アニメ化求む!『BIRDMEN』を語りたい!(ネタバレ編)
前回の記事(紹介編)をお読みくださった方、ありがとうございます。今回は、内容に踏み込んで、本作『BIRDMEN』の面白さを語っていきたいと思います。本記事では、個人の主観に基づき、この作品の醍醐味を3つ抜粋し、それぞれ表裏2つの視点から語りたいと思います。今回は、ネタバレをおおいに含む予定ですので、気になる方はぜひ、本作をお読みになってから、戻ってきてください。では、どうぞ。
「SF」ものとしてのおもしろさ
本作は、「鳥男」という、”新種”の存在が中心になる物語です。彼らは、魔法で生み出されたのではなく、現代の科学技術の延長線にある実験や遺伝子組み換え技術などを駆使して生み出されました。本作のおもしろさと恐ろしさが詰まった、生物学フィクションの描き方を、主人公視点の、日常への浸食と、世界を飲み込む「バイオハザード」の二点から見ていきましょう。
表.日常に垂らされた、一滴のSF
なんてことない日常を過ごしていた、主人公は、ある日、大事故に巻き込まれ、瀕死の危機に陥りますが「鳥男」が現れ、彼の血を取り込むことにより、生きながらえます。そこから、”変異”が始まりました。主人公は、同じように変異した、仲間たちと、自分たちを変異させた張本人とも合流し、なんとか日常に戻ろうと努力していくのでした。
この過程が、とても丁寧に描かれることで、リアリティがあると同時に、「変身もの」でよくある、自身の肉体が変わっていってしまうという展開に加えて、精神も変異していくという展開が、オモシロイです。しかも、よくある自我がなくなるとかそういう類ではなく、「同種以外の生物に感情移入が出来なくなる」という、人間に備わる機能がそぎ落とされていくエグイ展開が、静かながらも、インパクトのあるシーンとして描かれます。日常から自分が、徐々に乖離していく展開は、独特の読み応えです。
裏. 世界を巻き込む「変異」の波
主人公たちの日常が変わっていく一方で、世界では大きな波が起こっていきます。とある「科学組織」に生み出された「鳥男」ですが、その技術を持った科学者が離反し、独自に行動をとり始めます。”彼女たち”は、「鳥男」に、世界中のこどもたちを変異させる計画を始めたのです。その計画に、否応なく巻き込まれていく主人公たち。大人たちの思惑、憎しみが数々の事件につながっていき、世界を巻き込む大きな混乱が引き起こされるのでした。
本作の要素である、生物学フィクションは、世界中での”変異”も描かれます。大人だけにやることがエグく、巧妙です。「集団予防接種」「ハブ空港」「犯行声明」など、このキーワードでピンときたら、そういうことです。現実の社会のなにかを投影するような展開は、読者に悲惨さと狂気を訴えかけます。
ストーリー構成のおもしろさ
本作のおもしろさにおいて、ストーリーの作りも外せません。本作では、「烏丸英二」「鷹山崇」という二人が中心的役割を担っています。その二人は、時に共に行動し、時に分かれますが、切っても切れない関係性として描かれます。この二人のそれぞれの視点から本作の物語を見ていくと、かなり対称的に見え、ストーリーの印象がガラリと変わります。
表.運命をねじ伏せる「物語」
こちらは、「烏丸英二」の側から見た物語です。読者は、基本的に彼視点の物語を追いますので、本編はこちらです。かつて彼は、自分にも、自分の周りの「セカイ」にもうんざりしていました。そこから、「力」を得て、仲間を得ることで、自分で「セカイ」が変えられることに気付き、行動していきます。数々の理不尽が、彼や仲間にも襲い掛かりますが、その運命もねじ伏せ、進んでいきます。いうならば、彼の「物語」は、主人公の物語でしょう。
裏. 運命のレールを引く「JOKER」
そしてもう一方の「鷹山崇」の側からの物語。これが、本作に独特のオモシロさを与えてくれています。彼は、作中で謎めいた存在として描かれます。仲間の「鳥男」でありながら、モノローグが描かれず、常に俯瞰して成り行きを眺めています。中盤以降、それに拍車がかかり、なにか未来が見えているかのように発言し、仲間のもとから離れていきました。再会したときの彼は、「もう変わってしまった」と「烏丸英二」は感じて…。
彼は、本作において「Joker」なのです。運命自体が見えていて、どの道を選べばどうなるかがわかっています。しかし、彼自体がその運命の選択はしません。”みんな”の望みを叶える、ひいては主人公”烏丸英二”の願いを叶えるために、運命のレールを引いているのです。
この構造が、オモシロイと思っていて、彼はある意味”作者”と同じ神の目を持っているがゆえに、主人公たちをあるゴールにまで連れていきます。ゆえに作中で起こるピンチは、彼にとってピンチではありません。通過地点に過ぎないのです。実は、本作は彼の引いた運命のレール上の「物語」とも言え、反則のようなキャラクターがいるゆえのストーリーは、なかなか他作品では見られない面白さだと思いました。
"結末"のおもしろさ
ここから先は、本作が完結している物語だから語れる面白さになってきます。作品の結末に触れるような内容を含みますので、ご注意ください!
本作の読後感も筆者は、非常に気に入っているのですが、これもなかなか表裏あって、おもしろいです。「ジョブナイル」を貫いた熱さと、見ようによれば、ある意味「バッドエンド」?な結末を語っていきたいと思います。
表. ひとりの「友」との物語
前回の記事、紹介編でも書かせていただいたのですが、こちらのとらえ方では、「ジョブナイル」を書ききったと言える結末でしょう。この物語では、”二人の少年”が出会い、同じ時を過ごしますが、一人が先に行きます。それをもう一人が追い、追いついたと思ったら、また先へ。それを繰り返す中で、もう一人は、とうとう追いかけることをやめる決断をしますが、その直後、今までよりもっとずっと先へ行くという話を、相手からされます。それは許してしまえば、二度と自分は追いつけなくなる場所に行くということでした。そこで、少年から出た「本音」が、筆者の心を熱くしてくれました。そして、その結末は…。
裏.さわやかな「バッドエンド」
もうひとつのとらえ方では、本作はある意味「バッドエンド」ともいえるのかもしれません。多くの物語で、主人公たちは”人類”のために”人類の敵”と戦います。しかし、本作では、また違ったものが見れるのやも。この結末では、どちらか一方にとっては、”人類”の危機は回避することはできませんでした。しかし、どちらか一方にとっては、見事に自分たちの計画を完遂し、未来へ希望を残す選択をすることができました。なかなかオモシロイ着地を見せる本作。詳細は、ぜひ本編で確認してほしいです。
また、読後感も独特で、起こった事態の大きさと対照的に、読者には「さわやかな」空を見上げたような感覚にさせてくれるのが、印象的でした。
長々と語ってきました、『BIRDMEN』の魅力の深堀りも、そろそろ終わりのお時間です。ここまでお読みくださりありがとうございました。『BIRDMEN』を10年前から読み始め、推してまいりましたが、同志にも出会えずひとりで何度も読み返すばかりでした。前回の記事に反応してくださった方がいたときは、「同志がいた!」と大変うれしかったです。今回の記事は、主観モリモリなものですが、ここまでお読みくださりありがとうございます。もし、少しでも楽しまれたのなら、これ以上の喜びはありません。それでは、また別の記事で!