:短頭 - たんとう
上腕二頭筋:長頭 - ちょうとう
これらを合わせて「上腕二頭筋」です。
停止部はいずれも橈骨がある前腕に付着しています。
起始はやはり2つの箇所に分かれていますが、かなり驚きなのが2つとも肩甲骨に付着しているという点です。
冒頭の序章でもお話しましたが…
「上腕二頭筋」とは名ばかりで、だれも上腕には付着していない、という真実(笑)
他の筋肉との層を見ると、大胸筋と三角筋の下に潜り込むように配置されているので、見かけ上は上腕骨の上側を起点に肘関節を屈曲させるような動作に見えます。
しかし実際は、肩甲骨を起点に前腕(橈骨)を引っ張っているという事になります。
ここから読み取れる面白い事としては、上腕二頭筋のトレーニングにおいて収縮感を得たい場合は肩甲骨と前腕を近づける必要があるという事です。
バーベルカールなどでトレーニングを行う場合、胸を張ったような姿勢(肩甲骨が内転している状態)より、すこし肩を前に出して、肩甲骨で収縮を迎えに行ってあげた方が良い、という事になります。
上腕二頭筋は肩甲骨に付着している、という事は、冒頭で出したイメージ図の「腕のような何か」は、やはり上腕二頭筋ではなく、どこまで行っても「腕のような何か」でしかない、という事ですね(笑)
今回は筋肉の起始停止について雑談的にまとめてみました。最後までお読みいただいた方はありがとうございます!